「EU 50%関税発動・延期」朝令暮改のトランプ政権
関口 宗己
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。
市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。

為替の仕組み

トランプ米大統領によるSNSでの「EU 50%関税発動」表明や、週末を挟んだ即座の関税発動「延期」に金融マーケットが振らされています。ユーロドルは下押し後に揺り戻しましたが、背景には交渉カードとして「関税発動」をちらつかせて朝令暮改を繰り返すトランプ政権への不信を理由としたドルの信用失墜もあるようです。SNSなどによるトランプ氏の発言で上下する状態はまだ続くでしょう。


トランプ氏「EU 50%関税発動」SNS投稿、週末の市場を荒らす


先週末の米現地23日早朝(日本時間20時30分過ぎ)、トランプ米大統領が「6月1日から欧州連合(EU)に50%の関税を課すことを提案する」と自身のSNSに投稿しました。中国に次ぐ対米貿易黒字(米国の貿易赤字)を抱える大きな経済圏に対する高率な関税発動の悪影響を嫌気して、金融マーケットではリスク回避の動きが先行する格好となりました。

買いが先行していた欧州株はアメリカによる「EU 50%関税発動」を受けて一転下落。イギリス株・ドイツ株ともには続落しました。

アメリカ株も売られています。ダウ平均は4日続落、ハイテク株の比率が高いナスダック総合株価指数は反落となりました。

為替市場ではユーロ売りが強まりました。ユーロドルは1.13ドル後半から一時1.13ドルの節目を割り込んでいます。



ただ、ユーロドルは同日中に1.13ドル後半に持ち直して週の取引を終えています。イギリスが週明けにスプリングバンクホリデー、アメリカがメモリアルデーの休日となる3連休を控えて積極的に下攻めする勢いに欠け、同日アジア時間につけた1.1280ドル前後を下抜けるような動きにまではならず揺り戻して週引けとなりました(図表参照)。 

さらに週明けはトランプ米大統領の「EUへの50%関税発動、7月9日まで延期」との発言が伝わると、警戒感後退によるユーロ買いが強まり、ユーロドルは1.14ドル台を回復しました。欧米株にも買い戻しが入りました。

トランプ大統領の「EU 50%関税発動」表明から「延期」への流れを受け、この局面にメディアで目についたのは「朝令暮改」との言葉です。「EU 50%関税発動」表明でかまして通商交渉のカードとしてちらつかせ、関税発動を「延期」している間にディールを有利に運ぼうとする姿勢を非難する論調です。

「EU 50%関税発動」表明後のユーロ売り・ドル買いもそこそこに買い戻しが入り始め、週末を挟んで「延期」を受けてユーロ高・ドル安が進んだ背景には、「朝令暮改」で政策の行方が定まらないトランプ政権への不信感を理由としたドルの信用失墜との見方もあるようです。

この不信感は今回の「EU 50%関税発動・延期」に始まったことではなく、カナダ・メキシコや中国との関税交渉における「朝令暮改」も経て、金融マーケットや企業がつのらせてきたものです。企業は通商交渉の方針が定まらないことで経営戦略を定めて投資を行うことが困難になっています。

高飛車なトランプ政権との通商交渉の行方次第の状況といえいます。為替ほか金融マーケットがSNSなどによる突発的なトランプ発言に振らされる不安定な状態がまだ続きそうです。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2024年5月28日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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