【6/5】1週間の振り返り
【6/5】1週間の振り返り
安田 佐和子
この記事の著者
ジーフィット為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

アナリストレポート

Executive Summary

  • ドル円の変動幅は5月29日週に2円51銭となり、その前の週の3円24銭を下回った。変動幅を狭めつつ、ドル円は期間中に一時は140.93円と年初来高値を更新したが、その後に財務省・金融庁・日銀の3者会合が開催され、介入懸念が強まった。また、ジェファーソン米連邦準備制度理事会(FRB、Fed)理事などの発言で、6月FOMC利上げ見送り観測が再燃したことも、材料視し一時138.42 円まで下落。ただ、米5月雇用統計を受け7月追加利上げ観測が強まると、ドル円は一時140台を回復した。
  • 今週のドル円は、本邦当局による介入警戒から上値余地が限られよう。6月13~14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前にFed高官がブラックアウト期間に入るため、金融政策についての発言が控えられる。また米経済指標も、6月5日の米5月ISM非製造業景況以外に重要指標を予定せず、手掛かり難となりそうだ。
  • 懸念材料としては、米財務省短期証券(Tビル)の大量発行が挙げられる。米債務上限を2025年1月まで停止する“財政責任法”がバイデン大統領の署名により6月3日に成立したため、米財務省は2017年以来の水準まで落ち込んだ現金保有高を受け、Tビルを通じ資金調達を行う見通しだ。J.P.モルガン・チェースやゴールドマン・サックスの試算では、向こう6~7カ月間で1兆ドルに及ぶだけに、米金利とドルに上昇圧力を加えうる。一方で、市場から資金を吸収するだけに、株式市場などリスク資産の下落を招きかねない。海外勢の日本株買い意欲が低下するならば、ドル円の上値は介入警戒もあって限られよう。
  • テクニカル的には、20日移動平均線が200日移動平均線を上抜けたようにゴールデンクロスが形成され、“三役好転”などを含め、引き続き上昇サインが優勢だ。しかし、介入警戒感がくすぶるほか、重要イベントを予定せず、上値は重くなりそうだ。RSIが未だ63.8と高水準にある点も、上値の余地の狭さを示唆する。従って、ドル円の上値の目途は141.20円、下値は5月の安値から6月高値の61.8%戻しにあたる138円ちょうど付近と見込む。

1.先週の為替相場の振り返り=ドル円、140.93円まで年初来高値を更新


【5/29-6/2のドル円レンジ:138.42~140.93円】

・(先週の総括)ドル円の変動幅は5月29日週に2円51銭となり、その前の週の3円24銭から縮小した。また、週ベースでは4週ぶりに反落した。5月26日発表の米4月PCE価格指数の再加速した結果、6月利上げ観測が強まった。さらに、米債務上限停止法案の採決を5月31日に控え妥結期待から米金利は低下したものの、リスク選好度が高まり、ドル円は5月30日に一時140.93円まで年初来高値を更新した。しかし、同日に財務相・日銀・金融庁が3者会合を開催したため、本邦当局によるドル売り・円買い介入懸念が高まった。さらに、ジェファーソン米連邦準備制度理事会(FRB)理事やフィラデルフィア連銀総裁の発言を受け、6月FOMC利上げ見送り期待が再燃し、ドル円は上げ幅を縮小する展開。6月1日には、米大1四半期単位労働コストが市場予想を大幅に下回るなど、弱い米指標が飛び出し一時138.42円まで下落。ただし、翌2日には米5月雇用統計を受けて一時140円台を回復した。

・5月29日、米4月PCE価格指数の再加速を手掛かりとしたドル買いが続き、米国や英国などが休場だったものの、一時140.92円まで上昇した。
・5月30日は、東京時間の午後にドル買いが膨らみ、一時140.93円まで切り上げたが、その後、財務省・金融庁・日銀による3者会合が開催され、本邦当局による介入警戒が高まった。結果、NY時間には139円半ばまで下落した。

・5月31日は、ジェファーソンFRB理事やフィラデルフィア連銀総裁が6月13~14日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを見送るとの示唆を与え、ドル円の下落を誘った。さらに、同日にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が、Fed番記者であるニック・ティミラオス記者による同様の観測記事を配信し、6月利上げ観測が一段と後退し(ただし、利上げ終了を意味しないとも報道)、ドル円は139.20円台へゆるんだ。

