―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は6月16日週に2.57円と、その前の週の2.68円から小幅に縮小した。週足では、反発。前週比では1.98円の上昇となった。年初来リターンは前週の8.4%安から7.1%安へ縮小した。イスラエルとイランの間で軍事衝突が発生し、地政学的リスクに備えドルの手当てに動く「有事のドル買い」が発生、ドル買いが優勢となった。日銀が利上げに急がず、米連邦公開市場委員会(FOMC)が利下げに慎重な姿勢を示したこともドル買いを後押しし、5月29日以来の146.22円へ切り上げ、大台を維持して週を終えた。
- 日銀金融政策決定会合を6月16ー17日に開き、無担保コールレート翌日物の誘導目標を0.5%での据え置きを決定した。国債買い入れ減額については中間評価を行うなか、事前報道通り、減額ペースを四半期毎に4,000億円→2,000億円へ引き下げを決定。会合後の会見で、植田総裁は今後の利上げにつき、通商政策の不確実性を強調。中東情勢の緊迫化については「現状そこまで至らず」との見方を寄せ、引き続き利上げに急がない姿勢を表明した。もっとも、米国は6月21日にイラン核施設への攻撃に踏み切り、イランが原油輸出の25%を担うホルムズ海峡の封鎖が懸念される。仮にこうした事態に発展すれば、原油高に伴いエネルギー輸入国との理由から貿易赤字拡大懸念を受け、円安が加速しかねない。
- 米連邦公開市場委員会(FOMC)が6月17-18日に行われ、FF金利誘導見通しは4.25-4.5%で据え置きを決定。注目の経済・金利見通し(SEP)では、成長率と失業率の見通しが弱い方向へ修正され、インフレ見通しが上方修正され、FOMC参加者の間でスタグフレーション懸念が強まっている様子が浮き彫りとなった。年内の利下げ見通しは2回で維持されたが、据え置き予想は前回の4人→7人へ増加。パウエルFRB議長は、通商政策の不確実性を挙げ「夏場にさらにインフレが上向く」可能性に言及し、利下げに急がない立場を強調した。中東情勢の緊迫化については一時的となる見通しを示したが、米国によるイラン核施設攻撃を受け、WTI原油先物が急伸し高止まりが続けば、利下げへのハードルが上がりそうだ。反面、米労働市場も着実に減速しており、Fedの金融政策には不確実性が高まりつつある。
- トランプ政権は6月21日、イラン核施設を攻撃した。今後は外交的解決を模索する姿勢を表明するも、イランが応じるかは不透明だ。そのイランは、同議会が6月22日にホルムズ海峡封鎖を承認したと報じられている。最終決定は、国家安全保障最高評議会とハメネイ師によって下される見通しだ。ホルムズ海峡は世界の原油の約20%が通過する重要な海上輸送経路なだけに、原油輸入の約9割を中東が占める日本を始め、世界経済の大打撃となること必至。ルビオ国務長官は6月22日、中国に対しイランにホルムズ海峡を封鎖しないよう説得を呼びかけたが、情勢は不透明だ。WTI原油先物の上昇、「有事のドル買い」で反応すれば、円安へのリスクを高めうる。
- 6月23日週の主な経済指標として、23日にユーロ圏、独、米の6月総合PMI速報値(製造業、サービス業含む)、米5月中古住宅販売件数、24日は米6月消費者信頼感指数が控える。25日は日本5月企業向けサービス価格指数、26日は米Q2実質GDP成長率・確定値、米5月耐久財受注、米新規失業保険申請件数、27日に日本5月失業率と有効求人倍率、東京都区部6月CPI、米5月PCE価格指数などを予定する。
- その他、政治・中銀関連では23日にラガルドECB総裁の発言、ウォラーFRB理事やボウマンFRB理事、クーグラーFRB理事、シカゴ連銀総裁の発言、24日にNATO首脳会議(トランプ大統領が出席)、パウエルFRB議長による米下院金融サービス委員会で金融政策に関する半期に一度の議会証言を始め、バーFRB理事、NY連銀総裁、ボストン連銀総裁の発言を予定する。また、25日は田村審議員の発言、パウエルFRB議長による米上院銀行委員会で金融政策に関する半期に一度の議会証言、26日にリッチモンド連銀総裁やクリーブランド連銀総裁、バーFRB理事の発言、27日にNY連銀総裁とクリーブランド連銀総裁の発言が控える。
- ドル円のテクニカルは、強いシグナルが点灯。ドル円は、週後半の下値が一目均衡表の雲の下限で支えられ、上値で見ると一目均衡表の上限を突破してNY時間を終えた。三角保ち合いも上抜け、上昇に転じる気配が漂う。6月20日の上値は90日移動平均線で止められたが、ここを抜けてくれば、年初からの下落トレンドの転換が意識される。
