「利上げでも円高になるのかを考えないでやってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み


先週18日に高市首相と植田日銀総裁の会談が首相官邸で初めて行われました。

植田総裁は、首相との会談に関し「経済・物価、金融情勢、金融政策について、さまざまな側面から率直に良い話ができた」と説明しています。

首相や大統領が変わろうが、政権が変わろうが、中央銀行総裁と会談が行われるわけではありません。

日銀だけではなく、中央銀行総裁はインフレや雇用などの経済状況を考え、その都度適切な金融政策を行えば良いわけです。

ただ、政治家は中央銀行の政策に口を出したい人が増えています。

特に金利が低いほど経済は回りやすいことで、利上げに対してはアレルギーがあります。

トランプ米大統領が利下げをしないパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長に対して何度も苦言を呈していますが、FRBは金利上昇のインフレを避ける責務があります。

政治家から圧力を受けてはならず、会うべきではないという考えもあります。

しかし、ここのコラムで何度も記載していますが、日銀には独立性はありません。

第117回「日銀には独立性がないことを知らないでやってはいけない」

に記載していますが、「日本銀行法では、金融政策が『政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない』(第4条)とされています。」

実際の日銀金融政策決定会合でも、政府からオブザーバーが参加し、日銀の動向を監視しています。



では、12月の日銀金融政策決定会合はどうなるでしょうか?

高市首相は昨年の議員時代は日銀に対して「金利をいま上げるのはアホやと思う」と利上げに反対していました。

おそらく、景気回復途上前の利上げを反対していたのでしょう。

ただし、首相となったことで、態度は180度変わっているかもしれません。

首相就任前に、食料品の税金をゼロにするとあれほど述べていたのが、「レジがレジが・・・」と繰り返し、前言撤回。

首相にならなくても、レジの負担などは分かるものなのですが、立場が変わると主張が変わるのは政治家らしいとも言えます。

景気浮揚のために日銀に対しては、今も本当は利上げしてほしくはないと思っているでしょう。

しかし、米国からの圧力で利上げを容認する可能性もあるかと思われます。

10月末の日米財務相会談後に米国財務省は下記のようにHPで公表しています。

「ベッセント長官は協議の中で、アベノミクス導入から12年が経過し、状況は大きく変化していることから、インフレ期待を安定させ、為替レートの過度な変動を防ぐ上で、健全な金融政策の策定とコミュニケーションが果たす重要な役割を強調した」

要するに、「安倍政権時代と違いデフレではない、インフレ緩和のため利上げをして、為替をあまりドル高にするな」と強調したわけです。

実際に、首相との会談後の植田総裁は「インフレ率が2%で持続的・安定的に着地するよう緩和を調整している」と発言しています。

そもそも2%以上のインフレはもう何年も計測しているわけです。

持続的・安定的が数年では足りない国など、日本以外ありません。



このような状況下になっていることで、日銀の再利上げはようやく現実的になると私は予想しています。

ただ、12月に利上げをした場合でも「 Too Little Too Late」=「少なすぎで遅すぎ」ではないでしょうか?

利上げをしたことにより、市場が円買いをする場合でも、更に利上げ路線を継続するような声明でも出さない限りは円安の流れは変えられないのではないかと思われます。

市場の目が、放漫財政による円安や、米国の政府機関閉鎖が長期にわたったことで米連邦準備理事会(FRB)が利下げに躊躇するなど、Too Lateの間に市場の注目点が変わっています。

利上げしても円高に動かないリスクがあることも、考えないでトレードはしてはいけない状況です。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2025年11月24日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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