【完全版】Weekly Report (4/3):「ドル円、金融不安後退から買い戻しに反転―米3月雇用統計で次の方向試す」
安田 佐和子
この記事の著者
ジーフィット為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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Executive Summary

  • 3月27~3月31日週のドル円の変動幅は3円19銭と、その前の週の3円36銭から引き続き小幅に縮小しつつ、ドル円は買い戻しの展開。ドル円は一時133.59円と2週間ぶりの水準を回復した。
  • シリコンバレー銀行(SVB)の買収先が決定したため、投資家心理が改善し金融市場はリスク・オンが復活。ダウ平均など主要米株指数などリスク資産はそろって、シルバーゲート銀行が同事業の清算を発表した3月8日以降の下落を打ち消した。
  • リスク・オン相場の流れにつれ、ドル円は買い戻し。米連邦準備制度理事会(FRB、Fed)の高官が金融不安を受けながら利上げ継続を示唆したことも、ドル円の上昇につながった。
  • 今後1週間は米3月雇用統計の発表を4月7日に控え、それまで模様眺めの展開か。ドル円はMACDがゴールデン・クロスを形成し、100日移動平均線と一目均衡表の基準線がある133.80円をクリアに抜ければ、135円台の回復が視野に入る。
  • ただし、米銀の株価指数が未だ低迷するように金融危機のリスクが全て払しょくされたわけではない。米10年債利回りも、3月7日以降、低水準で推移している。また、米2月PCE価格指数は、コアも含め市場予想と前月をそれぞれ下回り、インフレ鈍化トレンドを確認。FRBは利上げを継続しても、現状ではあと1回と想定される。従って、ドル円の戻りは限定的だろう。
  • 以上を踏まえ、今後1週間のドル円の上値の目途は3月15日の高値付近の135.20円、下値は一目均衡表の基準線がある131.10円と見込む。

1. 先週の為替相場の振り返り=ドル円は133円台を回復、金融不安後退で

【3/27-3/31のドル円レンジ:130.40~133.59円】

・3月27日~31日週のドル円の値幅は3円19銭と、その前の週の3円36銭を小幅に下回った。シリコンバレー銀行(SVB)やシグネチャー銀行の経営破綻を受けた金融不安が後退するなか、両行の買収先が決定したこともあって、リスク・オン相場が復活。ドル円は円安・ドル高へ方向転換した。

・3月26日、米預金保険公社(FDIC)は経営破綻したSVBについて、ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズ(以下、ファースト・シチズンズ)による買収で合意したと発表した。SVBの資産1,100億ドル、預金560億ドル、ローン債権720億ドルを引き受ける。ただし、FDICによれば、ファースト・シチズンズはSVBの資産720億ドルを165億ドルのディスカウントで購入する。また、900億ドル相当の米国債などの有価証券は、FDICが引き続き保有する。商業ローンをめぐっては、FDICとファースト・シチズンズとの間で損失分担契約を結んだ。入札が難航していたが、破綻から約2週間を経て漸く決着した。

・ファースト・シチズンズの総資産は2022年末時点で1,104億ドルと、同じく破綻したシグネチャー銀行に次いで米30位だった。今回、SVBの買収により総資産規模は2,190億ドルへ増加し、14位に躍り出る見通しだ。

チャート:ファースト・シチズンズの株価、3月27日に大きく窓を開けて急伸、株価は2倍近くに

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・3月27日以降、SVB買収を受けてドル円は投資家心理が好転し買い戻し基調に。28日に予定する米上院銀行委員会向けの議会証言原稿が事前に発表され、米当局が「全て預金」について安全確保にコミットするとの文言を受け、買い安心感が広がった。

・3月28日に、バイデン大統領が銀行危機は「まだ終結せず」と発言したものの、影響は限定的。セントルイス地区連銀のブラード総裁が銀行問題より物価上昇に対応する姿勢を強調したことも、ドル円の買い戻しの流れを支え影響は限定的。翌29日にバーFRB副議長がSVB破綻をめぐり、経営陣だけでなく銀行監督や規制当局を含めた全ての失敗と発言するも、パウエルFRB議長が共和党議員に対し年内あと1回の利上げを行う方向を示唆したと報じられ、ドル円の上昇を促した。

・3月30日には、米新規失業保険申請件数が市場予想を上回ったものの、3名のFed高官が利上げ示唆を打ち出し、ドル円を支えた。ミネアポリス地区連銀総裁は、インフレ抑制へ「さらにやるべきことある」と発言したほか、ボストン地区連銀総裁は「あと1回利上げし年内維持、 利下げの根拠確認していない」と明言。また、リッチモンド連銀総裁も、インフレ・リスクが続けば「追加利上げで対応可能」と述べた。

・3月31日には、ロンドン時間に一時133.59円まで上昇。ただし、米2月PCE価格指数はコアを含め市場予想と前月を下回り、同個人消費も鈍化したため(今週のトピックをご参照)、132円後半で週を終えた。

チャート:ドル円の日足チャート、買い戻しが優勢に(白い枠が3月27日週の動き)。

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(出所:Tradingview)

2. 主な要人発言

・Fed高官からは、SVBなどの米銀破綻を受けながら利上げの必要性を説く声が聞かれた。欧州中央銀行(ECB)高官も、利上げ幅について意見は分かれつつ利上げ方向を示唆した。日本からは、岸田首相による新資本主義に関する発言を確認した。

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