Weekly Report(10/6)「高市自民党新総裁誕生でドル円は再び上値試すか、日本の入札も試金石」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は9月29日に週に2.95円、9月22日週に2.50円から拡大した。9月29日週までの週足では、6週ぶりに反落。前週比では2.03円の下落となり、年初来リターンは前週の4.9%安から6.2%安へ戻した。9月22日週は、パウエルFRB議長が10月利下げ示唆せず、米Q2実質GDP成長率・確報値や米新規失業保険申請件数が強い結果となったため利下げ期待が後退し、一時149.96円と8月1日以来の150円乗せが迫った。一転して9月29日週は、ハト派とされる野口審議委員が予想外に年内利上げに前向きと受け止められる発言を受けてドル円は急落。米政府機関の閉鎖も重なり、一時146.59円まで売られた。もっとも、植田総裁の発言が10月利下げに前向きと解釈されず、自民党総裁選を週末に控え、週後半は147円台を中心としたレンジに戻した。
  • 自民党は11月で、結党70周年を迎える。その節目の直前である10月4日に行われた自民党総裁選にて投開票が行われ、高市早苗前経済安全保障相が選出された。同氏は「責任ある積極財政」を掲げる上、新総裁として臨んだ記者会見でも日銀の利上げに慎重な立場とみられ、ドル円の一段高が予想されている。しかし、①日銀法第4条を重視する立場で、利上げを完全に否定していない、②麻生太郎最高顧問の尽力を得て総裁選に勝利するなか、党内人事は消費税減税に否定的な麻生氏を副総裁に、財政規律を重んじる鈴木俊一前財務相を充てる方向、③トランプ政権からの対ドルでの円安是正圧力――が想定され、150円が下限となるようなレンジブレークは難しいのではないか。
  • トランプ政権下、米政府機関が閉鎖された。共和党下院が可決したつなぎ予算をめぐり、民主党上院が①オバマケア補助金延長、②7月に成立した「一つの大きく美しい法案(OBBBA)」に盛り込まれた低所得者層向け医療保険メディケイドの制限・削減条項の撤廃――などを目指し反発し、議論は膠着中。ただ、1990年や1995年など、利下げサイクル期に政府機関が閉鎖された当時、米連邦公開市場委員会(FOMC)は利下げを継続。民間や米連邦準備制度理事会(FRB)、連銀によるデータは公表され、足元発表された指標は労働市場の減速を示すだけに、10月利下げは正当化されそうだ。
  • 10月6日週の主な経済指標として、8日に日本8月実質賃金と国際収支、19日に日本9月国内企業物価指数、米10月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値が控える。米政府機関の閉鎖を受け、米政府発表の指標は予定しない。
  • その他、政治・中銀関連では、6日に日銀支店長会議と地域経済報告(さくらレポート)の公表、ラガルドECB総裁とベイリー英中銀総裁の発言、7日にNY9月インフレ期待発表、米3年債入札、ミランFRB理事を始めミネアポリス連銀総裁、アトランタ連銀総裁の発言を予定する。8日にNZ準備銀行(RBNZ)の政策金利発表、植田総裁の発言、米10年債入札、9月FOMC議事要旨の公表、バーFRB理事やセントルイス連銀総裁、ミネアポリス連銀総裁の発言など、イベンド目白押しに。9日は日本5年債入札、米30年債入札、パウエルFRB議長やボウマンFRB理事、バーFRB理事の発言の他、ベッセント財務長官とボウマンFRB理事の対談が控える。10日はSF連銀総裁やシカゴ連銀総裁、セントルイス連銀総裁の発言を予定する。
  • ドル円のテクニカルは、再び中立寄りにシフト。ドル円は9月25~26日に一目均衡表の雲の上限や24年9月安値と25年1月高値の149.23円をクリアに上抜けし、レンジブレークを達成したが、足元は再び雲の中へ押し返された。しかも、直近では200日移動平均線や21日移動平均線、50日移動平均線が抵抗線に転じている。自民党の新総裁に高市氏が選出されたため、買いが再燃しそうだが、国債入札を予定するなか、堅調に消化すれば一段安を回避する可能性もある。一方で、下値も24年9月安値と25年高値の61.8%押しがある146.95円や90日移動平均線と一目均衡表の雲の下限がある146.80円に支えられ、動きづらい状況。加えて、RSI(14日)は8月以降のレンジの下限にある42付近で切り返す傾向が続いており、下値余地があるようにも見えない。
  • 以上を踏まえ、今週の上値の目途は前週高値を少し上回る150.50円、下値は前週安値付近の146.50円と見込む。


【9月22~26日のドル円レンジ: 147.46~149.96円】

【9月29日~10月3日のドル円レンジ:145.59~149.54円】

ドル円の変動幅は9月29日週に2.95円、9月22日週に2.50円から拡大した。9月29日週までの週足では、6週ぶりに反落。前週比では2.03円の下落となり、年初来リターンは前週の4.9%安から6.2%安へ戻した。9月22日週は、パウエルFRB議長が10月利下げ示唆せず、米Q2実質GDP成長率・確報値や米新規失業保険申請件数が強い結果となったため利下げ期待が後退し、一時149.96円と8月1日以来の150円乗せが迫った。一転して9月29日週は、ハト派とされる野口審議委員が予想外に年内利上げに前向きと受け止められる発言を受けてドル円は急落。米政府機関の閉鎖も重なり、一時146.59円まで売られた。もっとも、植田総裁の発言が10月利下げに前向きと解釈されず、自民党総裁選を週末に非控え、週後半は147円台を中心としたレンジに戻した。