・6月1日には、米Q1単位労働コスト確報値が市場予想と速報値の6.3%を大幅に下回る4.2%となり、賃金圧力の後退が意識された。米5月ISM製造業景況指数も7カ月連続で分岐点を割り込んだだけでなく、仕入れ価格が5カ月ぶりの水準に低下しインフレ圧力の低下を示した。さらに、米5月ADP全国雇用者数が市場予想を上回ったものの、米5月チャレンジャー人員削減予定数が増加、年初来ではコロナ禍を除けば2009年以来の水準に増加した。一連の結果を受け、6月利上げ見送り観測が強まり、ドル円は約1週間ぶりに139円を割り込んで一時138.42円まで下落した。


チャート:Q1の単位労働コストは前期比年率4.2%、市場予想と速報値の6.3%を下回る



チャート:米5月ISM製造業景況指数は7ヵ月連続で分岐点の50を割り込み、仕入れ価格指数は5カ月ぶりの低水準、新規受注も4ヵ月ぶり水準に低下。



チャート:チャレンジャー人員削減予定数、2023年に入ってから増加が鮮明に

・6月2日は、一転してドル買い戻しが優勢に。米5月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が前月比33.9万人増と市場予想の18万人増を大幅に上回ったため、7月25~26日開催のFOMCで利上げ観測が再燃、ドル円を押し上げ一時140台を回復した。


チャート:7月FOMCでの利上げ織り込み度、6月1日に低下した後で翌2日に再び逆転



チャート:ドル円の日足チャート(白い枠が今週のレンジ、右軸は米10年債利回りで緑線)

(出所:Tradingview)

2.主な要人発言

・5月29~6月2日は、ジェファーソンFRB理事やフィラデルフィア連銀総裁など、6月FOMCで利上げ見送り発言が相次いだ。なお、6月FOMCを控え、Fed高官は同3日からブラックアウト期間に入るため、金融政策に関する発言ができなくなる。一方で、欧州中央銀行(ECB)当局からは、ラガルド総裁やパネッタECB理事、その他タカ派寄りの中銀総裁が利上げ継続に言及した一方で、仏中銀総裁や伊中銀総裁などハト派寄りは引き続き利上げ継続に慎重な見解を示した。日本からは、財務省・金融庁・日銀の3者会合後に神田財務官が「過度な(為替)変動は好ましくない」などと発言、ドル円の下落につながった。

3.主な経済指標結果

〇米国の経済指標⇒米5月雇用統計を中心に堅調な労働指標が相次いだが、米5月チャレンジャー人員削減予定数は高水準を続け、年初来ではコロナ禍を除き2009年以来の水準に膨らんだ。また、米Q1単位労働コスト・確報値は市場予想と速報値を下回り、賃上げ圧力の後退を示唆した。米住宅指標は市場予想を上回る結果が優勢。一方で、米5月ISM製造業景況指数が7カ月連続で分岐点の50を割り込んだように、製造業活動は軟調だった。



〇欧州の経済指標⇒ユーロ圏と独の消費者物価指数はそろって鈍化し、インフレ圧力の後退を示唆した。逆に、ユーロ圏と独の5月製造業PMI改定値は、上方修正。独5月失業率は市場予想通りだったほか、独4月小売売上高も市場予想以下にとどまった。英5月製造業PMI改定値は市場予想を上回った。



〇日本と中国の経済指標⇒日本の4月失業率は市場予想を下回り改善した半面、4月鉱工業生産は市場予想に反しマイナスとまちまちな結果となった。Q1法人企業統計での設備投資額は、AIなどを軸に投資意欲が高まったとみられ、市場予想と前月を上回った。中国5月財新製造業PMIは、中国国家統計局発表の結果に反し分岐点の50を回復した。



〇オセアニアの経済指標⇒豪4月CPIは加速したほかQ1民間設備投資も市場予想を上回り、利上げ観測を強めた。NZの指標結果はまちまちだった。

今週の為替見通しに関しては、レポートの完全版をご覧ください。

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