
目次先週の動きを振り返る重要指標などの着眼点への変化もすでに金融機関は与信厳格化に・・・タイムラグに気を付ける 先週の動きを振り返る ゴール […]
【4/24-28のドル円レンジ:133.02~136.56円】
【5/1-5のドル円レンジ:133.50~137.77円】
・(過去2週間の総括)4月24日から2週間のドル円は、乱高下した。植田新総裁率いる日銀金融政策決定会合で4月28日、金融緩和の維持を決定した結果、ドル円でドル買い・円安が進行した。5月4日の欧州中央銀行(ECB)定例理事会を前に、利上げ期待からユーロ円で円安が進んだことも、ドル円を押し上げ。5月2日には、一時137.77円まで上値を広げた。しかし、3月8日の137.94円を超えられず、米銀破綻や5月FOMCを経て一時133.50円まで下落。5月5日発表の米4月雇用統計が市場予想を上回ったため一時的に135円台を回復しながら、134円後半で週を終えた。
・4月24~28日週は134円を挟んだ値動きを経て、4月28日に急伸した結果、上昇幅は3.54円と3月13日週以来で最大となった。
・4月28日に植田新総裁率いる日銀金融政策決定会合を受けて、早期の緩和修正期待が剥落(今週のトピックをご参照)した。さらに、前日の米1~3月期実質GDP成長率・速報値でインフレ指標が上振れた流れに合わせ、その日発表された米3月PCEコア価格指数が高止まりを示し、米連邦準備制度理事会(FRB、Fed)による利上げ警戒が高まった。一連の結果を受け、同日だけで3.19円もドル高・円安が進行した。
・5月1日、預金流出が取り沙汰されていた中堅のファースト・リパブリック・バンクが米預金保険公社(FDIC)の管理下に入ると共に、最大手のJ.P.モルガン・チェースによる買収が決定した。しかし、同日は5月FOMCの結果発表を3日に控え、ドル買いの流れが継続。
・5月2日、豪準備銀行(RBA、豪の中央銀行)が前回の据え置きから一転し、0.25%の利上げを決定したため、豪ドル円を通じた円売りが拡大。東京時間に、一時137.77円まで上昇した。しかし、米3月JOLT求人件数が2021年4月来で最低となったほか、中堅地銀のファーストリパブリックの破綻とJPモルガンによる買収をめぐり、地銀の健全性を巡る不安が再燃し、ドル円はNY時間に137円前半から136円前半へ1円以上も急落した。
・5月3日は、米4月雇用統計の前哨戦となる米4月ADP全国雇用者数が市場予想を上回ったものの、反応薄。5月FOMC声明文で据え置きが示唆されると、ドル円は134円半ばへ下落した。ファースト・リパブリック・バンクの破綻を受け、預金流出や商業不動産ローンのエクスポージャーが意識されたパックウエスト・バンコープやウエスタン・アライアンス・バンコープなどが急落するなど、連鎖的な地銀関連株の売りも、米金利とリスク選好度の低下に伴い、ドル円を押し下げた。ドル円は、一時133.50円と4月28日の日銀金融政策決定会合後の上昇をほぼ打ち消した。
・5月4日も、地銀株の下落を通じた金融不安の流れは止まらず。パックウエスト・バンコープはFDICの管理下に入ることを回避すべく身売りを検討中と報じられ、大幅続落した。ウエスタン・アライアンス・バンコープも事業売却検討と英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙が報じ、取引停止を挟みながら一時60%超も急落したが、同行はFT紙の報道を否定し、後に下げ幅を縮小した。ECBが予想通り利上げ幅を0.5%→0.25%へ縮小しつつ、利上げ姿勢を維持したものの、ユーロ円は上昇せず、ドル円の下落のブレーキとはならなかった。
・5月5日は、米4月雇用統計(以下、ご参考欄に詳細記述)が市場予想を上回ったため、ドル円は一時135.12円まで上昇。しかし、米銀破綻懸念を受け年内の利下げ転換期待は変わらず、134円後半で週を終えた。
チャート:ドル円の日足チャート(白い枠が過去2週間のレンジ、白い線は3月8日の高値ライン、右軸は米10年債利回りで緑線)
ご参考■米4月雇用統計は堅調な結果も、市場は年内3回の利下げを織り込む
