【通貨オプションとは?】通貨オプションの仕組み、先物為替予約との違いについて専門家が解説!
浦島 伸一郎
この記事の著者
ジーフィット co-CEO&CTO

プロフィール:外資系証券会社で、オンライン証券取引システム、証券決済システム、米国国債・欧州国債・日本国債などの国債取引所の開発および運営を担当、その後国内証券会社、FX業者などを経て2016年より現職。フィンテックベンチャー企業の経営と、為替リスクヘッジシステム、システム売買ロジックの開発を行う。

為替リスク管理
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通貨オプション:仕組みと先物為替予約との違い

オプション取引とは、「ある特定の資産をあらかじめ決められた期日(=行使期日)にあらかじめ決められた価格(=行使価格)で買う(コールオプション)、または売る(プットオプション)権利を売買する取引」のことで、為替取引を対象にしたものを特に「通貨オプション」と呼んでいます。

例えば、「行使期日3ヶ月、行使価格150円のドルコールオプション」は、3ヶ月後にドル円を150円で買うことのできる”権利”です。この権利の売買がオプション取引です。このオプションを購入した人は、3ヶ月後にこの権利を行使するか、行使しないかを自身の判断で決められます。3ヶ月後にドル円が160円になっていた場合、この権利を行使すればマーケットよりも10円(=160-150円)安い価格でドルを買うことができるので、もちろん権利行使しますが、反対に3ヶ月後のドル円が130円になっていた場合はどうでしょうか?わざわざ150円でドルを買わなくても、マーケットではもっと安い価格(=130円)でドルを買えるわけですから、オプションの権利は行使せずに放棄してしまえばよいのです。

「ドルプットオプション」の場合には、行使期日にドル円スポットレートが行使価格よりも円高になっていれば権利行使をして、行使価格よりも円安であればオプションは行使せずにマーケットでドル円を売ることができます。

一方、先物為替予約とは「将来のある期日において為替取引を決められたレートで行う取引」のことで、例えば「3ヶ月後にドル円を139円20銭で買う」取引です。この取引で適用される為替レートは「先物(予約)レート」あるいは「フォワードレート」と呼ばれ、取引時の為替スポットレート、両通貨の金利、需給を元にマーケットで決まったレートが適用されます。

先物為替予約と通貨オプションはいずれも為替リスクをヘッジする手段として利用されていますが、その違いはどこにあるのでしょうか?両者を比較するために、現在のドル円レートが140円、3ヶ月物先物レートが138円として、3ヶ月後にドル決済の予定がある輸入企業のケースで考えてみましょう。今、ドル買先物為替予約を締結すれば、3ヶ月後の支払い円貨額を確定することができます。その際に適用されるレートは138円です。しかし、先物予約を締結した後にドル円が下落してしまったら、「もう少し待ってからドルを買えばよかった・・・」と後悔するかもしれません。一方、ドルコールオプションの購入で円安リスクをヘッジする場合、まず行使価格は自身で設定することができます。例えば行使価格145円のドルコールオプションを購入すれば、その後どんなに円安になったとしても145円でドルを買うことができる一方で、取引後に円高局面があった場合にはそのメリットを追求することもできます。ただし、オプション購入の際には「プレミアム」を支払う必要があります。


通貨オプション:プレミアムとは?

通貨オプション取引は、その買い手にとっては「将来の為替マーケットの変動に対する保険」の役割を果たします。通常の保険に加入する際に保険料の支払いが必要となるように、オプションを購入する場合も、売り手に対して代金を支払う必要があります。この代金のことを「オプションプレミアム」または「オプション料」と呼んでいます(このようにオプションには独特の用語がたくさん出てきます・・・)。

保険も将来の補償内容によって保険料が変わるように、オプションの場合もその条件(行使価格、行使期日)によってプレミアムの金額が変わります。ドルコールオプションの場合には、同じ行使期日であれば、行使価格が低いほどプレミアムが高くなります(例えば140円でドルを買う権利>150円でドルを買う権利)。反対にドルプットオプションの場合には行使価格が高くなるほどプレミアムが高くなります。また同じ行使価格であれば、一般に行使期日までの期間が長くなるほどプレミアムは高くなります。

他の金融商品同様、オプションの価格もマーケットの需給によって決まります。ブラックショールズ(BS)モデルがその価格モデルの代表です(通貨オプションにはBSモデルの修正版のガーマンコールハーゲンモデルが利用されます)。このモデルでは①為替レート、②行使価格、③ボラティリティ、④行使期日までの時間、⑤無リスク金利をインプットとしてオプションの価格を求めます。

通貨オプション:ボラティリティとは?

