【6/19】1週間の振り返り
【6/19】1週間の振り返り
安田 佐和子
この記事の著者
ジーフィット為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

アナリストレポート

Executive Summary

  • ドル円の変動幅は6月12日週に2円90銭となり、その前の1円69銭から拡大した。米連邦公開市場委員会(FOMC)や欧州中央銀行(ECB)が利上げ姿勢を鮮明とした半面、日銀は大規模緩和策を維持した結果、ドル買い・円売りが加速し、週ベースでは3週ぶりに上昇。ドル円は6月16日、日銀金融政策決定会合後に上値を切り上げ、一時141.91円まで年初来高値を更新、2022年11月以来の高値をつけた。
  • 今週のドル円は、前週に続き上方向の展開を見込む。今週は、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB、Fed)議長の議会証言を始め、ブラックアウト期間の終了を受け、Fed高官の発言がひしめく。タカ派発言でドル円が押し上げられる場面がありそうだ。また、22日に予定するイングランド銀行の金融政策委員会(金融政策決定会合に相当)では、追加利上げが見込まれ、クロス円での上昇もドル円を支えうる。
  • 日銀が金融政策決定会合で大規模緩和を維持し、展望レポートが公表される次回7月27~28日開催の会合でも緩和修正が不透明な状況下、ドル円の上昇ブレーキは、介入警戒程度しかない。幸い、米財務省が6月16日公表した半期に一度の為替報告書で、日本は「監視対象国」から除外された。2022年9~10月のドル売り・円買い介入を実施していたが、「円相場の過度な変動を低下させることが目的」と明記されており、今年も介入を行うのであれば、お墨付きを得たも同然と捉えられよう。
  • なお、首相官邸は19日、岸田首相が今国会の会期末である21日の夕方に会見を行うと発表した。毎日新聞の調査で支持率が1カ月で12ポイント急落の33%と、産経・FNN合同世論調査でも46.1%と前回比4.3ポイント低下するなど、支持率が低下する状況。永田町界隈では、解散・総選挙は支持率の低下を受けて秋の臨時国会後との思惑もある。しかし万が一、解散・総選挙となれば、21日に会期末を延長し、天皇・皇后両陛下が帰国される23日を待って、解散発表とのシナリオが浮上する。そうなれば、7月の緩和修正期待が一段と遠のき、ドル円を押し上げよう。
  • 今後1週間のドル円は、上方向継続へ。上値の目途は、2022年10月高値と1月安値の61.8%戻しがある142.50円と見込む。ただ、RSIが割高感を示す70に接近しており、これまでのパターンであれば、一旦ゆるむ場合も想定しておきたい。介入警戒感が根強い点も、意識される。下値は、20日移動平均線が控える139.90円。

1.先週の為替相場の振り返り=ドル円、米指標に反応し下落も総じて小動き

【6/12-6/16のドル円レンジ:139.01~141.91円】

・(先週の総括)ドル円の変動幅は6月12日週に2円90銭となり、その前の週の1円69銭から拡大した。週ベースでは、3週ぶり上昇した。6月13~14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを見送ったものの、年内2回の利上げを示唆したほか、欧州中央銀行(ECB)が15日に市場予想通り利上げを決定しつつ、少なくとも次回7月も利上げを行う見通しが高まった。一方で、日銀は16日に金融政策決定会合で大規模緩和維持を決定。米欧との金利差拡大が意識され、ドル円は2022年11月以来の高値をつけた。


・6月12日は、米5月消費者物価指数(CPI)を控え139円台で小動き。


・6月13日は、米5月CPIの前年同月比が市場予想を下回り、2021年3月以来の低い伸びにとどまったため、一時139.02円まで下落したが、コアCPIの高止まりを意識し140.30円台へ戻した。

チャート:米5月CPI、全体の前年同月比は2021年3月以来の低い伸びだが、コアCPIの鈍化ペースは引き続きゆるやか

・6月14日は、FOMCの結果発表前に一時139.20円台へ下落したものの、FOMCが公表した経済・金利見通しで参加者のFF金利予想・中央値が0.5%引き上げられ5.6%と設定され、年2回の利上げが示唆されたため、140.20円台へ上昇した。
・6月15日、岸田首相が翌16日にも衆院を解散し総選挙を決定するとの観測が流れた結果、日銀が7月に緩和修正を行う期待が剥落し、一時141.50円まで上昇。しかし、米5月輸入物価指数や米新規失業保険申請件数の増加を受け、米利上げ懸念が後退し140.20円台までゆるんだ。

