Weekly Report(5/12):『中期下落トレンドは収束』も『中期上昇トレンド転換』確認には未だ到らず
吉岡 豪麿
この記事の著者
トレーダム 取締役CAO

国内大手金融機関の外国為替取引部門で外国為替、外国証券等のディーラーとして20年、海外金融機関でアセットマネージャーとして15年以上の経験を有する為替のエキスパート。貿易企業の経営者を経て、企業年金基金の資産運用を担当。2021年1月よりCAOとして投資助言部門を担当。

マーケット分析

<『中期下落トレンドは収束』も『中期上昇トレンド転換』確認には未だ到らず>

<テクニカル分析判断>   

●短・中期:上昇サイクル開始のサイン急増。今週もこの勢いを継続できるか否かに要注目

■4/28週は「寄付143.55141.92~145.92:終値144.90前週比+1.59円円安)」の推移

4週ぶりの陽線となった前週から2週連続の陽線。週間レンジは4.00円。

■5/5週は「寄付144.69142.35~146.19:終値145.35前週比+0.45円円安)」の推移

◇3週連続の陽線を形成し、短期的には上昇サイクル入りの可能性が大幅に向上。

冒頭の日足チャートでは「21日MA▲4.32%に2度タッチ(140.00割れ)後に急反発」し、その後も「21日MAを終値で突破/21日MAは今週から上昇に転化し」・「RSI/ストキャスティクスが反発地合いを強め」ており、少なくとも「短期的にはボトムアウト⇒上昇サイクル入り」の可能性が急上昇

◆ただし、本年2月以降強力な上値抵抗線となってきた「52日MA(146.37@5/09)」や「1/10の高値(158.88)からの下降トレンドライン(147.06@5/09=>146.55@5/16)」に急接近しており、これを上抜け出来るかどうかが今週最大の注目点

⇒抜ければ上昇は一気に加速する可能性がある

他方、(2枚目の)週足チャートではこの1年半の間にほぼ同水準で「トリプルボトムが形成」されており、3週連続陽線の意味合いおよび、上記の「短期的にはボトムアウト⇒上昇サイクル入り」の可能性の高まりを強調

◇なお、2022年11月以降5週以上の連続陽線は記録されておらず、週足では今週から来週にかけての推移も注目される

◆ただし、「21週MA(150.57@5/09 => 150.05@5/12)や52週MA(同151.08@5/12)」の水準からの下方乖離は依然大きく、少なくとも前者の水準を回復できなければ「中期上昇トレンドへの回帰」とまでは言えない

●なお、週間変動幅は今週3.84円と前週の4.00円から小幅に縮小

以上より<今週のテクニカル分析の結論>は以下の通り

日足・週足両チャートが示唆する通り、少なくとも「短期的にはボトムアウト⇒上昇サイクル入り」の可能性が急上昇

◆ただし、日足の「52日MA」や「1/10の高値(158.88)からの下降トレンドライン」、週足の「21週MA」など上昇サイクル入りを確認するための上値抵抗線は多い

◇日足での抵抗線突破の可能性は高く上昇は加速するとみているが、21週MAを一気にトライするには依然距離があり「中期上昇トレンドへの回帰」までは言及しづらい

◇いずれにせよ、まずは「日足の52日MA」や「1/10の高値(158.88)からの下降トレンドライン」を上抜け出来るかどうかが今週最大の注目点となろう

=>>>なお、他の金融市場での変動率も引き続き変動率が高止まりしているため、USD円相場でも週間変動幅は比較的高水準の継続が見込まれる

引き続き「過度に予断を持つことなく」変化の兆しを見落とさぬ姿勢を維持した上で、終値が以下の水準を「突破or維持」できるかどうかに注目している

149.01円=21週MA▲0.69%

148.20円=21週MA▲1.23%

147.24円=21週MA▲1.86%

146.82円=21週MA▲2.16%

146.37円=21日MA▲2.46%☆

144.51円=21週MA▲3.69%

143.55円=21週MA▲4.32%☆

>>>上記(上方)(下方)が「抜けると加速する」と思われる水準

~以下では『短期・中期・長期の方向性』についての分析ポイント及び各時間軸での想定レンジをご案内します。(今号の分析は2025/5/9のNY市場終値をベースに実施) ~