米労働省が5月5日に発表した米4月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比25.3万人増となり、市場予想の18.0万人増を上回った。2021年1月以降続くプラス圏で最小だった前月の16.5万人増(23.6万人増から下方修正)を超え、28カ月連続で増加するなか堅調な伸びを維持。2022年平均の40.1万人増は下回った。
NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比23.0万人増と市場予想の16.0万人増を上回った。前月の12.3万人増(18.9万人増から上方修正)を超え、28ヵ月連続で増加した。民間サービス業は19.7万人増、前月の14.0万人増(19.6万人増から下方修正)を上回った。
チャート:NFPは堅調なペースを維持、失業率は低下
失業率は3.4%と、市場予想と前月の3.6%を下回り1969年5月以来の低水準を記録した1月の水準に並んだ。失業率の低下は、失業者が前月比18.2万人減少したことが寄与した。自発的離職者数は2カ月連続で減少し79万人となり、失業率を押し下げた。自発的離職者数に占める失業者の割合は13.8%と11カ月ぶりの低水準だった。
平均時給は前月比0.5%上昇の33.36ド ル(約4,500円)と、市場予想の0.3%を上回った。前月の0.3%も超え、27カ月連続で上昇している。前年同月比は4.4%上昇、市場予想の4.2%を上回り、前月の4.3%(前月の4.2%から上方修正)を超えた。生産労働者・非管理職の前年同月比は5.1%上昇、前月の5.3%に届かず、2021年6月以来の5%割れに迫った。
チャート:平均時給は、生産労働者・非管理職の前年同月比でピークアウト感が漂う
米4月雇用統計が堅調だったものの、FF先物市場では6月13~14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で据え置きの織り込み度が91.5%へ上昇しました。
チャート:FF先物市場では、6月FOMCでの据え置き予想が大勢
年内は5月FOMCの利上げでピークアウトし6月の据え置きの後、引き続き7月の利下げ転換、11月と12月を含め年内3回の利下げを織り込みます。
チャート:年内のFF金利織り込み度、利下げ転換予想は変わらず
その理由はなぜか。ひとつに、過去2カ月分の下方修正を経て、民間就業者数の過去3カ月平均は18.2万人増と2021年1月以来の低水準だった事実が挙げられます。明らかに雇用は減速しつつあり、加えて3月以降、3行の米銀破綻を受け規制強化観測を踏まえ融資基準がさらに厳格化したと想定され、米景気を下押ししかねません。これば、5月FOMCでも指摘されていました。
チャート:民間就業者数の3カ月平均、2021年1月以来の低水準
もうひとつ考えられるなら、雇用の拡大が起業の増加による押し上げ効果が挙げられます。
今まで筆者は、“複数の職を持つ者”がNFPを押し上げた可能性を指摘しておりました。理由は、NFPの場合、賃金をベースにカウントするためで、家計調査と異なるためです(i.e. 副業を持つ就業者の場合、NFPなら2つの雇用増とされるが、家計調査は仕事が2つあっても、1人分として集計する)。
しかし、今回の結果を踏まえると起業の増加による雇用増が考えられます、起業・閉鎖調整ベース(季節調整前)の雇用増加をみると、前月比37.8万人増と2022年10月以来の高い伸びを記録していました。ここで大注目は、業種別で専門サービスが13.3万件と、ベンチマーク改定を行った2022年4月以降で、全体と同じく2022年10月に次ぐ高水準だった事実です。専門サービスはエンジニアなどIT専門職が含まれるだけに、2022年後半からのIT大手企業のリストラに合わせ、起業の増加に伴い雇用が押し上げられた可能性を示唆します。
チャート:起業・閉鎖調整ベースの雇用増(季調前)は、4月に2022年10月以来の高水準
チャート:専門サービスの起業・閉鎖調整ベースの雇用増減は、2022年4月以降で同年10月に次ぐ高水準
