【5/15】1週間の振り返り
【5/15】1週間の振り返り
安田 佐和子
この記事の著者
ジーフィット為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

Executive Summary

  • 5月8~12日週、ドル円の変動幅は2円2銭と、その前の4円27銭から縮小した。ただし、過去5週間で4回目の上昇となる。
  • 米4月消費者物価指数(CPI)や同卸売物価指数(PPI)の鈍化、米新規失業保険申請件数の増加、米地銀の預金流出を受けた金融不安、米債務上限引き上げ交渉の難航などを受け、売りが優勢となり、5月11日に一時133.74円まで下落した。
  • しかし、5月12日に流れが反転。米5月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値で5年先インフレ期待が12年ぶりの水準に上振れしたほか、米商業銀行の預金流出にブレーキが掛かったため、一時135.76円まで上昇。一部では、安全資産としてのドルが見直され資金が流入したとの指摘も聞かれた。
  • 今週は、引き続き米債務上限問題を軸に上下に振れそうだ。16日には、バイデン大統領率いる民主党指導部と、マッカーシー米下院議長など共和党指導部が協議を予定する。CNNが米議会関係者の話を基に報じたところ、今週末までに妥協案の大枠が決まらなければ、早ければ6月1日に迎える債務不履行(デフォルト)の回避が困難となる。さらに、バイデン氏は岸田首相と5月18日に首脳会談を予定し、広島で19~21日に開催される主要7カ国首脳会議(サミット)に出席する見通しで、協議が遅れる公算が大きい。今週に一旦の峠を迎えることになり、過去78回にわたって米債務上限を引き上げたように、進展がみられれば、ドル円の上昇を促すだろう。逆に、失望に終われば一気にリスク・オフに突入する恐れもある。
  • また、今週は16日に米4月小売売上高や同鉱工業生産、15日に本邦1~3月期実質GDP速報値などを控える。日米経済指標にも、左右されそうだ。テクニカル的には買いのサインが優勢だが、米金融不安が燻ることもあり、今週のドル円の上値は5月2日の高値付近の137.70円、下値は5月11日の安値と50日移動平均線が近い137.70円と見込む。

1. 過去2週間の為替相場の振り返り=ドル円、137円回復後に急落

【5/8-12のドル円レンジ:133.74~135.76円】

・(過去2週間の総括)ドル円の変動幅は、5月8日週に2円2銭にとどまり、その前の週の4円27銭から半減し、足元のレンジ内での推移にとどまった。5月8~9日は小動きだったが、10日は米4月消費者物価指数(CPI)の前年同月比が4.9%と約2年ぶりに5%を割り込んだため、6月利上げ観測が払しょくされ、ドル円が緩む展開に。翌日には、地銀パックウエスト・バンコープが米証券取引委員会(SEC)に提出した書簡で預金流出が確認され、ドル円を下押しし一時133.74円へ下落。しかし、12日に米5月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値で5年先インフレ期待が12年ぶりの水準へ上振れした動きに反応したほか、米商業銀行の預金残高の増加を受け、135.76円まで買い戻され、135円後半で週を終えた。

・5月8日は、米連邦準備制度理事会(FRB)が銀行融資担当者調査を発表、融資基準の厳格化を確認した、一部で懸念されたほど引き締められず。翌9日にNY連銀のウィリアムズ総裁が「必要なら利上げの実施」と発言したこともあって、ドル円は米4月CPIを控え134円後半~135円前半を中心に推移した。

・5月10日は、米4月CPIの前年同月比が市場予想を下回り12年ぶりの低水準だったため、一時134.11円まで下落した。

・5月11日には、パックウエスト・バンコープがSECに提出した資料にて預金残高が前週比9.5%減少(15億ドル)したことが判明。さらに、FRBからの借り入れ拡大に向け51億ドルの融資債権を追加担保に差し入れ、当面の流動性資金を150億ドルに増加させたとも発表。さらに、米新規失業保険申請件数は2021年10月以来の水準へ急増したほか、ホワイトハウスがバイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長など共和党指導部との協議を12日予定だったところ、来週に延期すると表明した。一連のニュースを受け米地銀の破綻連鎖や米債務上限引き上げ難航、さらに米景気後退への懸念が強まり、ドル円は一時133.74円まで下落した。

チャート:米新規失業保険申請件数、2021年10月以来の水準へ増加

・5月12日には一転してドル買い戻しの展開。米5月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値が低下した半面、5年先インフレ期待が3.2%と12年ぶりの水準へ急伸したため、金利先高観からドル買いを促した。米債務上限引き上げ交渉が難航するなか、安全資産としてのドル買い需要も入ったもよう。さらに、NY引け直前に発表されたFRBのデータによれば、米商業銀行の預金残高が増加に転じたことも、ドル買いを支え、一時135.76円まで上昇した。

チャート:米5月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値、5年先インフレ期待が上昇

チャート:ドル円の日足チャート(白い枠が過去2週間のレンジ、白い線は3月8日の高値ライン、右軸は米10年債利回りで緑線)

(出所:Tradingview)

2.主な要人発言

・5月8~12日は、米国から米債務上限問題に絡む発言がみられたが、協議自体は進展せず。Feⅾ高官からは、NY連銀総裁が据え置き転換と利上げ継続双方を視野に入れた発言を行った半面、ジェファーソンFRB理事(5月12日、バイデン大統領からFRB副議長に指名された)やシカゴ連銀総裁などは信用動向を注視する姿勢を打ち出すなど、据え置き転換を支持するような見解を表明。欧州中央銀行(ECB)の高官は、ラガルド総裁を始め利上げ継続の見方が優勢だった。日本は、植田総裁の発言を確認したが、G7財務相・中央銀行総裁会議で協議された内容が主だった。

3.主な経済指標結果

〇米国の経済指標⇒米4月CPIや卸売物価指数(PPI)は、インフレ鈍化を示唆した。しかし、米5月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値での5年先インフレ期待が12年ぶりの高水準となり、インフレ懸念が再燃した。米新規失業保険申請件数は2021年10月以来の水準へ急増、労働市場の鈍化を確認した。

〇欧州の経済指標⇒ユーロ圏と独3月鉱工業生産の前月比が予想以上に悪化した半面、独4月CPIは市場予想通りで加速を回避した。イングランド銀行(BOE)は、0.25%の利上げを実施。今後の利上げ余地も残した。また、BOEは成長予想と共に、インフレ見通しを引き上げた。

〇日本と中国の経済指標⇒本邦経常収支は市場予想以下にとどまる黒字幅となり、2022年度ベースでは黒字額が前年度比で54.2%減少するなど、日本の稼ぐ力の減退を確認した。中国4月貿易収支は、輸入が7.9%減だったほか、中国4月CPIが前年同月比0.1%上昇で約2年ぶりの低い伸びになるなど、同国内の需要の回復の弱さを示した。

〇オセアニアの経済指標⇒豪の住宅指標と企業景況感指数は、そろって前月から弱含んだ。

今週の為替見通しに関しては、レポートの完全版をご覧ください。

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