チャート:米5月輸入物価指数は4カ月連続で下落、2020年5月以来の下落率


チャート:米新規失業保険申請件数は2週連続で2021年10月以来の高水準

・6月16日、日銀が金融政策決定会合で大規模緩和維持を決定すると、ドル円は再び買いが優勢となった。植田総裁の会見中もドル円は上値を切り上げ米国時間には米6月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値が4カ月ぶりの水準へ改善するなか、再び米利上げ観測が強まり、ドル円は上値を拡大。米国の3連休を控え、一時141.91円と2022年11月の高値を更新した。

チャート:米6月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値は4カ月ぶりの水準を回復、1年先インフレ期待は2年ぶりの低水準

チャート:ドル円、5月以降の日足チャート(白い枠が今週のレンジ、緑線・左軸は米10年債利回りを表す)

(出所:TradingView)

2.主な要人発言

・6月12~16日は、6月FOMCのブラックアウト期間が明け、ウォラーFRB理事やリッチモンド連銀総裁から、利上げ継続のタカ派姿勢を確認した。ECB当局者は、ラガルドECB総裁や独連銀総裁、ベルギー中銀総裁、スロベニア中銀総裁などからインフレ次第で7月以降の利上げの必要性についての言及が見られた一方、仏中銀総裁は引き続き慎重な姿勢を打ち出した。日本は、植田総裁が大規模緩和を維持した会合後の会見で、物価が今後鈍化していく可能性に言及したものの、鈍化のペースが鈍いとも発言。イールド・カーブ・コントロール(YCC)については、サプライズの修正もやむなしと含みをもたせた。

3.主な経済指標結果

〇米国の経済指標⇒6月FOMCでは利上げを見送ったものの、年内2回の利上げの可能性が示唆された。米5月消費者物価指数(CPI)は概ね市場予想通り鈍化しつつ、CPIの前年同月比は市場予想以下となった。米5月生産者物価指数(PPI)や米5月輸入物価も前年同月比で著しい鈍化を確認。また、米新規失業保険申請件数は労働市場の減速、米5月鉱工業生産は生産活動の軟化を示唆した。一方で、米5月小売売上高は堅調な消費動向を表したが、税還付の影響が大きいと想定される。

〇欧州の経済指標⇒欧州中央銀行(ECB)は理事会で0.25%の利上げを決定したほか、ラガルドECB総裁は利上げ継続の姿勢を打ち出した。また、ECBスタッフ見通しでもインフレ見通しが上方修正され、利上げ継続の可能性を裏付けた。ユーロ圏5月消費者物価指数(HICP)は前年同月比で鈍化したが、ECBはインフレ高止まりに警戒を示す。テクニカル・リセッション入りしたように、ユーロ圏の4月鉱工業生産は前月より下げ幅を広げた。Q1実質成長率は前期比にて2期連続でマイナスとなり、独に続きテクニカル・リセッション(2四半期連続でマイナス)に陥った。その他、ユーロ圏と独のサービス部門PMI改定値を始め独4月製造業受注やユーロ圏4月小売売上高なども、市場予想以下にとどまった。対して、英5月失業保険申請件数は労働市場の底型を示した。

〇日本と中国の経済指標⇒日銀は金融政策決定会合で大規模緩和の維持を決定した。5月貿易収支は22カ月連続で赤字となり、前年比で赤字の伸び率は鈍化したものの、依然として大幅赤字となり日銀の決定と共に円安観測を強めた。4月機械受注は、市場予想を上回る結果となったが、世界経済の鈍化により輸出が鈍る可能性が想定される。中国は5月の小売売上高と鉱工業生産が引き続き軟調で、同日に中国人民銀行(中央銀行)は、中期貸出制度(MLF)金利を10カ月ぶりに引き下げ、ゼロ・コロナ終了も遅々として進まない景気回復を下支えする姿勢を鮮明にした。

〇オセアニアの経済指標⇒豪5月失業率は市場予想を下回り、利上げ再開でも労働市場の堅調ぶりを支援した。NZQ1経常赤字は、市場予想より縮小した。

今週の為替見通しに関しては、レポートの完全版をご覧ください。

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