インフレ指標・・・これを知らずにやってはいけない
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替関連用語解説
2578

インフレ指標・・・各国の状況により見る角度が変わる

消費者物価指数(CPI)など、インフレ進行具合を示す指標は複数あります。

しかし、各国によってインフレ指標の中でも、その中の何を注目するかが異なってきます。

CPIでも総合指数から、天候に左右されて振れの大きい生鮮食品を除くもの「コアインフレ率」

更にエネルギーを除いて算出した指数を「コアコア」として発表されます。

全ての国が総合指数なら総合指数、コアならコアを中心に比較できれば良いのですが

生鮮食品の支出割合が、全体の支出に大きな割合を占めている国の場合は、コアだけを見たら

インフレの進行具合がはっきりとつかめないでしょう。

(この件に関しては次回に詳細を記載します)

一方で、支出全体の中で生鮮食品の支出がそれほど大きくない国の場合

変動が激しい数値を省かないと、インフレ率が振れ過ぎてしまい、

データとして分かりにくいものになってしまいます。

中銀もそれらのインフレ進行具合を様々な角度から精査し、政策金利等の変更を判断しています。

FRBが一番見ているのは?CPIとPCEの違いは?

上述のように様々なインフレ指標が発表されますが、米連邦準備理事会(FRB)が注目している

インフレ指標が今週発表されます。それは31日に発表される「個人消費支出(PCE)」です。

PCEとはPersonal Consumption Expenditureの略です。

このPCEの中で名目PCEを実質PCEで割ったものを「PCEデフレーター」と呼び

更に、食品とエネルギーを除いたものを「PCEコアデフレーター」と呼びます。

そして、この数値がFRBが最重要視しているとされています。

CPIとPCEの違いですが、複数あります。まずは調査対象が違います。

CPIは、家計への調査(Household Surveys)

PCEは、GDPと企業への調査(GDP report and from Suppliers)になっています。

20230825103502594248

カバレッジも異なります。

CPIは、購入した商品やサービスに対する自己負担支出のみをカバーします。

これは、直接支払われないその他の支出(雇用主が提供する保険、メディケアなど)は除外されます。

PCE は、これらの除外されたものを含めるために、より広範囲とも言えます。

計算方法の違いもあります。

CPI の計算式は、価格変動が大きいカテゴリーの影響を受ける可能性が高くなります。

PCE の計算ではこれらの価格変動が平滑化されるため、PCE は CPI よりも変動しにくくなります。

大まかにこれだけ違いがあります。

日銀が一番見ているのは?・・・実はこの重要指標を見逃しているのでは?

日本もインフレが高進していることで、ようやく本邦のインフレ率が気になり始めたことでしょう。

これまで数十年は、本邦の経済指標は見る価値がないほどだったのが、ようやく注目されています。

当然、全国のCPIは注目されますし、先週発表された東京都区部のCPIも前哨戦とされ注目されます。

しかし、日銀が更に注目している指標を発表し、それを多くの方が見逃しています。

それは、全国CPIの公表日の2営業日後の14時を目途に公表される

「刈り込み平均値」「加重中央値」「最頻値」の3指標です。

この重要指標は先週22日に公表されていますが、多くの方が見逃していたようです。

20230825103630893344

それぞれ日銀がHPで、

「刈り込み平均値」は、品目別価格変動分布の両端の一定割合(上下各10%)を機械的に控除した値。

「加重中央値」は、中央値の近傍にある価格変化率を加重平均した値。

「最頻値」は、価格変動分布において最も頻度(密度)の高い価格変化率を指す。

と、説明されています。

特に刈り込み平均値は日銀がかなり重要視しているともいわれています。

そして、この3指数ともに7月は統計が遡れる2001年以降最高となりました。

このようにインフレが示される様々な指標がありますが、中央銀行が何を重要視しているかが異なるため

表面上のインフレ率だけでなく、インフレ率の何を注目しているかを知らずに

トレードはやってはいけないと思います。

本記事は2023年8月28日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。

ようこそ、トレーダムコミュニティへ!