売却したオプションが将来行使されて損失が発生する可能性が高い、またその損失額が大きくなる可能性が高いと想定される場合には、オプションの売り手はそのリスクに見合う高いオプションプレミアムを買い手に要求します。オプションの売り手の損失額は行使期日の為替レートによって決まるので、将来為替レートが大きく変動している可能性が高いほどオプションの価格は高くなり、反対にあまり為替レートは動かないと見込まれるケースではオプションの価格は安くなります。足元の相場の変動や今後予定されているイベントなど様々な要因に影響を受けて、マーケット参加者の相場に対する見通しも変わります。BSモデルにおける「ボラティリティ」はこの相場変動に対するマーケット参加者全体の思惑を反映するものと理解すればよいかと思います。



通貨オプション:ゼロコストオプション

通貨オプションを上手く利用すれば、機動的・効率的に為替リスクをヘッジすることができますが、その購入にはオプションプレミアムの支払いが必要です。将来の相場変動に対する不安感が高い時にはオプションの購入が有効な戦略となりますが、ボラティリティが上昇していると購入に必要なプレミアムの金額も高いものになってしまいます。

そこで登場するのが「ゼロコストオプション」です。これはオプションの購入と同時に別のオプションを売却して(複数のオプションを売却する場合もあります)、オプションプレミアムをネットでゼロにしようと戦略です。オプションの組み合わせには様々な種類がありますが、最も代表的な戦略は「レンジフォワード(リスクリバーサルとも呼ばれます)」です。レンジフォワードでは、同じ行使期日の行使価格の異なるコールオプションとプットオプションの一方を購入して、もう一方を売却します。例えば行使期日3ヶ月の150円のドルコールオプションを購入する一方で、ちょうどプレミアムが同金額となるようなドルプットオプション(仮に行使価格135円とします)を売却すれば、オプションプレミアムを支払うことなくドルコールオプションを手に入れることができます。

ただし、ドルプットの売却に伴うリスクには注意が必要です。行使期日に135円よりも円高となっていた場合、購入したドルコールオプションの権利は放棄しますが、売却したドルプットオプションは権利行使されるので、その結果、ドル円を135円というマーケットよりも高いプライスで買うことになります。しかしオプション取引時点と比較すると円高のレートですから、元々135円まで下がったら喜んでドル円を買いたいと思っていたとすれば十分納得できる水準と言えるでしょう。オプションで為替ヘッジしたいが、プレミアムの支払いが・・・という向きには一度検討してみる価値のある戦略ではないでしょうか。

通貨オプション:エキゾチックオプション

通貨オプション購入の際のプレミアム支払を回避する方法として「ゼロコストオプション」を紹介しました。オプション取引はヘッジ手段として魅力的な商品ですが、その対価であるプレミアムそのものを安くするために発案されたのが「エキゾチックオプション」です(通常のオプションは「プレーンバニラオプション」と呼ばれます)。エキゾチックオプションには様々なタイプのものがありますが、その中でも代表的なものに「ノックアウトオプション」があります。これはオプションに「消滅(ノックアウト)価格」が設定されており、行使期日までに為替レートが消滅価格に到達した場合にオプション取引が消滅してしまうというものです。例えば「行使期日3ヶ月 行使価格140円 消滅価格150円」のドルコールオプションを購入すれば、3ヶ月に140円でドル円を買う権利を保有できるのですが、3ヶ月の間に一度でもドル円が150円を超える円安となった場合、この権利が消滅してしまい、権利を行使することができなくなってしまいます。オプションの買い手の立場からすれば、せっかく購入した権利が消滅するかもしれないリスクを抱えることになるので、そのリスクに見合う分だけプレミアムが安くなります。支払うプレミアムの金額が小さくなるのは大きな魅力ですが、ヘッジとして利用する際には注意が必要です。輸入企業がヘッジ手段として上の例のノックアウトオプションを購入した場合を考えてみます。行使価格140円のドルコール購入で円安リスクをヘッジしたはずが、150円まで円安が進んでしまうとオプションがノックアウトしてしまい、ヘッジがなくなってしまいます。しかもその時の為替レートは150円なので、あらためてヘッジをしようとすると大幅に円安水準でのヘッジとなってしまいます。

通貨オプション:オプション取引のリスク管理

金融機関では、通貨オプションのリスク管理には「グリークス」と呼ばれるリスク指標を利用し、BSモデルだけでなくより高度なモデルも利用するため、専用の管理システムを導入するのが一般的です。しかし事業法人がヘッジ目的でオプションを利用する場合であれば、エクセルなどでも対応可能な場合がほとんどです。ただし、その特性を十分に理解した上で管理体制を構築する必要があります。

まずヘッジポリシーを策定し、オプション取引の許容範囲を明確にします。オプションの売却はNGなのか、レンジフォワードであればOKなのか、オプションでヘッジするのは全体のエクスポージャのうち何%までか、最長の行使期日はどこまでかなど、客観的に明確な基準を設けて、この基準がきちんと遵守されているかをモニターします。

