【6/12】1週間の振り返り
【6/12】1週間の振り返り
安田 佐和子
この記事の著者
ジーフィット為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

アナリストレポート

Executive Summary

  • ドル円の変動幅は6月5日週に1円69銭となり、その前の週の2円51銭から一段と縮小しただけでなく、年初来で2番目に小さな値動きとなった。翌週の米5月消費者物価指数(CPI)や6月13~14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)、15日の欧州中央銀行(ECB)理事会、米中の5月小売売上高と鉱工業生産、15~16日の日銀金融政策決定会合を控え、小動きに終始。米5月ISM非製造業景況指数など米指標を受け週間では続落したが、日銀金融政策決定会合での大規模緩和維持の報道を受け、下値は138.76円まで限られた。
  • 今週のドル円は、重要イベント目白押しで急変動に注意したい。米5月CPIは、クリーブランド連銀のナウキャストによれば、市場予想通り大幅鈍化する見通し。6月FOMCではこれを受け、四半期に一度公表される経済・金利見通しで、物価見通しが下方修正される余地を残す。また、米5月失業率が3.7%と前月比で0.3%上昇したこともあり、失業率見通しも弱い方向へ修正されかねない。
  • 仮にFOMCで経済見通しが下方修正されるならば、FOMC参加者のFF金利予想・中央値が3月時点の5.0-5.25%から上方修正されても、あと1回の利上げと判断され、ドル円が上振れしても一時的となりうる。あるいは、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見でタカ派姿勢を維持しつつ、FF金利予想・中央値を前回で据え置く可能性も考えられよう。5月FOMC議事要旨によれば、「一部(several)」の参加者は、経済見通し通りに進展するなら追加利上げが必要ない可能性を指摘。インフレ高止まりを受け、追加利上げが必要と主張した「複数(some)」の参加者より多かった。
  • 日銀の金融政策決定会合では、大規模緩和維持との見方が強い。また、万が一、岸田首相が7月の衆院解散・総選挙を発表した場合は、日銀が7月の金融政策決定会合でイールド・カーブ・コントロール(YCC)を修正する可能性が極めて低下するため、ドル円に上値圧力を加えそうだ。しかし、介入警戒もあって上滑りした場面では、利益確定が入ってもおかしくない。
  • テクニカル的には、上値余地を残しつつも、ボリンジャー・バンドは縮小しつつあり、トレンド転換の可能性を示唆し始めたようにも見える。上方向にも下方向にも振れやすい地合いとなっており、重要イベントを数多く控えることもあって、急変動が意識されよう。ドル円の上値は、22年10月高値と1月安値の61.8%戻しにあたる142.50円、下値は200日移動平均線がある137.30円と見込む。なお、年初来で最も変動が大きかったのは1月2日週の5.27円で、5円超の変動幅は稀に発生することがある。

1.先週の為替相場の振り返り=ドル円、米指標に反応し下落も総じて小動き

【6/5-6/9のドル円レンジ:138.76~140.45円】

・(先週の総括)ドル円の変動幅は6月5日週に1円69銭となり、その前の週の2円51銭から一段と縮小した。4月17日週以来、年初来では2番目に小さな変動となる。また、週ベースでは続落した。米5月ISM非製造業景況指数や米新規失業保険申請件数など、弱い米指標を受けて下落したものの、重要指標やイベントに乏しく、下値は138.76円と限られた。また、6月16日に結果発表となる日銀金融政策決定会合で、大規模緩和を維持する見通しとの報道も、ドル円の売り圧力を抑えた。

・6月5日、東京時間夕方に一時140.45円へ上昇した。しかし、米5月ISM非製造業景況指数が50.3と5カ月ぶりに景気拡大・縮小の分岐点となる50割れが迫っただけでなく、インフレ圧力を示す仕入れ価格が2020年3月以来、約3年ぶりの低水準となり、ドル円は一時139.25円へ下落した。



