「裸の王様となっていることを知らずにやってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み


第2次トランプ政権が始まり、第1次と明らかに異なる点は、トランプ米大統領に忠誠を尽くすメンバーで側近を固められたことです。

まだ、大統領就任前の時点で、第1次で大統領補佐官を務めたボルトン氏は「彼が求めるのは『イエスマン』や『イエスウーマン』。それは残念ながら国にとっても、トランプ氏にとっても良い結果をもたらさない」と述べています。

実際に第1次は著名な人物が周りを固めたものの、468日の間で29人も閣僚含むホワイトハウス関係者が辞任もしくは解任されています。

その後も政権が終わるまで、度重なり辞任と解任を繰り返しています。

その同じ轍を踏まないために、トランプ大統領は自分への忠誠が絶対条件で第2次政権を固めました。

ボルトン氏がトランプ大統領は「自分がやりたいことをやりたがり、慎重な助言や他の選択肢の提示を好まない」と発言しているように、やりたいことを実施し続けています。

通常であれば、貿易、防衛、外交などのスペシャリストでもない大統領は、その道に長けている専門家のアドバイスを聞いて政治を行いますが、トランプ大統領はそれを無視しています。

例えばこの影響で中央情報局(CIA)、司法省や連邦捜査局(FBI)などもリストラを受け、国の内外の諜報網も弱体化しています。

これらを喜んでいるのは、中国やロシア、中東の一部勢力で、米国にとっては国力が大きく下がっています。



第2次政権に入ったメンバーはトランプ大統領のイエスマンになっていることで、これまでは様々な面で尊敬され、一目置かれていた閣僚たちもここ最近は評価が変わっています。

例えば、ルビオ国務長官は大統領選挙にも出馬し、有力は上院議員でした。

しかし、いまではトランプ大統領の指示を忠実にこなすだけのイエスマンになっています。

野心家であるルビオ氏ですので、トランプ後の次期大統領を狙っているともされ、反トランプとなった場合はトランプ支持者の投票が得られないことで言いなりになっているようです。

そして、これまではウォールストリートで働いてきて、市場からも一目置かれていたベッセント米財務長官も様々な面でトランプ大統領の意見を尊重するだけになっています。

トランプ氏が毛嫌いしているパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長や、雇用統計後に解任されたマッケンターファー米労働省労働統計局(BLS)局長に対しても辛らつな発言を繰り返しています。

このような方で固められた、トランプ大統領は完全に裸の王様と化したわけです。



8月のトランプ関税で、一番厳しい措置を取られた国を挙げていくと、まずは50%の関税を課せられたブラジルが挙げられます。

ブラジルは米国に対して貿易赤字となっていることで、高関税を課される理由はありません。

しかしながら、トランプ氏と親しかったボルソナロ前大統領がクーデターを計画した罪などで自宅軟禁になったことが原因で高関税が決まりました。

通商面では全く異なる、完全な個人的な恨み、更に言えば内政干渉であるのに、トランプ政権は誰も大統領を止めません。

30%の関税を課せられた南アフリカも、トランプ政権がアパルトヘイト前の状態に戻すよう求めていることもあり、拒絶反応を示しました。

3月に南アのラスール駐米大使がトランプ政権について「米国が世界的な白人至上主義運動を主導し、外交に関しては確立された規範や慣行を破壊している」と発言しました。

このことでペルソナ・ノン・グラータ(歓迎されない人物)と宣言され米国から国外追放されました。

更に5月にラマポーザ南ア大統領とトランプ米大統領がホワイトハウスで首脳会談を持ちましたが、トランプ政権は別の国で白人が迫害され、殺害された写真や動画を公開し、それを南アでの出来事と平気で話しました。

このような間違えをマスコミで証明されたのにもかかわらず、現時点でトランプ政権が謝罪したなどの報道は一切伝わっていません。



上述のようにCIAやFBIの弱体化は、米国および日本を含めた友好国にとって防衛面を弱体化させています。

そして、経済面でもトランプ大統領の関税政策で、米国および日本を含めた友好国は弱体化が進みそうです。

日本や韓国、北大西洋条約機構(NATO)に加盟する欧州各国と違い、ブラジルや南アは米国に防衛面で依存していません。

よって、米国とは同じ民主主義国家というイデオロギーがあっても、大統領の好き嫌いで高関税を課される国になり、米国から徐々に離反する傾向にあります。

8月7日にはBRICSに加盟するアラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ザイド大統領は、モスクワでロシアのプーチン大統領と会談し、今後5年間でロシアとUAEの貿易を倍増させると約束しました。

このような傾向は今後も継続されるでしょう。

今後は裸の王様に付き合い、防衛面だけではなく経済的にも痛手を被る国と、裸の王様に「君は裸だ!」と言える国で差が出てくることでしょう。

この差が通貨の強弱にもつながることを知らずにやってはいけないでしょう。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2025年8月18日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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