- 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の147.50円、下値は50日移動平均線付近の144円ちょうどと見込む。
1.先週のドル円振り返り=日米金融政策と中東情勢緊迫化でドル買い優勢、ドル円は146円乗せ
【6月16~20日のドル円レンジ: 143.65~146.22円】
ドル円の変動幅は6月16日週に2.57円と、その前の週の2.68円から小幅に縮小した。週足では、反発。前週比では1.98円の上昇となった。年初来リターンは前週の8.4%安から7.1%安へ縮小した。イスラエルとイランの間で軍事衝突が発生し、地政学的リスクに備えドルの手当てに動く「有事のドル買い」が発生、ドル買いが優勢となった。日銀が利上げに急がず、米連邦公開市場委員会(FOMC)が利下げに慎重な姿勢を示したこともドル買いを後押しし、5月29日以来の146.22円へ切り上げ、大台を維持して週を終えた。
16日、ドル円は買い基調。13日にイスラエルがイランの核施設などを攻撃した報道を受け、「有事のドル買い」から買いが先行した。トランプ大統領が米軍施設などを攻撃する場合は全力で対応すると構えつつ、ディールを模索する意向を15日にトゥルース・ソーシャルで投稿したことも、意識された。ドル円は東京序盤に144.70円台へ上昇。もっとも、中東情勢をにらみつつも、明日の日銀金融政策発表をにらんだポジション調整の動きも入り、上げ幅を縮小した。NY時間には、米6月NY連銀製造業景気指数が市場予想より悪化したため、一時143.65円まで本日安値を更新。その後は、米20年債入札が堅調で、米国売り懸念が後退、米10年債利回りが低下したもののドル円は一時144.88円まで本日高値を更新した。
17日、ドル円は買い優勢。ドル円は前日の流れを受け継ぎ買いが入り、一時145.11円まで本日高値を更新した。日銀金融政策発表前には上げ幅を削り、市場予想通り金利据え置きと、国債買い入れ減額ペースにつき毎四半期2,000億円への引き下げを決定すると、セル・ザ・ファクトで売りが入った。植田総裁会見前には買いが再燃、植田総裁が関税の賃金への波及効果について、冬のボーナスや来年の春闘に言及すると、再び145円台へ切り返した。もっとも、買いの流れは続かず。NY時間に米5月小売売上高が市場予想以下となり、一時144.38円まで本日安値を更新したが、リテールコントロール(GDPに使用される小売売上高から自動車、ガソリン、建築材、外食除く)が市場予想より強かったため買い戻された。
18日、ドル円は買い先行後に上げ渋り。ドル円は中東情勢をにらみながら、東京時間に一時145.44円まで本日高値を更新した。ロンドン時間には、イランのハメネイ師が「イランは強いられた戦争に断固立ち向かう」との見解を表明し、144円半ばへ下落した。NY時間には、米新規失業保険申請件数が市場予想比で堅調となったことで一瞬下振れも買いを後押し。米連邦公開市場委員会(FOMC)で金利据え置きと四半期に一度公表される経済・金利見通しで年内2回の利下げ予想維持を確認した結果、一時144.33円まで本日安値を更新。しかし、パウエルFRB議長が会見で夏場にインフレ上振れする可能性に言及するなどタカ派的な姿勢を打ち出すと、145円前半へ切り返した。
19日、ドル円は買いの流れが継続。パウエルFRB議長のタカ派的な見解に加え、トランプ大統領が17日夜にイラン攻撃を承認し、最終判断を保留との報道もあって、買いが続いた。ロンドン時間ではスイスが利下げを行いゼロ金利へ回帰したが、イングランド銀行が据え置きを決定するなか、ドル円はクロス円の押し上げもあって一時145.77円まで本日高値をつけた。NY時間は、米国がジューンティースの祝日を受け、ホワイトハウスの報道官がトランプ大統領からの声明として、「2週間以内」にイラン攻撃を行うかどうかを決定すると発表しつつも、高値圏での推移が続いた。
20日、ドル円はNY時間に一段高。ドル円は、東京序盤に5月全国消費者物価指数(CPI)のコアなどの加速を受け売りが入ったものの、限定的な動きにとどまった。植田総裁が講演で、見通しが実現していけば、「政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と発言も、こちらにも概ね反応薄。NY時間でウォラーFRB理事が7月にも利下げの可能性に言及したものの、ドル円は一段高の展開に入った。FRBが半期に一度の金融報告で労働市場は堅調と判断した一方で、関税を受けたインフレには不確実性が高いとの見解を寄せたことも材料視され、薄い時間の引け前に5月29日以来の146円に乗せ一時146.22円まで週の高値を更新した。
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