チャート:米5月非製造業景況指数




・6月6日は、材料不足のなか139円台で小動きに終始した。

・6月7日は、カナダ中銀が市場予想に反し3会合ぶりの利上げを発表した結果、米10年債利回りが一時3.8%を付けた動きにつれドルが買われ、ドル円は一時140.23円まで上昇した。

・6月8日は、一転してドル円が下落。日本のQ1実質GDP成長率・改定値が上方修正された。また、米新規失業保険申請件数が2021年10月以来の26万件台に乗せ、労働市場が鈍化した可能性を示唆。ドル円は139円を割り込み、138.80円まで下落した。



チャート:日本の実質GDP成長率・改定値では前期比年率2.7%増と、速報値の1.6%増から上方修正



チャート:米新規失業保険申請件数、2021年10月以来の水準へ増加、約1カ月前に同水準へ増加した当時はマサチューセッツ州での不正申請での水増しが発覚したが、今回はどうなるか。



・6月9日、東京時間に日銀が6月18~19日の金融政策決定会合で大規模緩和を維持すると報じられ、ドル円の買いを誘った。しかし、一時139.72円までの上昇にとどまり140円台を回復できず、NY時間には一時138.76円まで下落。ただし、NY引けには139円前半へ戻した。なお、13日夕に岸田首相が記者会見と報じられ、衆院の解散・総選挙を発表するとの思惑が流れたが、事前に少子化問題に関する内容とも伝わり、影響は限定的だった。



チャート:ドル円の日足チャート(白い枠が今週のレンジ、緑線・左軸は米10年債利回りを表す)

(出所:TradingView)

2.主な要人発言

・6月5~6月9日は、6月FOMCを控え、Fed高官は同3日からブラックアウト期間に入ったため、金融政策に関する発言が控えられた。欧州中央銀行(ECB)当局からは、ラガルド総裁やシュナーベルECB理事、独連銀総裁、オランダ中銀総裁、アイルランド中銀総裁、クロアチア中銀総裁などから利上げ継続を示唆する発言を行った。日本からは、少子化対策に関する発言などが飛び出したが、市場への影響は限定的。植田日銀総裁は引き続き緩和維持の方向性を示した。中国の人民銀総裁は、足元の景気鈍化懸念を払しょくする見解を表明。豪中銀総裁は、利上げ再開につきインフレ上昇を挙げた。

3.主な経済指標結果



〇米国の経済指標⇒米5月ISM非製造業景況指数が5カ月ぶりの水準に低下したほか、米新規失業保険申請件数が2021年10月以来の水準へ増加するなど、弱い数字が目立った。



〇欧州の経済指標⇒ユーロ圏Q1実質成長率は前期比にて2期連続でマイナスとなり、独に続きテクニカル・リセッション(2四半期連続でマイナス)に陥った。その他、ユーロ圏と独のサービス部門PMI改定値を始め独4月製造業受注やユーロ圏4月小売売上高なども、市場予想以下にとどまった。対して、英5月サービス業PMI改定値は市場予想を小幅に上回った。


〇日本と中国の経済指標⇒日本のQ1実質GDP成長率・改定値は、企業の設備投資などに支えられ上方修正となった。4月国際黒字は貿易赤字幅が縮小したため、改善した。中国は5月財新サービス業PMIが市場予想を上回ったが、中国5月貿易収支で輸出と輸入が共に減少。中国5月消費者物価指数は市場予想を下回り、同生産者物価指数(PPI)はマイナス幅を広げ景気減速懸念を強めた。



〇オセアニアの経済指標⇒豪Q1経常収支は市場予想以下の黒字にとどまったほか、豪Q1GDPも市場予想以下に終わり、利上げを再開したものの景気鈍化を示唆した。NZはQ1製造業売上高が前期より弱い結果となった。

今週の為替見通しに関しては、レポートの完全版をご覧ください。

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