ドル円、8月は円高アノマリー(水星逆行)
山下 政比呂
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

証券会社で株式・債券の営業、米系銀行で為替ディーラー業務(スポット、スワップ、オプション)に従事。プライベートバンクでは、為替のアドバイサーとして円資産からドル建て資産への分散投資を推奨してきたドル高・円安論者。「酒田罫線法」「エリオット波動分析」「ギャン理論」などのテクニカル分析をベースに、ファンダメンタルズ分析との整合性を図り、相場観を構築。2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

為替の仕組み

2025年の第2次トランプ米政権(2025年~2028年)でのドル円は、エリオット波動での「第4調整波動」による「三角保ち合い」を予想します。

現状のドル円は、2024年7月の高値161.95円を頭とする「ヘッド・アンド・ショルダー」を形成中であり、ネック・ライン(※140.25円~139.58円~4月:139.06円~5月138.98円)の下抜けにより完成します。

ドル円のエリオット波動分析では、第4調整波動のX波動を形成中だと思われます。

ヘッド・アンド・ショルダーが完成した場合、三角保ち合いの起点である127.23円付近までの続落が想定されます。

【戦術(2025年8月5日週)】

ドル売り:@148.00円&149.00円 ⇒ ストップロス@150.00円

1.2025年8月のリスクシナリオ

金融市場では、8月は市場参加者がバカンス気分で油断しているせいなのか、金融危機に襲われがちな季節としてトラウマになっています。

今年の8月は、2008年9月のリーマンショック、2020年2月のコロナショック、2024年8月の令和ブラックマンデーなどに符号した水星逆行(Mercurial retrograde)が予定されており、警戒感が高まっています。

すなわち、地政学リスクの激化(ウクライナ戦争や中東紛争)、8月21-23日のジャクソンホール会合を控えてトランプ米大統領が次期FRB議長を指名する可能性、習中国国家主席が8月27-30日に開催予定の党中央委員会第4回全体会議で引退する可能性などに要警戒となります。

・1日:米7月雇用統計ショック

・8日:クーグラーFRB理事辞任⇒ハト派のFRB理事

・11日:下院監視委員会でのマックスウェル受刑者の証言(エプスタインファイル)

・21-23日:ジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)

・27-28日:中央委員会第4回全体会議

2.「8月の円高」というトラウマ

■ イラクのクウェート侵攻

1990年8月2日、イラクのフセイン政権は、クウェートに侵攻した。1991年1月17日、多国籍軍によるイラク空爆により湾岸戦争が勃発しました。

ドル円は、8月2日の高値151.60円から10月の123.70円まで下落しました。

■ アジア通貨危機

1997年7月、アジアの新興国諸国で一斉に通貨が暴落し、8月にかけてアジア全体が不況に陥った。ドル円は、5月の高値127.48円から、6月には110.61円まで下落していました。

■ ロシアショック

1998年8月17日、ロシア政府は、対外債務の90日間の支払い停止を宣言しました。

ドル円は、8月11日の高値147.64円から9月11日の128円台まで約20円下落しました。

■ パリバショック

2007年8月9日、仏銀行最大手のBNPパリバ銀行傘下のミューチュアルファンドが、サブプライムローンの証券化商品の混乱により解約を凍結されました。

ドル円は、8月9日の119円台から8月17日の111円台まで下落しました。

■米国債格下げ

2011年8月5日、米格付け機関スタンダード&プアーズが、アメリカの長期発行体格付けを『AAA』から『AA+』に格下げした。当時、米国議会は、米国債務上限の引き上げを巡る問題で紛糾しており、デフォルト(債務不履行)のリスクが警戒されていました。

ドル円は、80円前後から10月31日の変動相場制移行後の最安値75.32円まで下落しました。

■中国人民元切り下げ

2015年8月11日、中国人民銀行は、中国人民元の対ドル基準値を前日比1.9%切り下げ、その後12日、13日と3日間で約4.7%の中国人民元切り下げを断行しました。

ドル円は、125円台から月末の116円に向けて約9円下落しました。

■米中貿易・通貨安戦争の勃発

2019年8月1日、トランプ大統領が対中制裁関税第4弾を9月1日から発動する、と表明し、中国商務省は、国営企業に対して米国産農産物の輸入停止を要請し、報復関税措置の発動を表明したことで、米中貿易戦争が再燃しました。さらに、中国人民銀行が、ドル・人民元が1ドル=7元以上に上昇することを黙認したことで、人民元安誘導という「為替操作」の思惑が強まり、米財務省は中国を「為替操作国」に認定し、米中通貨安戦争が勃発した。ドル円は109.32円から104.46円まで下落しました。

■令和のブラックマンデー

2024年8月5日、日経平均株価は4451.28円(▲12.40%)下落して、1987年10月20日の「ブラックマンデー」の下げ幅3836.48円(▲14.9%)を上回り、「令和のブラックマンデー」となった。NYダウは、1033.99ドル(▲2.60%)下落しました。

ドル円は、7月3日に到達した1986年12月以来の高値161.95円から、141.70円まで約20.25円下落しました。

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