さらに、荒っぽいことを承知で起業・閉鎖調整ベースの雇用増がNFP(季調前)比でどれほどだったかをみると、今回37.4%でした。2022年4月以降で最高だった1月の54.2%以下が続くとはいえ、2022年末以降、2019年の平均値の30%を上回る水準を維持しています。起業による雇用増加は決して悪いことではありませんが、IT企業のリストラによる副産物と想定され、米景気減速局面且つ米銀の2022年Q4の銀行融資単調者調査で貸出基準と貸出金利引き上げの回答が44.8%とリセッションの前兆となる40%超えの状況下、こうした雇用増が続くかは不透明と言えるでしょう。
チャート:NFP(季調前)と起業・閉鎖調整ベース、22年3月をゼロとした累積の雇用増
チャート:起業・閉鎖調整の雇用増、NFP比は4月に37.4%と、2022年末以降から2019年平均の30%超えを維持
FF先物市場で引き続き9月の利下げ転換、さらに年内3回の利下げが織り込まれているのは、米銀破綻が及ぼす米経済への悪影響、米債務上限引き上げ交渉の難航に加え、こうした雇用増加の脆弱性が意識されているのかもしれません。
ご参考■米1~3月期実質GDP速報値は1.1%増へ鈍化も、最終需要は3%超え
米商務省が4月27日に発表した米1〜3月期実質国内総生産(GDP)速報値は前期比年率1.1%増と、市場予想の2.0%増を下回った。前期の2.6%増を下回りつつ、3四半期連続のプラス成長に。内訳をみると、GDPの7割を占める個人消費は拡大を続けた。政府支出は3期連続で増加。また、輸入の減少に伴う貿易赤字の縮小を受け、純輸出も成長に寄与した。企業支出は在庫投資(機械、機器、部品、製造業、製造業、その他輸送機器が押し下げ)が大幅減となり成長を押し下げたほか、設備投資のうち機器投資は弱い。また、金利上昇が一服したなかでも住宅支出は8四半期連続でマイナスだった。
米1~3月期の実質GDP成長率・前年同期比は1.6%増と、2021年Q1以降のプラス成長を回復して以降、最も低い伸びにとどまった前期の0.9%増を上回った。9期連続でプラス成長を維持した。
チャート:Q1実質GDP成長率・速報値は1.1%増、潜在成長率2%超えを2期で止める
チャート:実質の金額ベースでは、過去最大を更新
GDPの項目別、前期比伸び率の詳細は以下の通り。
▽個人消費の内訳 ・個人消費 3.7%増、11期連続でプラス、前期は1.0%増
・財 6.5%増、4四半期ぶりにプラス、前期は0.1%減
・耐久財 16.9%増、4四半期ぶりにプラス、前期は1.3%減
・非耐久財 0.9%増、2四半期連続でプラス、前期は0.6%増
・サービス 2.3%増、11四半期連続でプラス、前期は1.6%増
▽民間投資の内訳
・民間国内投資 12.5%減、過去4四半期で3回目のマイナス、前期は4.5%減
・総固定資本形成 0.4%減、4四半期連続でマイナス、前期は3.8%減
・非住宅総固定資本形成 (企業の設備投資) 0.7%増、11四半期連続でプラス、前期は4.0%増
構築物投資 11.2%増、2四半期連続で増加、前期は15.8%増
機器投資 7.3%減、過去4四半期で3回目のマイナス、前期は3.5%減
知的財産 3.8%増、11四半期連続でプラス、前期は6.2%増
・住宅投資 4.2%減、8四半期連続でマイナス、前期は25.1%減
・在庫投資 16億ドルの増加、5四半期ぶりにマイナス、前期は1,365億ドルの増加
▽政府支出
・政府支出 4.7%増、3四半期連続でプラス、前期は3.8%増
連邦政府 7.8%増(防衛支出は5.9%増、非防衛財は%増)<前期は3.7%増と6四半期ぶりにプラス
州/地方政府 2.3%増、2四半期連続でプラス<前期は3.7%増と4四半期ぶりにプラス
GDP価格指数は前期比年率4.0%の上昇と、市場予想の3.7%と前期の3.9%を上回った。コアPCE価格指数は前期比年率4.9%上昇し、市場予想通の4.7%並びに前期の4.4%から加速、2021年Q2以来の強い伸びとなった。
