トランプ氏、人民元の影響拡大の引き立て役になるか
金 星
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。
外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

為替の仕組み


トランプ米大統領は敵味方を問わず高関税の脅かしを続けており、米国と世界各国の貿易摩擦が拡大するだけではなく、米国の信認低下によるドル離れが加速する可能性が警戒されています。

トランプ関税の影響で中国経済も苦しんでいますが、中国はトランプ氏の暴走が決して悪いことだけとは捉えていません。世界で中国の影響力を拡大し、人民元の国際化への光になる可能性があると見込んでいます。トランプ氏の予測不能な言動は確実に金融市場全般に不安を与え、米国依存を減らそうとする動きが強まっています。

米国の経済的・政治的・文化的・軍事的な力を背景とした信頼、金融資本市場での流動性などのドルを取り巻く状況を勘案すれば、この先もまだ長い間、世界の基軸通貨としてのドルの地位は揺るがないと思われますが、その影響力は低下しつつあることも確かです。デジタル通貨、ステーブルコイン、国際決済アプリの人気の高まりも、IT革命以前のオールドエコノミーを支えた通貨の地位を侵食しています。



中国は米国に次ぐ経済大国となった2010年前後から、人民元の国際化の動きが進み始めました。そして当局は2014年の中央経済工作会議で「人民元の国際化を着実に推進する」と、正式に目標に掲げました。政府の後押しもあって、貿易や投資などの人民元のクロスボーダー使用、オフショア人民元市場、外国政府・中央銀行、機関投資家の中国証券市場への投資が拡大しました。

その後、中国は継続的な経済の急成長と中国経済圏の拡大などで、人民元での取引割合が増えて人民元の影響力を拡大したが、人民元の国際化はなかなか進んでいません。

その大きな要因として、人民元が自由に交換できないこと、中国の資本勘定が開放されていないこと、法の支配を含む中国の制度に対する投資家の信頼が比較的に低いことが取り上げられます。

中国当局は人民元の完全な兌換化に消極的なために、人民元の国際化はまだまだ先になりそうです。ただ、当局は人民元が国際的な決済や中央銀行の準備通貨としてより広く利用されるべく努めています。習中国国家主席は中国を「金融大国」にしたいという野望をもっており、トランプ米大統領の関税政策は中国にとって大きなチャンスになる可能性があります。



人民元国際化を進めることで、経済面から、取引コストの削減、取引効率性の向上、為替リスクの回避、さらに通貨発行益の享受などといったメリットは中国にとってかなり魅力的であります。現在、GDPが世界第2位、2030年前後にアメリカを追い抜く巨大経済体になるとみられる中国が、その経済規模と国際的影響力に見合う水準まで人民元国際化を求めようとするのは、ごく自然あるいは必然的な流れとも言えます。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2025年7月19日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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