中国自動車業界、輸出から海外生産へシフト
村山 広介
この記事の著者
中国株情報部

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。

2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

為替の仕組み


「わが社にとって大きな問題はいつ、どの地点で米国に進出するかだ」。9日までラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES」で、中国の吉利汽車(00175)などを傘下に抱える自動車大手、浙江吉利控股集団のグローバル広報ディレクターを務めるアッシュ・サトクリフ氏はこう語りました。米『オートライン・ネットワーク』のインタビューでの発言です。同社傘下の欧州ブランドである「ボルボ」や「ポールスター」、「ロータス」などはすでに米国で生産・販売されていますから、自社の新エネルギー車ブランドである「Zeekr」や「Lynk & Co」を投入する方針を示したものと受け止められました。

貿易や安全保障を巡って米国と中国が対立する現状では、中国自動車企業の米国進出は難路のはずですが、サトクリフ氏は検討結果を「24-36カ月以内に発表できると思う」と述べ、自信ありげです。トランプ米大統領の任期満了を見据えているのかもしれません。動画配信サービスサイトで公開されたインタビュー動画には「24-36カ月ということは、『(トランプが)退任した後』と言っているようなものだ」というコメントが付きました。



中国の自動車会社がここにきて米国を含めた海外市場の開拓に熱心になっているのは、理由があってのことです。しかも、ポジティブな理由とネガティブな理由が重なっています。

ポジティブな理由とは、中国製の新エネルギー車が技術、性能、スタイル、コストの面で海外のライバルと比べ優位にあることです。新エネルギー車の設計・製造、充電インフラを含むインフラ構築などで先行し、技術とノウハウを蓄積してきた成果が、輸出の急成長という形で現れています。

業界団体の中国汽車工業協会(CAAM)の統計によると、2025年の中国車の輸出台数は前年比21.1%増の709万8000台でした。5台に1台は輸出されたことになります。伸び率は24年の19.3%から加速し、国内販売(2730万2000台)の6.7%を大きく上回りました。特に、新エネルギー車の輸出は261万5000台と前年の2倍に達しました。対照的にガソリン車などの従来型燃料車の輸出は2%減、国内販売は4%減でした。25年の販売台数に占める新エネルギー車の割合は47.9%でしたが、現在の勢いならば来年にも従来型燃料車を追い抜きそうです。

メーカー別の輸出台数ランキングをみても、新エネルギー車の成長は明らかです。電気自動車(EV)世界最大手となったBYD(01211/002594)は、25年に前年比143.4%増の105万4000台を輸出。順位は前年の6位から2位に上昇し、輸出市場で長年トップを走る奇瑞汽車(09973)に接近しました。BYDと米テスラの中国法人を除けば上位10社は伝統燃料車を主力としてきたメーカーで占められており、BYDの伸長が目立ちます。



一方、ネガティブな理由の中で最も大きいのは、中国の自動車市場が過当競争に陥っていることでしょう。中国では、国策の下で戦略的産業を育成→補助金や優遇税制を誘因に多数の企業が参入→競争激化で業界利益率が低下、というサイクルが以前から鉄鋼、家電、太陽光パネルなどの製品分野で繰り返されてきました。過剰な生産力は国外に行き場を求めるパターンから、新エネルギー車も逃れられないようです。

「自動車強国」を掲げている中国政府も、「内巻式」と呼ばれる消耗戦を問題視し、値引き合戦や無理な販売手法などを規制し始めました。中国メーカーとしては、海外に活路を求めざるを得ません。



中国汽車工業会は15日発表した分析レポートのなかで、2026年の自動車販売台数の前年比伸び率が1.0%にとどまるとの予測を示しました。成長が期待されるはずの輸出も4.3%増と急減速すると見込んでいます。一見すると極めて弱気な予測ですが、実はポジティブな予測も込められています。輸出に代わって、海外現地生産が増えるとの見立てです。

中国汽車工業協会は「グローバル事業体制が深化するにつれ、統計データ上の輸出台数は伸びが鈍化する」と説明しました。この見方に従えば、中国自動車業界の競争パラダイムが2026年に大きく変わることになります。冒頭にご紹介した吉利汽車幹部による強気な発言は、海外展開の新段階にいち早く乗り入れようという経営方針を反映しているのでしょう。

同社に限らず、今後の海外事業戦略は中国自動車メーカーにとって必ずしも見通しが良くない曲がり角といえます。各社のこれまでの取り組みや戦略は、次回以降の連載でご紹介していきます。

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本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2026年1月23日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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