――今回、実質GDP成長率こそ減速しましたが、国内の需要は堅調です。国内の最終需要(変動の大きい在庫投資や政府支出、純輸出を除く)は1~3月期に3.2%増と前期の0.7%増を上回り、2021年4~6月期以来の高水準でした。個人消費や企業の支出のうち構築物投資などが堅調だったため、このような結果となっています。
チャート:国内の最終需要(変動の大きい在庫投資や政府支出、純輸出を除く)、コロナ前の水準を回復
ただし、米銀破綻を受け堅調な需要が続くかは不透明です。今後の景気を占う上で米経済指標だけでなく、米銀の預金流出入やFRB資金供給の動向などをウォッチする必要性が高まります。
・4月24~28日分は、植田新総裁による大規模緩和維持へ向けた発言が目立った。米国からは、イエレン財務長官による米債務上限引き上げ要請に加え、5月1日にFDIC傘下に入るファースト・リパブリック・バンクに関する言及がみられた。ECB当局者からは、引き続き、利上げ幅に関する意見の相違を確認した。
5月1~5日週は、豪準備銀行や米連邦公開市場委員会(FOMC)、欧州中央銀行(ECB)など金融政策決定会合が集中し、FRB議長や各中銀の総裁の発言が注目された。
〇米国の経済指標(4/24日週)⇒インフレ指標は高止まりを示唆。米Q1GDPデフレーターやPCEコアデフレーターは加速し、米3月コアPCE価格指数は前年同月比で市場予想を上回ったほか、鈍化ペースがゆるんだ。その他、米1~3月期実質GDP速報値は市場予想を大きく下回ったが、これは在庫投資の減少が響いたためで、個人消費は堅調。米3月耐久財受注が示すように、製造業活動の減速を確認した。
〇米国の経済指標(5/1週)⇒5月FOMCでは、市場予想通り0.25%の利上げを行ったものの、今後の据え置きの可能性を点灯させた。注目の雇用指標はまちまちで、米3月求人数が2021年4月以来の水準に減少したが、米4月雇用統計は市場予想を上回り堅調だった。一方で、米4月ISM製造業景況指数は小幅改善したものの、6カ月連続で拡大・縮小の分岐点である50を割り込んだ一方、米4月ISM非製造業景況指数は改善した。
〇欧州の経済指標(4/24週)⇒ユーロ圏と独の1~3月期実質GDP速報値は、そろって市場予想以下にとどまった。独3月消費者物価指数は鈍化し、インフレが落ち着きつつある様子を示した。
〇欧州の経済指標(5/1週)⇒欧州中央銀行(ECB)は市場予想通り、前回の0.5%→0.25%へ利上げ幅を縮小、利上げ余地を示唆した。ユーロ圏と独の4月製造業PMI速報値は市場予想を上回ったが、サービス業PMIはユーロ圏が弱く独が市場予想を上回るなどまちまちだった。独については、3月製造業受注が市場予想を大幅に下回るマイナスだったことが嫌気された。
〇日本と中国の経済指標(4/24週)⇒日銀展望レポートは、2025年度見通しの中央値が1.6%と目標値の2%に届かず、日銀金融政策決定会合での大規模緩和維持とともに、緩和修正期待を剥落させた。物価指標を振り返ると、3月企業向け物価は鈍化も、4月東京都区部CPIは加速していた。3月の有効求人倍率と失業率は、市場予想より弱い結果となった。
〇日本と中国の経済指標(5/1週)⇒日中とも、ゴールデンウィークや労働節を受けて休場が多いなか、中国4月財新の製造業とサービス業のPMIが市場予想以下となり、中国景気回復期待を剥落させた。
〇オセアニアの経済指標(4/24週)⇒豪の1~3月期CPIは市場予想を超えたほか、卸売物価指数(PPI)前期比で加速、翌週の豪準備銀行(RBA)での利上げ再開につながったとされる。
〇オセアニアの経済指標(5/1週)⇒豪準備銀行(RBA)は、市場予想と前回の据え置きに反し0.25%の利上げを決定した。また、豪3月小売売上高は市場予想を上回った。NZの1~3月期不就業者数は市場予想を上回る伸びだったほか、3月住宅建設許可件数も前月を上回った。
今週の為替見通しに関しては、レポートの完全版をご覧ください。
【完全版】Weekly Report (5/8): 「ドル円、日銀の緩和修正期待剥落と米銀破綻問題でレンジ相場突入か」
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