【円安は止まらない?】18.3兆円経済対策が景気回復の決定打にならない理由
藤崎 竜也
この記事の著者
独立系ファイナンシャルプランナー

「独立系ファイナンシャルプランナーとして執筆業を中心に活動中。2019年から教育資金や老後資金を蓄えるために投資を始める。実体験をもとに、専門用語をわかりやすく解説するのが得意。2級ファイナンシャル・プランニング技能士資格を取得し、現在は金融ジャンル(資産運用・投資・不動産・保険)をメインに執筆している。

為替の仕組み

「アメリカは金利を下げ始めたのに、どうして円安が止まらないの?」

「ニュースで21兆円の経済対策って見たけど、また物価が上がるの?」

スーパーで買い物かごを持ちながら、値札を見てため息をついている方も多いのではないでしょうか。

2025年に入り、アメリカが利下げを開始したにもかかわらず、ドル円相場は155円台を突破。私たちの生活実感としては物価高が一向に収まりません。

以下のグラフは、過去5年間のドル円チャートです。

参照:Trading View

この記事では、先日発表された「高市政権の補正予算」の中身を紐解きながら、なぜ円安が止まらないのかを考察。そして、今回の経済対策が景気回復の決定打にならないと私が考えている理由について、その理由を詳しく解説します。



これまでの円安は「アメリカの金利が高く、日本の金利が低い」ことが主な原因でした。

実際、アメリカ(FRB)は2024年後半から段階的に利下げをスタートさせています。教科書通りなら「日米の金利差が縮まって円高に戻るはず」ですよね。

しかし、現実は155円台を突破しました。なぜなら、市場の注目が以下の2点に移っているからです。

①アメリカ経済が強い: 利下げはしたもののアメリカの景気が予想以上に良く、金利が思ったほど下がらない。

②財政への懸念: 高市政権が積極財政の姿勢を見せているため、円の価値が薄まると見られているのです。



ここで重要になるのが、先日閣議決定された補正予算です。

ニュースではPB(プライマリーバランス)黒字化目標という言葉と17兆円の経済対策という言葉が同時に出てきて混乱しませんか?

実はこれ、日本の予算の常套手段なのです。

・春の本予算: 国の借金を減らす目標(PB黒字化)があるため、財布の紐を固く締めて「健全な財政」をアピールします。

・秋の補正予算: 経済対策という名目で、本予算で組めなかった予算をここで計上します。

つまり、表向きは節約して補正予算で大きく使うという予算組みをしているのです。

これが高市政権が掲げる積極財政の正体であり、市場が「日本はまた借金を増やして円を市場に溢れさせる気だ」と判断し、円売りを加速させている一因なのです。



「国の借金とか難しいことはいいから、家計の足しになるの?」

ここが一番気になりますよね。今回の18.3兆円の中身を見ると、生活に直結する支援策も盛り込まれています。今回の補正予算で組み込まれた経済対策は以下の3つです。

①子育て世帯への給付: 0歳~高校生まで1人あたり2万円(「物価高対応子育て応援手当」)

②食費支援: お米券や電子クーポンの配布

③光熱費・ガソリン対策: 電気・ガス代の補助継続やガソリン税の一部引き下げ

これらは一時的な生活の補助としては助かります。しかし、継続的な経済効果について、私は疑問を感じています。

正直、今回の経済対策に対する率直な感想を言わせていただくと、期待外れであると言わざるを得ません。

18.3兆円という金額は確かに巨額です。しかし、その中身の多くは給付金や補助金といった一時的な延命措置に偏りすぎています。

物価高の痛みを和らげることは重要ですが、あくまで「マイナスをゼロに戻そうとする作業」に過ぎません。日本経済が本当に必要としているのは、新しい産業を生み出し、継続的に給料を上げることで日本全体の稼ぐ力を強化する成長投資です。

また、一時的な給付金だけでは、円安基調を逆転させることは難しいと考えます。将来の稼ぐ力を生まないまま借金をして現金を配るだけの政策を、海外投資家は「日本経済の弱さ」と見なすからです。

厳しい言い方になりますが、これだけでは「景気回復にはたどり着けない」というのが、私の見立てです。



アメリカの金利が下がり始めた今、これからの円安は「日本の政策次第」という新しいフェーズに入りました。

【メインシナリオ:1ドル150円~155円で高止まり】

政府の経済対策で一時的には助かりますが、上記のような構造的な弱さから円安基調は変わりません。スーパーの食品価格やガソリン代の「元値」は高いまま推移します。

「給付金をもらったけど、結局物価高で消えた」という状況が続く可能性が高いでしょう。

【悪いシナリオ:1ドル160円突破】

もし市場が「日本の財政は緩みすぎだ」「成長戦略がない」と失望し、さらにアメリカ経済が再加速した場合、円は160円を超えて売られるリスクがあります。こうなると、輸入物価がさらに跳ね上がり、給付金程度では対応しきれなくなるリスクがあります。



政治や為替をコントロールすることはできませんが、自分の家計を守ることはできます。

①給付金は将来の資産に回す

今回の子育て給付金などは、外食やレジャーで使い切るのではなく、将来の物価上昇に備えて「変動費の穴埋め」や「積立」に回すのが賢明です。

②お米券などの現物支援をフル活用

現金の価値が下がる局面では、お米やガソリン補助といった現物給付の支援は助かります。申請忘れがないよう、自治体の情報をこまめにチェックしましょう。

③資産を円だけで持たない

高市政権下で円安が進むなら、銀行に円を預けておくだけでは資産が目減りします。

新NISAなどを活用し、「全世界株式(オルカン)」など外貨建ての資産を持つことは、日本の財政リスクに対するヘッジとなります。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2025年12月11日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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