以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数

➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド、52MA & 200MA」、RSI等

短期(1週間~1か月)の方向性:上昇サイクル入りの可能性急浮上。今週の展開は要注目

上図は冒頭掲載分を倍の期間に拡大。コメントについては既掲のものもご参照下さい

2度の21日MA▲4.32%にタッチ(140.00割れ)後に急反発し短期上昇サイクル入りはほぼ確実

それでもRSIやストキャスティクスの推移に「上昇の過熱」は全く感じられない

◇一方、本年2月以降強力な上値抵抗線となってきた「52日MA」や「1/10の高値(158.88)からの下降トレンドライン」に急接近しており、これを上抜け出来るかどうかが今週最大の注目点

⇒抜ければ上昇は一気に加速する可能性がある

>>> 想定レンジ=今週:144.30~149.00、今後1ヶ月:143.55~151.80

➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSI等

中期(1か月~半年程度)の方向性:上昇サイクル入り確認に向け、今週の展開は要注目

上図は冒頭掲載分を期間3年に延長したもの (コメントは既掲のものをご参照)

RSI/ストキャスティクスには『底打ちのサイン』が鮮明。3週前の139.89でボトム(F)は完成か

◇2022年11月以降5週以上の連続陽線は記録されておらず、週足では今週から来週にかけての推移も注目される(その可能性があると見ている)

>>>今後6か月間の想定レンジ 135.00~151.50⇒ 142.65~153.75

➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記

長期(半年超~1年程度)の方向性:短期の上昇サイクル転化で超長期上昇トレンド維持なるか

■4月も陰線で『3連続陰線の後は大きめの陽線』という過去4年のパターンは終息し、まだ低変動率が当たり前だった2020年後半以来の「4カ月連続陰線」を形成 

□ただし、中短期では「上昇サイクル入り」の可能性が大きく高まっており、今月から来月にかけては「20ヶ月MAの水準回復」も視野に入りつつある

>>> 今後1年間の想定レンジ = 135.00~156.00 ⇒ 141.75~162.30 =

<ファンダメンタルズ分析判断>

□先週の日米金融市場の変化(下表右端):全体的にはリスクオン展開

◆米国:前週までの反発が一服。債券/株式共に若干の反落

◆日本:金利上昇にもかかわらず、株式は4週連続の上昇

◆USD円:リスクオフ修正続きUSD指数は3週連続で緩やかに反発

前半のテクニカル分析では以下の結論とし、少なくとも「短期的にはボトムアウト⇒上昇サイクル入り」の可能性が高いとしました。

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日足・週足両チャートが示唆する通り、少なくとも「短期的にはボトムアウト⇒上昇サイクル入り」の可能性が急上昇

◆ただし、日足の「52日MA」や「1/10の高値(158.88)からの下降トレンドライン」、週足の「21週MA」など上昇サイクル入りを確認するための上値抵抗線は多い

◇日足での抵抗線突破の可能性は高く上昇は加速するとみているが、21週MAを一気にトライするには依然距離があり「中期上昇トレンドへの回帰」までは言及しづらい

◇いずれにせよ、まずは「日足の52日MA」や「1/10の高値(158.88)からの下降トレンドライン」を上抜け出来るかどうかが今週最大の注目点となろう

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他方、ファンダメンタルズにおいても、グローバルには総じてリスクオン的な要因が多かったように感じました。トランプ関税に端を発した「不確実性の高まり」が懸念される中ではありましたが、内外株式市場の反発がかなり鮮明となってきたためか、ご質問も株式の先行きに対するものが随分減ってきています。

ザックリとグローバルに先週の株式市場を振り返ってみますと、やや跛行色が見られました。

即ち、米国の3主要指数が揃って反落する一方、欧州株は続伸。中でも、独DAX指数は最高値を更新する上昇となりました。他方、本邦についてもTOPIXは前週末比+1.7%、日経平均株価は同+1.8%と4週連続の上昇と極めて堅調であり4月前半の急落のショックから早くも立ち直ったかのような様相を強めています。

通常ならば株式市場の騰落をリードすることの多い米国株が先週反落した要因を考えてみました。

結論として、我々は、足許で「次第に“FRBによる利下げ再開”の目途が立たなくなりつつあること」が、他市場に反して米国株が先週僅かに反落した最大の理由ではないかと認識しています。

先週5/7のFOMC後の会見で、パウエル議長は『トランプ関税を巡る不確実性の高さを理由に当分の間は様子見を続ける』姿勢を強調しました。これを受けて、FF金利先物市場が織り込む利下げ確率は「5/1時点の『6月会合:58%、7月会合:92%』から、先週末5/9時点では『6月会合:17%、7月会合:60%」へと大幅に低下していたのです。

