「そのポジション7月まで我慢できますか?時間軸を無視してやってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み


市場の反応は限られたものでしたが、今月8日にラトニック米商務長官が「日本と韓国との(通商)交渉締結は早くはないだろう」と発言しました。

一部では、日本や韓国は米国で防衛面で米国依存ということで、早めに貿易協定締結となるとの憶測がありました。

ただ、これをあっさりとラトニック氏は否定しています。

では、なぜか?ということですが、それはおそらく両国とも選挙があるからと思われます。

まずは韓国の大統領選挙が6月3日に行われます。

そして日本でも参議院選挙も閉会の日から23日以内なことで、6月28日から7月27日までの間に行われます。

両国にとっても、与党が厳しい状況下にある中で、ここで米国に優位な貿易協定を締結した場合は、更に与党は不利になるでしょう。

トランプ政権にとっても、交渉相手をしている政党が次期選挙で敗北するのを後押しすることは避けようとするでしょう。

石破首相は12日の衆議院予算委員会で「コメを犠牲にするとか、農業を犠牲にするとか、そういう考え方は毛頭持っていない」と発言。

米国が求めていることを否定していますが、選挙が終われば、すぐに豹変する可能性もあるでしょう。



日本も韓国も現時点では圧倒的に与党が不利な状況に陥っています。

韓国の場合は大統領選ということもあり、政権交代が現実味を帯びています。

ただ、日本は参議院選挙で与党が過半数割れとなった場合でも、すぐに政権交代があるわけではありません。

日本の総理大臣選出方法は、国会議員間で決定されますが、衆参が分かれた場合は衆議院が優先されるからです。

2007年7月に行われた第一次安倍政権時でも、与党は過半数を割り込んでいます。

よって、次期衆議院選挙が行われまでは、現与党が米国の交渉相手ということは変わりません。

石破政権からしても、選挙が終わるまで交渉締結を待ってもらった米国に対して成果を見せざるおえないでしょう。

よって、7月から日米(及び日韓)の貿易交渉は本格化することになりそうです。



5月10-11日に行われた米中通商協議で、米国は対中関税を90日間、145%から30%(ベースが10%でフェンタニル分が20%)へ引き下げました。

中国も同期間、125%から10%へ引き下げました。

関税引き下げ以外の内容は詳らかにはなっていませんが、市場関係者だけでなく他国の要人からしても「なんだそれは?」という内容で、サプライズとなっています。

数日前まではトランプ米大統領は「中国の関税は80%が妥当」と言っていたにもかかわらず、他国を下回るような引き下げ幅です。

米国にとっては、巨額の対中赤字が最も懸念材料であるにもかかわらず、この大幅な引き下げ幅になりました。

これでは、対中赤字の解消も、米国への製造業回帰などはできません。

一部ではベッセント米財務長官はじめ良識派が、米国のトリプル安を警戒して手打ちにしたともいわれています。

このサプライズで株高・ドル高・債券安のリスク選好の動きになりました。

ドル円は特にその影響は大きく、円売りが大幅に進んでいます。

ただ、前述のように第2ステージはまだ始まっていません。

第2ステージまで時間があることで、仮に円安修正などをするとしても、時間軸ではまだ日程が先なので、円買いポジションを持っていた場合にもその前に振り落とされるリスクも念頭に入れてポジションを持たないでやってはいけないでしょう。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2024年5月19日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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