「為替読みの難化」の時期に考えるべきこと
この記事の著者
独立型ファイナンシャルプランナー

株式会社FP-MYS 代表取締役
1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

為替の仕組み

高市総理による「責任ある積極財政」が補正予算の草案という形で世に出され、FXなど為替関係の投資を仕掛ける多くの投資家は色めき立ちました。日本のこれからという意味を除くと、今回の予算は円安ドル高の要素が強いためです。ところが蓋を開けてみると、11月27日(木)あたりからの為替はドル安円高が続いています。あれ?想定と違う?と思った方も少なくはないでしょう。



株式相場は「見えざる手が動かしている」といわれます。為替においてその傾向は更に顕著です。2025年秋から続いていたドル買いの流れを考えれば、11月の終わりのタイミングで「ドル売りに転じた」ことは想定外です。背景の1つに、「世界経済がアメリカの混乱に疲れている」という仮説が考えられます。前後の日足の為替チャートを分析する前に、まず背景を解説していきましょう。

アメリカの経済を司るFRB(連邦準備制度理事会)の利下げ・利下げを巡る組織内の争いと、12月にも指名されるのでは無いかと報じられている次期総裁をめぐる人事の問題があります。利下げに関しても、今秋の政府機関の閉鎖により消費者物価指数(CPI)の発表がなく、12月の利下げは資料不足で見送られるのではないかと予想されました。その一方でFRBのNo.3 とされるニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁が「利下げがあるかもしれない」と示唆するなど、それぞれ見解がそのまま外部に流れ出ている印象です。

引用:Yahooファイナンス  2025年11月29日(土)8時37分

11月29日のドル円は、上記のチャートのように陰線のローソク足が目立っています。5日間の移動平均線(MA)を下回っているほか、下記のMACDからも、値下げ(為替の場合はドル売り)が進行していることが読み取れます。テクニカル分析で売買の目安とされる25日の移動平均線と、(ここには記載していませんが)前週より距離が近づいています。下落基調(=円高)にあるという証明です。

引用:Yahooファイナンス  2025年11月29日(土)8時37分

またMACDがMACDシグナルを下回ると、短期的な平均価格が長期的なものより低いことを示します。



為替が読みにくいなか、筆者には懸念していることがあります。「米国株のバブル崩壊」とまではいわないまでも、これまで順調だったS&Pやオルカンの基準価格が下落する状況です。2025年10月に筆者は本メディアで「なぜ投資デビューに『FX』からはじめるのか」を上梓し、FXという取引の持つライトな印象が時に問題となることを解説しました。為替が大きく動き出すと、長い間過熱感が懸念されているアメリカ株にも、間違いなく影響があります。

最近のFX業者は利用者のリスクを比較的明記するようになったものの、期待できるリターンを優先し、「FXってそんなに危険なんですか?」と個別相談で聞かれることも多いです。せめて「レバレッジはやっていませんよね?」と願うものの、なかには自覚せずに所有資産を数倍にしている人もいます。

そんななかで為替が個人投資家の予測範囲を大きく超えることになったら。損失を生じた人たちはまず悲しみに暮れることでしょう。そして、そのあとが怖いのが悪意を持った二次情報です。「いったん損をみなさまへ。わたしたちの会社に資産を預ければ大丈夫!」と、平常心ならば絶対に引っかからないような宣伝文句が刺さり、ポートフォリオを組みかえたり、疑問の残るような投資スクールに通ったりします。

最近FPの仕事をしていると、誰かにいわれて株を買って一度も評価額を見ていないという事例や、一発逆転を狙って公的年金を投資に回しましたという話を聞くことが多くなりました。筆者はFP11年目。これまで個人相談にそれほど注力していなかったこともありますが、「投資が近くなった」ことによる弊害なのは間違いありません。万が一への備えは、波が凪いでいるときだからこそ意味を成すことと、専門家としての自戒を込めて記したいと思います。

繰り返しになりますが、2026年はアメリカ株の下落が予想されます。政策金利をめぐる騒動のほかにも、トランプ大統領が中間選挙を迎える点もポイントです。どうあがいても再選がない同氏が、先頃の相互関税のように突然相場を驚かせる可能性はあります。

ひとりの専門家にできることには限界がありますが、時化ている海を目の前にして、冷静さを欠いた人たちに、1つでも行き急いだ判断をしないことをアドバイスする、そのような存在でいたいと思います。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2025年12月1日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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