そこで、注目されてくるのがトランプ関税発動後の「インフレの動向」。米国債利回りにも多大な影響を及ぼすと思われるこの要因に有益な示唆を与えそうな経済指標やイベントが、今週は以下の通り目白押しとなっており、注意が必要です。

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(5/13:日銀政策決定会合主な意見(4/30-5/1開催分))

5/13:米 4月消費者物価指数(CPI)

(5/14:独 4月消費者物価指数(CPI)、日本 4月企業物価指数)

5/14:米 ジェファーソンFRB理事・ウォラーFRB理事の講演

(5/15:ユーロ圏 1-3月期実質GDP、英 1-3月期実質GDP)

5/15:米 4月小売売上高、同生産者物価指数(PPI)

    米 5月NY連銀・同フィラデルフィア連銀の製造業景況指数

    米 パウエルFRB議長講演

(5/16:日 1-3月期実質GDP、日 中村日銀審議委員の講演)

5/16:米 5月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値

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なお、既述したパウエル議長の「当分の間は様子見を続ける」背景(理由)については、TRADOM為替アンバサダー/安田佐和子氏が4/21付のweekly reportに続いて今週5/12付でも詳しく取り上げておられる2つのトピックスを抜粋してご紹介したいと思います。

<<<  ―トランプ大統領の「口撃」、パウエルFRB議長解任否定後も止まらず

トランプ大統領によるパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長への「口撃」が止まらない。4月22日、トランプ氏はベッセント財務長官やラトニック商務長官の助言を受け入れ、パウエル氏を解任しないと述べたものの、利下げ圧力は和らぐどころか強まる一方だ。米連邦公開市場委員会(FOMC)が5月7日に据え置きを決定した後には、トゥルース・ソーシャルで「遅過ぎパウエルは、愚か者だ!何もわかっていない…インフレは低下している」と糾弾する始末。米英が貿易協定を締結した会見の場でも、パウエル氏と会談する気があるかとの質問に「壁に話しかけるようなもの」と言及し、パウエル氏との会談は無駄との見方を強調した。

画像:5月8日のトランプ氏によるパウエル議長批判(日付などは日本時間)

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(出所:Donald J. Trump/Truth Social)

トランプ氏が憤懣やるかたなしといった様相だったのは、理由がある。5月FOMCでは、市場予想通りFF金利誘導目標を4.25-4.5%で据え置いた。FOMC声明文の変更点は、主に3つ。1つ目は、景況判断で米1-3月期実質GDP成長率・速報値が前期比年率0.3%のマイナスになったものの、トランプ関税の駆け込み需要で輸入が急増したためとの説明を追加した。2つ目に、経済見通しの不確実性が「一段と」高まったとの文言を差し込んだ。3つ目に、トランプ関税を踏まえ「失業率とインフレの上昇リスクが高まった」との一文を加えた。日銀は、5月1日に展望レポートで、トランプ関税により経済と物価に「下振れリスクの方が大きい」とし、経済見通しの「概ね上下バランス」、物価見通しの「上振れリスクの方が大きい」から下方修正したが、どちらが利上げサイクルにあるのかと見紛うばかりだ。

―パウエルFRB議長、労働市場の「下振れリスクは軽減」と判断

 トランプ氏の怒りを買ったのは、FOMC声明文よりパウエル氏のFOMC後の会見に違いない。同氏は、会見冒頭の経済状況の説明部分にて、4月2日発表の相互関税を始め、これまでの関税措置について「予想をはるかに大きく上回った」と指摘。消費者や企業、専門家のインフレ見通しを「押し上げた」と説明し、「今回発表された大幅な関税引き上げが継続されれば、インフレ率の加速、経済成長の鈍化、失業率の上昇を引き起こす可能性が高い」との見通しを示した。さらに「Fedの政策は適切な位置にある」、「様子を見るコストはかなり低い」、「政策決定に急ぐ必要はない」、「データを注視していく」、「忍耐強くあるのが適切だ」と、動かざること山の如し。早期に利下げを行う地ならしへの示唆を全く与えなかった