プレーンバニラオプション単体の購入の場合、元本金額は行使価格で100%ヘッジされます。

例えば145円のドルコールオプション購入した場合、145円以上の円安リスクは完全にヘッジされています(プレミアムは支払う必要あります)。ただし、行使期日までに例えば130円まで円高に振れたとすると、すでにドルコールオプションでリスクヘッジはしていますが、この水準で先物予約を別途締結してもOKです。もしこの後反転して145円を超えた場合には、ドルコールオプションも行使できるので、ドル買いの金額が2倍になりますがドル買いのレートはその時点のマーケット水準よりも下(130円と145円)なので、ドルを売り戻せば利益を確保できます。また権利行使前であればドルコールオプションそのものを売却してプレミアムを受け取ることも可能です。このようにオプション単体購入によるヘッジの場合は機動的なヘッジが可能になるのですが、その分リスク管理は複雑になります(リスク管理をシンプルにするために機動的なヘッジに制限をかけるケースもあります)。

一方、リスクリバーサルによるヘッジの場合には、先物予約と同様にこのような機動的なヘッジはできないので、その分リスク管理は簡易になります。



通貨オプション:取引オーダー

実際に通貨オプションを銀行にオーダーする際に留意しておくべき点についてご紹介します。まず先物為替予約の場合、銀行へのオーダーの仕方には、①マーケットオーダー(成行注文) ②リーブオーダー(指値注文)の2通りがあります。①は現在のマーケット水準で取引を行い、②では自身が希望する水準にマーケットが到達した場合に取引を行うように銀行に依頼する注文です。ただし、②のオーダーの際には先物レートではなくスポットレートの水準を指定しておいて、そのオーダーが成約した時点で先物取引とする(足決め)のが一般的です。通貨オプションの場合も、同様にマーケットオーダーとリーブオーダーでの注文が可能です。ただしオプションの場合にはスポットレートもオプションの価格に影響しますが、スポットレート自体が常に変動しているので、プライスを聞く際には「ドル円140円として、行使期日3ヶ月、行使価格145円のドルコールオプションのプレミアムはいくらですか?」のように、一旦スポットレートを仮のレート(その時点の実勢スポットレートに近いレートでも、少し離れたレートでもよいです)に固定した上でオプション価格を尋ねることになります。リーブオーダーを依頼する際には、「行使期日3ヶ月、行使価格145円のドルコールオプションのプレミアムが2円となるようなスポットレートはいくらですか?」のように、ターゲットとなるプレミアムを決めた上で、そのために必要な為替レートの水準を尋ねます。


通貨オプション:与信リスク

ヘッジ目的でオプション取引を銀行から購入した後、行使期日前にその取引銀行が倒産してしまった場合はどうなるでしょうか?権利行使しない場合には問題はないのですが、権利行使する場合には取引相手がいなくなってしまっているので、損失が発生してしまう可能性があります。反対にオプションを売却した場合には、プレミアム受取済みであれば行使期日に損失が発生する可能性はありません。ですので、オプションを購入する際には、先物為替予約同様に取引銀行の財務健全性を確認する必要があります。また一つの銀行に取引が集中しすぎてしまうのも、信用リスクの観点からは避けた方がよいかもしれません。一方、銀行にとってもオプションを売却する際は取引顧客の与信リスクを確認する必要があります。またリーマンショック以降のグローバルな金融リスク管理体制強化に伴って、オプションをはじめとするデリバティブには取引相手に担保の差し入れを求めるケースが増えています。事務的な負担は増加しますが、担保差し入れによってオプションのプライスが改善するケースがありますので、取引銀行と協議していただければと思います。


通貨オプション:まとめ

通貨オプション取引は、先物為替取引同様に為替リスクのヘッジ手段として世界中で多くの企業に利用されています。初めての方は少しとっつきにくいと感じられるかもしれませんが、具体的な例を使って考えていただければイメージが掴みやすいと思います。まず最初は、以下の点を押さえていただければ十分で、順次理解を深めていただければと思います。

  1. ドルコールオプションは「ドルを買う権利」、ドルプットオプションは「ドルを売る権利」で、オプション取引はこの権利を売買します。
  2. オプションには、「行使期日」と「行使価格」が設定されます。
  3. 「行使期日1ヶ月、行使価格150円のドルコールオプション」を購入した場合、1ヶ月後にドル円が150円よりも円安であればオプションを行使して、ドル円を150円で買うことができます。「行使期日1ヶ月、行使価格140円のドルプットオプション」を購入した場合、1ヶ月後に140円よりも円高であればオプションを行使し、ドル円を140円で売ることができます。いずれのケースでもそれ以外の場合にはオプションの権利は放棄されます。
  4. オプションの購入の際には「プレミアム」の支払いが必要で、取引の際の為替レート、行使価格、行使期日などによってその金額は変わります。

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