「政治的な動きを知らなくてはやってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み
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政治がFXに影響を与えることは誰でも知っていることです。

米国では上院と下院の多数派が違う、いわゆる「ねじれ」が発生すると

債務上限問題も解決に苦労をし、その都度デフォルトリスクが表面化します。

市場はデフォルトになった場合には、その国の通貨が大きく売られることで

デフォルトは回避されるだろうとは思うものの、万が一にも備えざる終えません。

今年のG7サミットはどうだったか?

話を少し遡り、5月19-21日に広島で行われた先進7カ国首脳会議(G7サミット)についてですが

多くの主要通貨に関しては、サミットで動意づくことは無いだろうとの認識でした。

ウクライナのゼレンスキー大統領が来日するなど、注目度は高いままでしたが

だからと言ってFXが動くとの予想は少なく、実際にサミット明けの市場は落ち着いた動きでした。

しかし、水面下では、大動きする可能性がある通貨がありました。

その通貨は、何でしょうか?

個人的には一番大きく動く可能性があった通貨は「南ア・ランド」だと思われます。

サミットに参加していない国なのになぜ動く可能性があったか?

前回までのG7サミットには、南アがアフリカ連合(AU)議長国だったこともあり、

ラマポーザ南ア大統領が招待されていました。

しかし、議長国がコモロに変わったため、南アからは広島サミットには誰も出席していません。

BRICS国の中で、関係が悪化している中国とロシアが出席をするわけがありませんが

インドとブラジルは招待されていました。南アは蚊帳の外状態でした。

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では、それにもかかわらず、なぜ南ア・ランドが動く可能性が高かったのでしょうか?

対ロ・対欧米との関係は?

南アの置かれた状況をまずは把握する必要があります。

南アとロシアとの関係は、反アパルトヘイト時にソ連から恩恵を受けるなど長い歴史があります。

また、中国に対しても鉄道網のインフラなどを依存しています。

通商面では圧倒的に欧米との関係が深いのにもかかわらず、

BRICS国同士ということもあり、露中両国とも良い関係を保っています。

国連総会緊急特別会合では、ロシアを非難する2つの決議の採決では「棄権」するなど

ロシアのウクライナに対する侵攻にも、どちらつかずの態度のままでいます。

しかしながら、このようにどちらにも良い顔をすることが今後は通じない可能性が出てきています。

そのきっかけとなるのがG7サミットの1週間前に、ブリゲティ駐南ア米国大使によるツイートです。

ブリゲティ大使は「南アがロシアに武器と弾薬を提供している」

「武器と弾薬は昨年12月にケープタウンのサイモンズタウン海軍基地に停泊した

ロシアの船に積み込まれた」と述べています。

ただでさえ南アは電力不足、インフレ高進、政治不安等でランドが弱含んでいましたが

発言後には対ドルでは、史上最安値を更新するまでランド安が進みました。

(その後、ブリゲティ大使が謝罪したことで、いったんは問題は収まりました)

どちらにも良い顔をすることが出来なくなるか?

このような状況下で開かれたG7サミットで、南アが一番恐れたのは

「ロシアへ協力する国や企業への制裁」、いわゆる第三国への制裁です。

17日に発表された1-3月期のロシアGDP速報値は-1.9%となり

市場予想の-2.1%や前期の-2.7%よりも減少幅が縮小しました。

対ロ制裁の抜け穴(第三国経由)が大きいことで、制裁の効果が出ていないのが実情です。

幸いに具体的なG7サミットでは第三国への制裁決定は回避されましたが、

今後、BRICS国の中で一番制裁を科しても、G7国には影響が少ない南アに対して、

G7各国がインドやブラジルより先に、見せしめのように制裁が科されることもあり得るかもしれません。

これまで、南アはどちらの体制にも良い顔をしていましたが

このような態度は通じない立場に陥る可能性もあります。

このように、当事者国が参加していない国際会議でも、FXが動く可能性もあることで

世界の政治情勢を見ないでFXをやってはいけないと思われます。

本記事は2023年5月27日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。

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