22日のドル円は買い先行を経て軟調。東京市場は、前週末の日銀金融政策決定会合後の植田総裁会見で10月利上げが示唆されなかった流れを受け、ドル円は上昇してスタートした。東京時間の早々に前週末に続き一目均衡表の雲の上限を抜け148円台を回復し、一時148.38円まで本日高値を更新。しかし、200日移動平均線が控え押し返され、ロンドン時間に入ってからは材料不足のなかで一転して売りが優勢となった。NY時間には一時147.67円まで本日安値を更新、そのまま雲の中へ押し返されてNY時間を終えた。セントルイス連銀総裁などタカ派的なFed高官の発言が飛び出したが、ミランFRB理事が中立金利は従来の水準より低下しているとの見解を示すなか、影響は限定的だった。

23日、ドル円は引き続き軟調。東京市場が休場のなか、昼頃に一時147.89円と本日高値を付けた程度で、自民党総裁選の討論会が開催されても反応薄となり、148円割れの推移をキープし一目均衡表の雲の中に押し返された推移となった。ロンドン時間には、一時147.52円まで本日安値を更新。NY時間も小動きが続き、国連でのトランプ大統領の演説に対しても反応は限定的だった。むしろ、パウエルFRB議長が「短期的なインフレへのリスクは上方向、雇用へのリスクは下方向に傾いており、厳しい状況だ」と発言、10月の利下げを示唆しなかったため、ドル円は147.93円まで本日高値を付けた。

24日、ドル円は大幅上昇。前日のパウエル発言の流れに加え、市場予想を上回る豪8月CPIがクロス円を通じた買いを招き、ドル円は東京時間から上昇した。高市前経済安保相が「金融政策の『手段』は日銀が決めるべきだ」との発言も、政府が責任を負うと述べたことが意識され、ドル円は右肩上がりの展開。ロンドン時間には148円台を回復し、NY時間には、ベッセント財務長官、年末までに1.0~1.5%の利下げが適切との見方を示唆しても反応薄で、①200日移動平均線(オレンジ線)の148.53円、②5月12日の高値、148.65円(白線)――など節目を超え、一次148.92円まで本日高値を更新した。

25日、ドル円は大幅続伸。東京時間から前日の解の流れを受け継ぎ148円後半で推移し、8月企業向けサービス価格指数は、5カ月ぶりに加速したほか、桜井元審議委員がロイターとのインタビューで10月利上げの可能性に言及しても、影響は限定的。むしろ、NY時間に米新規失業保険申請件数や米8月耐久財受注、米Q2実質GDP成長率・確報値が市場予想より強い結果になると、ドル円は急伸した。8月1日以来の149円を突破し、24年9月安値と1月高値の半値押し149.23円も超え、一時149.93円まで切り上げた。

26日、ドル円は堅調も上値が重い。東京時間こそ、前日までの流れを受け一時149.96円と8月1日以来の高値をつけたが、その後は150円手前にもみ合いを継続。トランプ大統領が25日夜にブランド医薬品および特許取得済みの医薬品に100%の関税、トラックに25%、キッチンキャビネット、バスルーム洗面台に50%、布張り家具に30%の関税を課すと発表したことで、不確実性の再燃も意識された。NY時間に発表された米8月PCE価格指数が市場予想通りにとどまると小幅に下押しされ、一時149.41円まで本日安値をつけた。

29日、ドル円は下落。前週末に共同通信が「日銀、利上げへ地ならし」、日経新聞も日銀の10月利上げ観測について報道するなか、ドル円は軟調にスタートした。野口審議委員が講演で「利上げの必要性が高まる」と述べ予想外に年内利上げに前向きと受け止められ、一段安の展開。ロンドン時間に一時148.47円まで本日安値を更新した後、NY時間は148円後半でのもみ合いに終始した。

 30日、ドル円は続落。東京時間に一時148.85円まで本日高値を更新したが、日銀の主な意見で9月会合にて「そろそろ再度の利上げを考えてもいい時期かもしれない」などとの見解を確認し、売りの流れを後押しした。ロンドン時間には200日移動平均線や148円を割り込み、NY時間には米8月求人件数が市場予想を上回ったものの、米9月消費者信頼感指数が弱く一時147.65円まで本日安値を更新。9月末の交渉期限を控え、米政府機関の閉鎖も、意識された。

 1日、ドルは3日続落。ドル円は東京時間の仲値にかけ一時148.23円まで本日高値を更新したが、その後は日銀短観が10月利上げを連想させる結果となったこともあり、売りが売りを呼ぶ展開に入った。特に、米政府機関の閉鎖決定後は21日移動平均線がある147円後半から一気に下滑りし、ロンドン時間には147円割れ。NY時間に米9月ADP全国雇用者数が予想外に減少すると、一時146.59円まで週の安値をつけた。ただ、その後は米9月ISM製造業景気指数が改善したほか、米連邦最高裁がトランプ大統領の解任要請に反しクックFRB理事の職務継続を26年1月の口頭弁論まで認めたため買い戻され、147円台を回復してNY時間を終えた。

 2日、ドル円は3日ぶりに反発。ドル円は内田副総裁の挨拶を受けて一時146.80円台へ下落も、10月利下げを示唆したとは判断しづらく、すぐに一時147.52円まで本日高値へ切り返した。しかし、ロンドン時間には、146.60円まで本日安値を更新。NY時間には買い戻され、147円前半でNY時間を終えた。

 3日、ドル円は軟調。ドル円は植田総裁の挨拶を受けて上昇し、質疑応答の間に一時147.82円まで本日高値をつけた。もっとも、21日移動平均線では売りに押され、上げ幅を縮小。ロンドン時間からは上げ幅を縮小し、NY時間には米9月ISM非製造業景況指数で雇用と仕入れ価格が前月を上回るなか、147円半ばまで押し返した。

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