「さらばトランプ、脱米国進む中で日本はどう進むのかを考えずにやってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み


昨年1月に始まった第2次トランプ政権ですが、Make America Great Againと標榜するように、米国を偉大にすることを目標にしていました。

具体的に何をGreatにするかは曖昧でしたが、米国製造業の復活は中心の一つと言えます。

そこで、目の敵となったのが、対米貿易黒字最大の中国でした。

中国に対しては、第1次政権から差別的な発言を繰り返し、貿易だけではなく世界的な派遣争いもあり攻撃姿勢を貫いていました。

なお、米国の2024年までの貿易赤字国の順位は下記のようになっています。

中国 2704億ドル

メキシコ 1572億ドル

ベトナム 1131億ドル

アイルランド 805億ドル

ドイツ 764億ドル

台湾 674億ドル

日本 626億ドル

韓国 602億ドル

カナダ 548億ドル

対 415億ドル

インド 415億ドル

イタリア 397億ドル

これらの貿易不均衡国を狙い、いわゆるトランプ関税を発動していきました。

ただ、このトランプ関税は、これまでの友好国である欧州連合(EU)や日本、韓国などに対しても、ほぼ予告なく一方的な脅しにより高関税を導入するやり方でした。



貿易不均衡を解決するのは簡単ではありません。

米国の方が景気が良く、輸入が多くなり、米国は貿易赤字になります。

また、米国の方が豊かになれば、労働者は高賃金を求め、比較的賃金の低い製造業の担い手は減り、工場などは低賃金国に移転します。

この詳細は第142回「米国の製造業回帰はあるのかを考えないでやってはいけない」で、製造業のコストに関して記載してるので参考にしてください。

米国にとっては、隣接しているメキシコがまさに賃金面や輸送コストで製造業が移転する最適な場所と言えます。

よって、上述のように米国の対メキシコは大幅な貿易赤字となっています。

ただ、これはメキシコが米国向けのために物を安く作ってあげているともいえるわけで、メキシコが米国から搾取しているのではありません。

これまで、第133回「米加墨通商摩擦・・・どこの国が得するかを考えないでやってはいけない」にも記載していますが、持ちつ持たれつだったわけです。

世界中高課税を課すことを発表したトランプ大統領ですが、多くの国は「困ったものだ・・・」とは思いつつ、米国という大国の機嫌を損ねたくないと思い、交渉に応じました。

当初は、トランプ大統領の脅しがある程度は通じたともいえます。

しかし、トランプ大統領は貿易不均衡だけではなく、その後も本人が「Tariff Man(関税男)」と自称するように、思い通りにいかないと「関税を課す」という脅迫を繰り返しています。

そして、さすがに友好国を含め、このトランプ氏の暴挙に対して、相手にすると自国だけ損をすることに気が付き始め、脱米国化が確実に進んでいます。

なお、トランプ政権による脱米国化の可能性は第129回「第2次トランプ政権・・・米国離れを考えないでやってはいけない」や第2次トランプ政権が発足する前にも第126回「第2次トランプ政権・・・脱米国になる可能性を無視してやってはいけない?」に記載しています。



今年に入り、これまでは米国の友好国だった多くの国で明らかな脱米国化・他国との接近が進んでいます。

まずは、1月中旬にカナダのカーニー首相は訪中し、習近平・中国国家主席と両国間の関係改善推進や経済協力の強化で一致しました。

カーニー首相は「持続可能な戦略的パートナーシップを構築していきたい」と述べています。

これに対して、トランプ大統領は「カナダが中国と取引すれば100%関税」と圧力を掛けました。

カーニー首相はお茶を濁すような受け答えをしましたが、実際は中国はカナダ産キャノーラ油の関税を引き下げ、カナダ産キャノーラ油を大量に確保したことが伝わっています。

USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の再交渉も、トランプ大統領は米国優位に運ぼうとしていることで、カーニー首相からすると米国だけとの取引では交渉余地もないことで中国とも関係を深めたといえます。

そして、1月27日には20年間にわたる交渉が続いていた、EUとインドの間で自由貿易協定(FTA)を締結しました。

これは世界のGDPの21%を占める巨大経済圏になります。

そして、28日からは英国のスターマー首相が50を超える英国企業・機関の代表団を率いて訪中しました。

首脳会談後に、中国は英国産ウイスキーの輸入関税の引き下げ、中国への渡航規制の緩和を決定。

一方で、英国も英アストラゼネカ社の大規模中国投資などが決定しています。

欧州からするとトランプ大統領がグリーンランドの領有を目指そうとしていることも脱トランプを促しています。

また、トランプ大統領が米FOXのインタビューで「NATOはアフガニスタンに派兵したと言うが、前線から少し離れた後方にいた」と一方的に主張したことに対し、各国がこれまで以上に憤りを示しています。

欧州各国からもアフガニスタンで多くの犠牲者を出したことは、グリーンランドの領有に続き一線を超えたという見解もあります。

今年に入り、EU、カナダ、英国とこれまで米国にとって重要な友好国が、それぞれインドや中国に接近し、脱米国という米国を抜きにした貿易圏拡大に動いています。



中国の力を弱めようとしたトランプ大統領ですが、ふたを開けてみると、中国をより強くさせてしまう結果になってしまっています。

このような状況下で日本の立ち位置が懸念されます。

そして中国に接近する中で、高市首相が中国に対して挑戦的なコメントをしてしまい、日中関係は危険な状況に陥っています。

これまでは、高市政権は友好国が何かにつけ同様に助けてくれるとの期待があったのかもしれませんが、日本と中国を比較した場合は、友好国とは言え経済規模では圧倒的に小さい日本よりも中国に魅力を感じてしまうのは当然でしょう。

中国・ロシア・北朝鮮と地政学上でリスクの多い国に囲まれている日本は、EUやカナダ、英国のようには動けないのでしょうが、このままでは脱米国だけではなく脱日本となる可能性が高いことも、頭に入れないでFXをやってはいけないのかもしれません。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2026年2月2日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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