「英利下げ余地」不安定になってきたポンド
関口 宗己
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。
市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。

為替の仕組み

6月の英金融政策発表についての市場予想はまだ出そろっていませんが、中銀高官の慎重さを感じる姿勢からすれば政策金利は据え置かれることになるでしょうか。さらに注目すべきは今後の「英利下げ余地」が大きく残されている点です。米・英関税交渉の早期決着でポンド相場が強含む場面があったものの、英経済見通しが思わしくなく利下げ余地も残されているなか、不安定に振れる局面が目立ってきました。段階を踏むにせよ利下げがまだ進む可能性のある英金融政策の行方を注視すべきでしょう。



6月19日にイングランド銀行(BOE、英中央銀行)が金融政策を発表します。前回5月の会合では政策金利を25bp(ベーシスポイント、1bp=0.01%)引き下げ、4.25%としていました(図表1参照)。 

6月会合の市場予想はまだ出そろっていませんが、BOE議事要旨では「漸進的かつ慎重なアプローチを指針とする」とされていました。1会合様子をみつつ行動する足もとの利下げパターンからすると、今回は様子見を挟むターンとなるでしょうか。

ちなみに前回会合については、「世界経済の環境は、過去と比較して、引き続き困難で予測が難しくなる可能性が高い」と述べたことに着目して、米関税政策がもたらす不透明感を理由の1つとして注目する論調が目立っていました。しかし3日のベイリーBOE総裁の発言によれば「5月の金利決定の主要因は関税ではなく国内情勢」としていました。

国内情勢については、金融政策発表とともに公表された英金融政策委員会(MPC)議事要旨で「国内の物価・賃金圧力のデフレーションは概ね継続」との見解が示されています。3日、ベイリー総裁からも5月会合後の会見でも述べた見解と同様の「ディスインフレのプロセスが着実に進んでいると確信」との発言が聞かれました。



6月会合の金融政策の変更の有無だけでなく、より注目すべきは今後の「英利下げ余地」についてでしょう。利下げ余地が見え始めてきた欧州中央銀行(ECB)との差が意識されそうです。

ECBは5日の金融政策理事会で政策金利の25bp引き下げを決定し、主要リファイナンス・オペ金利)を2.15%としました。そして現状で主要な政策金利の1つして注目されている中銀預金金利を、ECBが1.75%から2.25%の間にあるとしている中立金利の水準中間値となる2.00%に設定しています(図表2参照)。

ECBに関しては中立水準レンジまですでに利下げが進んでいます。米・欧州連合(EU)関税交渉が思わしくない結果となりユーロ圏経済に悪影響が出て場合には「中立レンジ下限を下回る1.50%程度まで利下げが進むことも考えられる」(シンクタンク系エコノミスト)との見方があります。とはいえ25bpずつとして、あと2会合分程度と当面の利下げ余地は限られてきた感があります。

一方でBOEの金利はまだ比較的高い水準にあり「イギリスの方がEUよりも利下げ余地がある」(同)とみられています。先行して米国との関税交渉がまとまったことで、イギリスの通貨ポンドへの買いが先行する場面もありましたが予断を許さない状況ともいえます。

「EU諸国が財政出動に動こうとしているが、イギリスはトラス(元英首相)・ショックなどの余波で余裕がない」(同)とされ、前政権が残した足かせが今後の景気刺激策の実施を難しくしています。

早期に関税交渉がまとまったことや、イスターシーズンに温暖な気候に恵まれたことによってセンチメント系ほかの経済指標が上振れたこともあって、ポンド相場が強含んで推移する場面もありましたが、ここへきて不安定な振れも目立ってきました。足もとでは先週末6日や、今週10日に、これまで積み上げてきた上昇幅を急速に縮小するような局面がありました(図表3)。

利下げ余地だけで推し量ることに難しさもありますが、段階を踏むにせよ利下げが大きく進む可能性のあるBOEの金融政策の行方に留意する必要がありそうです。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2024年6月11日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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