今後の豪ドル円見通し、調整が深まるか直近安値の維持が焦点に
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後の2004年に国内証券会社に入社。

外国為替証拠金取引業務に携わった後、金融情報サービス会社にて個人投資家向けの為替情報配信業務を担当。市況サービスのほか、テクニカル分析を軸にした情報を配信する。

国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト。

為替の仕組み

今回解説していく通貨は豪ドル円です。豪準備銀行(RBA)は5月の理事会で2月以来の金利引き下げを実施したほか、金融政策方針もハト派的なものへと変化しました。日豪金利差も今後縮小する可能性が高まるなか、テクニカル的に調整局面入りとなった豪ドル円がさらに下押し圧力を強めるのか注目されるところです。では、チャート上でも豪ドル円の状況を確認していきましょう。



まずは2025年ここまでの豪ドル円の価格推移を見ていきます。

2024年11月からの穏やかな下落基調を引き継ぐ格好で始まりましたが、2025年4月以降は荒い値動きとなりました。わずか数日で95円台から86円台まで10円近い急落となり、4月9日には一時86.05円まで下押し。ただ、その後は一転して買い戻しが進む展開となり、今度は昨年11月からの下降トレンドライン(チャート上の黄色実線)を上抜けて再び95円台まで下値を切り上げる場面も見られました。

4月からの相場急変動の要因ですが、言うまでもなくトランプ米大統領の言動ですね。4月2日に米大統領が相互関税の詳細を発表すると、世界各国で対米貿易摩擦が深刻化するとの懸念から、為替市場では一斉にリスク回避目的の円買いが進みました。その後は関税の猶予や貿易交渉等の関連発言・報道に振らされるマーケットが現在までも続いている状況です。



今後の豪ドル相場を占う材料ですが、米国の貿易・関税政策には引き続き注意が必要となります。特に米国と中国の貿易協議の行方には注目です。一時は不毛な関税引き上げ合戦状態となった両国ですが、その後に90日間の猶予付きで両国が関税を大幅に引き下げることで合意。現在は新たな貿易交渉が行われている最中(9日執筆時点)です。

豪州は中国と資源貿易関係が深いだけでなく、豪ドルも市場全般のリスク志向に左右されやすい側面を持っているため、両国の交渉の行方には注目しておきたいところです。

また、今後注目すべき材料としては豪準備銀行(中央銀行、RBA)の金融政策も挙げられます。RBAは今年2月に2020年11月以来となる利下げを実施しましたが、声明文では「今回の利下げ後も引き締め的な状態が続く」「市場が示唆する追加利下げは保証されていない」と述べるなど慎重な姿勢を示していました。

直近(5月19-20)の会合ではそれ以来の金利引き下げとなったわけですが、その際の声明では「インフレ率の上振れリスクは減少」「今回の会合での金融政策緩和は適切と判断」「50bpの利下げも議論した」などと述べるなど、中銀の姿勢は大きくハト派へと傾きました。金融市場でも豪金利の先安観は高まっており、今後は豪ドル相場への影響も大きくなると予想されます。



下図のチャートは豪ドル円の週足チャートになります。前回の分析(3月19日)でも指摘したように、2020年3月安値を起点とする上昇トレンドライン(チャート上の青色実線)を明確に下抜けたことで、現在は上昇トレンド内の調整局面もしくは新たな下落トレンド入りの状況となっています。

チャート下部に追加した「DMI」では-DI>+DI(下落トレンド)を示唆しており、トレンドの強さを示すADXも高水準にあるため、「DMI」では依然として下落基調が示唆されています。

その一方で、4月9日につけた直近安値が86.05円にとどまり、2023年3月安値の86.06円(いずれもチャート上の丸で囲った部分)付近で下げ止まったことはポジティブな材料と言えそうです。同水準を支えに買い戻し基調が強まるか注目されますが、逆に言えばこの水準を下抜けると本格的な下げトレンドとなる可能性が高く、今後の重要なポイントになるでしょう。



では今後の方向性を短期的な視点からも探っていきましょう。下図のチャートは豪ドル円の日足チャートになります。チャート内の青色実線は週足分析で紹介したものと同じトレンドラインです。

足もとではやや買い戻しが入っているようですが、直近での戻り高値は5月13日につけた95.65円。3月18日につけたその前の高値95.75円(チャート上の黄色実線)にはわずかに届いておらず、今後は同水準付近をクリアに上抜け出来るかが焦点となります。

また、2024年7月高値から2025年4月安値までの下落幅に対する「フィボナッチ・リトレースメント」の50%戻し水準が97.71円付近に位置しており、この辺りも今後のレジスタンス水準として意識されるでしょう。

なお、日足チャートでも「DMI」を加えていますが、こちらでは+DIと-DIが頻繁に交差するなど明確な方向感は示唆されず。トレンドの強さを示すADXも低下基調にあり、短期的な方向性は見出しにくいのが現状です。



最後に今後1カ月間の重要イベントも確認しておきます。注目は日・豪中銀の金融政策です。

日銀については政策金利の据え置きが予想されており、前回の展望レポートで物価目標の到達時期が後ずれしていた影響から、足もとでは追加利上げ観測も後退しています。

一方で、豪準備銀行(RBA)は前述したように金融政策方針の変化から金利先安観が台頭。市場では次回(7月7-8日)の理事会で0.25%の利下げを8割程度織り込んでいるほか、年末までに7月分も含めて合計3回程度の利下げが予想されており、日豪金利差は今後も着実に縮小していくことになりそうです。

また、依然として市場全般の不透明感につながっている米国の貿易・関税政策については、6月15-17日の主要7カ国首脳会議(G7サミット)に関連して、各国が米国と個別の交渉を行う見込みで、こちらの行方にも注目が集まります。

その他のイベントは以下の通りとなります。

今後1カ月の重要イベント

6月15-17日 主要7カ国首脳会議(G7サミット)

6月16-17日 日本 日銀金融政策決定会合

6月20日 日本 5月全国消費者物価指数(CPI)

6月25日 豪州 5月CPI

7月7-8日 豪州 豪準備銀行(RBA)金融政策理事会


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2024年6月11日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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