【あの時あの動き、過去から学ぶ】ドルの価値を決める者:米国大統領
山下 政比呂
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

証券会社で株式・債券の営業、米系銀行で為替ディーラー業務(スポット、スワップ、オプション)に従事。プライベートバンクでは、為替のアドバイサーとして円資産からドル建て資産への分散投資を推奨してきたドル高・円安論者。「酒田罫線法」「エリオット波動分析」「ギャン理論」などのテクニカル分析をベースに、ファンダメンタルズ分析との整合性を図り、相場観を構築。2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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為替相場の決定要因としては、固定相場制度の下でのフロー・アプローチ(古典派理論)としての国際収支説、購買力平価説、為替心理説、変動相場制度の下での、ストック・アプローチ(近代派理論)としてのマネタリー・アプローチ、アセット・アプローチなどがあります。

しかしながら、基軸通貨ドルの価値を決定するのは、米国の大統領なのかもしれません。

米国は、貿易赤字の不均衡是正に軸足を置いた時は、ドル安政策を採用し、インフレに軸足を置いた時は、ドル高政策を採用してきており、究極の「為替操作国」と言えます。

ドゴール仏大統領は、かつて、「ブレンドウッズ体制により、米国は『法外な特権』を享受している」と批判していました。

■バイデン第46代米大統領
2022年10月15日、バイデン米大統領は、8.58ドル(@150円=1287円)で購入したソフトクリームを食べながら記者会見に応じました。

記者:「今のドル高を懸念しているか?」
バイデン米大統領:「ドルの強さについて懸念していない」
「米経済は、国内情勢がものすごく強い。インフレは世界に広がっている。国内よりも他国の状況の方が悪い。つまり問題は他国に経済成長や健全な政策が欠如していることだ」

イエレン米財務長官は「ドルの強さは様々な政策の論理的な結果。ドルの価値が市場で決定されることは米国の利益。ドルの水準は政策を反映しており適切」と述べて、ドル高を容認しています。そして、「ドル上昇は、ドル建て債を発行している国にとっては問題ですね」とも述べています。
世界銀行、国際通貨基金、国連などは、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ路線やドル高による新興国のドル建て債務問題への警鐘を鳴らし続けていますが、パウエルFRB議長やイエレン米財務長官の耳には聞こえていないようです。

■ニクソン米第37代大統領:ニクソンショック
1971年8月15日、ニクソン第37代米大統領は、「金兌換」政策の放棄、すなわち、「ドル・金本制度」のブレトン・ウッズ体制から決別し、「ドル・原油本位制度」に移行することを宣言しました。ブレトン・ウッズ体制を構築した米国の基軸通貨国としての責任を放棄し、ドルシステムに組み込まれた他の国々に責任を転嫁しました。
ドル・円相場は、1ドル=360円の固定相場から長期的な下落トレンド、海図なき航海に船出しました。ドル・円は、360円から175.50円まで約半分になりました。

コナリー米第61代財務長官は、アメリカを訪問したヨーロッパからの議員代表団が、ドルとの為替相場変動について憂慮している旨の意見を投じた時、「ドルは我々の通貨だが、ドル下落はあなた方の問題だ」(The dollar is our currency, but it’s your problem)と言い放ちました。

■カーター米第39代大統領:カータードル防衛
1978年、カーター米大統領は、ドル・円が175.50円まで下落したことでドル暴落を警戒し、ドル防衛政策を宣言しました。
ドル・円は、175.50円から200円台へ反発しました。

■レーガン米第40代大統領:
【ドル高政策:レーガノミクス】
1981年、レーガン米大統領は、強いアメリカを標榜して「ドル高政策」を打ち出しました。
ドル・円は278.50円まで上昇しました。
【ドル安政策:プラザ合意】
1985年、レーガン米大統領は、レーガノミクスの失敗を受けた「双子の赤字」を解消するため、ドル安政策を打ち出しました。
ドル・円は、240円台から120.25円まで約半分になりました。

■ブッシュ米第41代大統領:ドル安誘導
1990年、ブッシュ米大統領は、対日貿易交渉のためドル高・円安是正を打ち出しました。
ドル・円は、160.35円から79.75円まで約半分になりました。

■クリントン米第42代大統領:ドル高政策
1995年、クリントン米大統領は、サウジアラビアなどドル資産保有国からの要請を受けてドル高政策を打ち出しました。
ドル・円は、79.75円から147.64円まで上昇しました。

■トランプ米第45代大統領:ドル安誘導
トランプ米大統領は、保護貿易主義を標榜しており、ドル安政策を志向していました。

この記事は、2022年10月25日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。

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