「加35%関税」でリスク回避
関口 宗己
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。
市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。

為替の仕組み

2週ほど前「米・加貿易交渉進展」が今後のアメリカと各国の貿易交渉のロールモデルになるとの期待を高めた状況が一転、カナダに35%の関税が課されマーケットの不安感が強まっています。貿易摩擦激化や物価・景気への悪影響によるリスク回避の高まりを警戒しなければならない状況が続くでしょう。



米現地7月10日の金融マーケット引け後、トランプ米大統領は自身のSNSでカナダに対して35%の関税を課すとしたカーニー加首相宛の書簡を公表しました。それまでアメリカとカナダは7月21日をめどに貿易交渉の合意を目指すとしていましたが、カナダが合成麻薬フェンタニルの米国への流入防止に非協力的だとして、関税を大きく引き上げる措置をちらつかせてきた格好です。

米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)基準に適合する製品の関税免除が継続する可能性が高いとの見解もあり、それまでの交渉同様に落ち着きどころを探るとの見方もあります。しかし「加35%関税」の意向が発表される目前は高値圏で戻りを試していたダウ平均が、11日のNY市場では下値を探る動きとなるなど地合いを弱めています(図表参照)。 

週明け14日は下げ渋ったものの、11日の下落幅をすべて取り戻すまでの上昇にはなりませんでした。15日には事前予想におおむね沿った6月米消費者物価指数(CPI)発表後も、インフレ懸念が拭えないとして株価は大幅下落となっています。

インフレ懸念の背景には「加35%関税」を受けた輸入物価の上昇や、物価が景況に与える悪影響への不安があります。2週ほど前「米・加貿易交渉進展」が、その後のアメリカと他国との貿易交渉のロールモデルのような格好になると期待を高めた状況が一変しています。



トランプ大統領が朝令暮改・朝令朝改のような様相で方針を変転させ、態度を軟化させることも考えられますが、現時点では強硬姿勢を強めたことによる貿易摩擦や物価動向への悪影響を嫌気した相場展開が続きそうです。安全資産とされる金が買われやすくなっている状況からもマーケットのリスク回避姿勢が感じられます。

足もとでインフレ懸念による米金利上昇がドル高を誘っており、ドル円がドル高へ振れる場面もあります。しかしリスク回避姿勢が強いなかでの円売りには進みにくいsでしょう。

与党の大敗が危ぶまれている参院選を前にして、本邦政局への不安からの円売りが交錯する局面もあるため動意は不安定ですが、「加35%関税」ほか欧州連合(EU)やメキシコにも30%関税、それに先がけブラジルに50%関税をかける意向を示すなど、米国絡みの貿易交渉に関する先行き不透明感に振らされる状況がしばらく続くことになりそうです。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2025年7月16日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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