【完全版】Weekly Report (3/27):  「ドル円、金融不安根強く引き続き戻りは限定的で129.50円割れのリスクも」
安田 佐和子
この記事の著者
ジーフィット為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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Executive Summary

  • 3月20~3月24日週のドル円の変動幅は3円36銭と、その前の週の3円56銭とから小幅に縮小も、ドル円は下値を拡大。ドル円は約1カ月ぶりに130円を割り込んだ。
  • 3月21~22日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場予想通り0.25%の利上げを決定。FF金利見通し・中央値では年内あと1回の利上げの可能性が示唆された。しかし、金融不安が市場を席捲するなか、FF先物市場では7月の利下げ転換、年内は7月を含め4回利下げが織り込まれている。
  • ドル円は、イエレン財務長官による全額預金保護をめぐる発言で乱高下する場面もみられた。
  • 一方で、米銀破綻の余波は大西洋を越え、クレディ・スイスだけでなくドイツ銀行にも波及。社債の早期償還を発表した同行だが、株価が急落するなど金融不安が再燃した。一連の結果を受け、ドル円は一時129.64円まで下落。ただし、同日にFOMC参加者が3名、銀行危機は利上げを妨げるものではないと発言したこともあり、下げ幅を縮小し130円台へ戻して週を終えた。
  • 今後1週間は、シリコンバレー銀行の売却先が決定したこともあって一旦落ち着き、ドル円が買い戻される場面がありそうだ。ただし、リーマン・ショック時を振り返ると、中小規模の銀行からの預金流出が続くな度金融不安がくすぶるなか、戻りは限定的だろう。
  • 以上を踏まえ、今後1週間のドル円の上値の目途は一目均衡表の転換線がある132.50円、逆に下値は、1月安値と3月高値の78.6%戻し、129.50円割れの129円付近が視野に入る。

1. 先週の為替相場の振り返り=ドル円はイエレン発言に一喜一憂しつつ、ドイツ銀の株価急落で130円割れ

【3/20-3/24のドル円レンジ:129.64~133.00円】

・3月13日~17日週のドル円の値幅は3円36銭と、その前の週の3円56銭を小幅に下回ったとはいえ、引き続き金融不安が市場を席捲するなか、安全資産である米国債に資金が流入(金利は低下)すると共に、ドル安・円高の流れが続いた。なかでも今週は、イエレン財務長官の発言を受けて一喜一憂する動きに終始。また、ドイツ銀行がTier2劣後債を早期償還するとの決定を発表したにも関わらず、株価が急落、同行の債務不履行(デフォルト)に対する保証料を示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)も急上昇し、金融不安の根強さを確認した。

・3月21日、イエレン財務長官は米銀行協会(ABA)にて「中小規模の金融機関が預金流出に直面し、波及のリスクが生じるような場合は、(全額預金保護といった)同様の行動が正当化されうる」と発言し、ドル円は買い戻された。シリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行に対する全額預金保護について、3月16日に「保険対象外の預金を保護しなければシステミック・リスクが生じ、経済と金融に重大な影響を及ぼすと判断した時のみ」と発言していたため、軌道修正と受け止められ好感された。また同日、ロイターが米議会承認を得ずに、足元の“1口座につき25万ドル”という保護の上限引き上げを政府当局者が議論していると伝え、市場関係者の間で全額預金保護への期待が高まった。

・3月22日のNY寄り付きのタイミングでは、一時133.00円まで上昇。しかし、イエレン氏が上院歳出委員会小委員会の公聴会で、全面的な保護に対し米議会の承認が必要となるかの質問に対し「預金全額保護など、私は検討や議論などしていない」との立場を表明したため、ドル円は下落に転じた。

・3月FOMCでは、市場予想通り0.25%の利上げを決定。経済金利見通しでは、年内あと1回の利上げが見込まれた。ただし、声明文では「「適切となる可能性(may)がある」とし、これまでの「適切となるだろう(will)」から修正されており、据え置きの余地を残した。こうした内容も、ドル円の売りを招いた。

・イエレン氏は3月23日、下院歳出委員会小委員会の公聴会に出席し、再び立場を変え「正当化される場合、当局には預金保護で追加措置を講じる用意がある」と述べた。前日の上院での証言内容と異なる新たな文言が追加されており、バイデン政権と米財務省が市場の動きに配慮した可能性を示唆した。

・3月24日は、ドイツ銀行がTier2劣後債を早期償還するとの決定を発表するなか、株価が一時15%安と新型コロナウイルス感染拡大直後の2020年3月以来の大幅下落を迎えた。さらに、同行のユーロ建て優先債CDSも取引が開始された2019年以来で最高水準を記録。従来、社債の早期償還は財務の健全性を示すが、金融不安が高まるなかでは好感されるどころか疑心暗鬼を生んだ格好だ。その過程で、ドル円は約1カ月ぶりに130円を割り込み、一時129.64円まで下落。ただし、1月16日の安値127.22円と3月7日の高値133.00円の78.6%戻しにあたる129.50円付近の手前で下げ止まりをみせた。

・ドル円は同日、130円後半まで切り返した。イエレン氏が金融安定監視評議会(FSOC)の緊急会合を開催するため米金融監督当局の責任者らを招集したとのニュースが好感された。また、セントルイス連銀のブラード総裁やアトランタ連銀のボスティック総裁、リッチモンド連銀総裁がなどから「迅速な米当局の対応によりインフレ抑制に専念できる」、「銀行危機は利上げを妨げるほどのものではない」と、金融不安を火消しする発言が相次ぎ、ドル円の買い戻しにつながった。

チャート:ドル円の日足チャート、2月半ばからの上昇を概ね打ち消す展開(白い枠が3月13日週の動き)。

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(出所:Tradingview)

2. 主な要人発言

・今週は、SVBなどの米銀破綻やクレディ・スイスの経営難問題を受け、金融不安を抑制する各国当局者の発言が目立った。

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