 失業率とインフレの上昇リスクの高まりを指摘した一方で、労働市場への警戒はそれほどでもない。パウエル氏は「労働市場は安定的」、「レイオフは高水準で推移しておらず、新規失業保険申請件数も増加していない」と言及。2024年8月にジャクソンホール会合で「労働市場の一段の冷え込みを歓迎しない」と述べた件について質問された際には、「当時は過去1年間で失業率が約1ポイントも上昇し、誰もが経済の下方リスクを懸念し、労働市場に明らかな下振れリスクがあった」とし、現状とは異なると明言した。

 その上で、2019年7月から3回行った予防的利下げとは違うとの見解を寄せ、2024年9月に0.5%で利下げを開始し、同年11月と12月に0.25%ずつの追加利下げを行ったが、これについても「むしろ少し遅過ぎたくらいだ」と言及した。

チャート:米雇用統計・NFPと失業率の推移(過去分は修正値)

グラフ, 棒グラフ

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 確かに、米大統領選を迎えた24年8月に公表された米7月雇用統計は、非農業部門就労者数(NFP)が前月比11.4万人増(後に下方修正)と3カ月ぶりの低い伸びにとどまり、失業率は4.3%と2021年10月以来の水準へ上昇した。失業率自体、2022年4月の3.4%から0.9ポイント急伸したことは間違いない。しかし、当時は2022年3月からの24年7月までの利上げサイクルの最中にあっただけに、失業率の上昇はある意味、必然だったと言える。

 何より、振り返ってみれば当時の米7月雇用統計の弱含みはハリケーン「ベリル」の影響が大きい。米新規失業保険申請件数でいえば、7月平均は23.7万件だったが、11月には21万件台まで減少していた。むしろ、継続受給者数は直近で190万人を超え、2021年11月以来の水準へ増加し、関税による経済下押しが懸念されるなかで、2024年8月と比べ、パウエル氏がFOMC後の会見で言うほど、労働市場の「下振れリスクが大きく軽減」しているかは疑問が残る

チャート:米新規失業保険申請件数の推移

グラフ

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>>>  以上、安田佐和子氏の5/12付weekly reportより一部抜粋

さて、上記トピックスでも触れられていますが、パウエルFRB議長は「様子見継続」の背景となった景気(雇用)の認識について「労働市場の『下振れリスクは大きく軽減』した」と言明されています。一方で、安田氏が列挙されているデータからは「そうとは言い切れない」と指摘されています。

我々は基本的に「Do not fight with FED」のスタンスですが、当レポートでも以前から指摘している通り、時折パウエル議長の分析やロジックに違和感を抱くことがあります。

今回の労働市場に対するパウエル氏の認識もその一例といえるのではないでしょうか。

足許の労働市場では『3月の求人件数が719.2万人に低下する一方で、4月の職を求める失業者数は719.6万人と2021年4月以来初めて労働需給が逆転』しており、労働市場が急速に悪化する兆候が顕現化し始めているといえます。また、足許の景気状況を踏まえれば『今4-6月期には実質GDP成長率が実質FF金利(現在1.7%)を下回る』可能性がかなり高いと考えられます。仮にそうした状態に陥った場合は『金融環境面からも急速に景気が悪化する恐れ』が高まるでしょう。

「Mr. too late」のパウエル氏が率いるFOMCですから、現在の金利先物市場が織り込む通り「政策金利は6月も据え置き」となる可能性が高いと考えられます。しかし、早ければ、7月のFOMCにおいては『様子見』から『live(政策変更の可能性あり)』に変化する可能性は充分にあると思われます。

もちろん、FRBのもう一つのマンデートである『インフレの抑制』との兼ね合いにはなりますが、パウエル議長が『様子見』を続けられる時間は(ご自身が考えておられるよりも)それほど長くないのかもしれません。

今後もまだまだ紆余曲折が予想される金融市場ですが、ひと月前と比較すると精神的にかなり前向きになれるようになってきたと感じています。

ただし、状況の好転に安堵し過ぎることなく、今後とも「過度に予断を持たず変化の兆しを見落とさぬ姿勢を継続」して金融資本市場を引き続き注視してゆく所存です。

お知らせ:今週も一部ご紹介しましたが、米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに短期を中心としたUSD円相場見通しについては、トレーダム(※)為替アンバサダーでもある安田佐和子氏のレポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。TRADOM会員の方々はサイト内で是非ご参照下さい。

<(※):ジーフィット株式会社は2024/10/1より「トレーダム株式会社/TRADOM Inc.」に社名を変更しました>                              2025/5/12

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