「結局外圧が左右することを忘れずにやってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み


先週19日の日銀金融政策決定会合で日銀が25ベーシスポイントの利上げを決定しました。

植田日銀総裁の12月の講演等でタカ派発言をするなど、市場は利上げを織り込んでいたのはサプライズではありません。

ただ、兼ねてから疑問なのは、2022年4月から日銀が目指す2%の物価安定を超えるインフレ率(生鮮食品を除くコア指数)を超えていたのに、利上げがなかなか進まなかったことです。

19日の前の利上げは、今年1月24日でした。

それ以後のCPIは2月3.0%、3月3.2%、4月3.5%、5月3.7%、6月3.3%、7月3.1%、8月2.7%、9月2.9%、10月3.0%となっていました。

安定して2.0%を超えていたわけです。



では、ここまで日銀が利上げを行わなかったことはなぜなのでしょうか?

個人的には「行わなかった」のではなく「行えなかった」と思っています。

これについては何度も記載していますが、第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」に記載していますが、日銀に独立性が無いからです。

「日本銀行法では、金融政策が『政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない』」(第4条)との決まりがあります。

トランプ米大統領が米連邦準備理事会(FRB)に対して利下げを再三要求しているように、株高になることもあり政権与党は、ある程度インフレが抑えられていれば利上げに反対するものです。

ただ、世界中を見渡しても、このように政府の意向を組む中銀はトルコくらいしかなく、一部では日銀をアジアのトルコ中銀と揶揄する人もいます。



高市首相は、昨年9月にはにインフレが進んでいたにも関わらず「金利を今、上げるのはあほやと思う」と非難していました。

その高市政権が利上げを承認したのも、これは明らかに10月後半からです。

正確には第169回「日本の政治家の発言を信じてやってはいけない」に記載しましたが、10月28日のベッセント米財務長官と片山財務相の財務相会談後からです。

会談後に米財務省は「ベッセント長官は協議の中で、アベノミクス導入から12年が経過し、状況は大きく変化していることから、インフレ期待を安定させ、為替レートの過度な変動を防ぐ上で、健全な金融政策の策定とコミュニケーションが果たす重要な役割を強調した」とホームページでしっかりと記載しました。

ここから、分かりやすいように日銀の利上げを容認する発言が政府サイドからも幾たびも出始めました。

植田日銀総裁のタカ派発言後も片山財務相は「政府と日銀、景気認識に齟齬はない」とまで話しています。

結局は基本的には日本の政治を見る中で一番重要視しているのは日米関係でしょう。

しかもトランプ政権は他国の政治にも介入することで、金融政策もトランプ政権の意向を日本は今後も組むことを念頭に置いてやらなければならないということのようです。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2025年12月22日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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