【1/30】今週の予定と為替見通し
【1/30】今週の予定と為替見通し
安田 佐和子
この記事の著者
ジーフィット為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

アナリストレポート

今週の経済指標予定

・赤字が最重要、青字がある程度重要な経済指標 orイベントとなる。

為替見通し:ドル円はFOMCやECB、米雇用統計控え乱高下も

【1月30日~2月3日週の為替予想レンジ:127.10~131.20円】 ドル円は前週、筆者の予想通り上値の重さを確認した。今週は2月1日にFOMC、同2日にECBの政策発表を控える。さらに同3日には米1月雇用統計を控え、前週より乱高下するリスクに留意したい。
 前週にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が次回FOMCで利上げ幅を0.25%へ縮小すると伝えたほか、春頃の利上げ打ち止めを協議すると報じており、市場予想はハト派寄りに傾いていそうだ(ご参考:1月23日付けWeekly Report)。つまり、パウエルFRB議長が高金利を維持する構えを強調するなど、タカ派的姿勢を打ち出せば、ハト派期待が剥落し、米10年債利回りとドル円を押し上げよう。
 ただし、米債務上限引き上げ交渉が難航する恐れがあり、米10年債利回りとドル円は上放れしづらいと見込む(ご参考:1月23日付けWeekly Report )。何より、ECB理事会では0.5%利上げが予想される上、ラガルド総裁が会合後の記者会見で3月の0.5%利上げを示唆する可能性がある。仮に3月までECBが0.5%の利上げを続ければ、米欧金利差はこれまでの2%から1.5%へ縮小する見通し。さらにFF先物市場で見込まれるように、Fedが5月以降据え置きに転じ、ECBが利上げを続ければ、米欧金利差はさらに縮まる。対ユーロでのドル売りにつながり、引き続きドル円の上値を抑えるのではないか。

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チャート:FF先物市場、引き続き3月に4.75~5.0%での利上げ打ち止め、11月の利下げ転換の見方が優勢

チャート:日欧金利差は今後縮小へ(2、3月は見通し)

 米1月雇用統計も、ドル円の上昇を限定的とさせうる。米新規失業保険申請件数は未だ低水準にあるため、雇用は勢いを維持しているようだ。しかし、1月に入ってテクノロジー企業を中心に大規模な人員削減を発表、雇用の伸びは鈍化する公算が大きい。人員削減関連情報サイトのレイオフスによれば、全世界で1月30日までに219社が6万8,000人のリストラを発表したという。2022年全体で1,000社、15万4,336人だった結果を踏まえれば、金利上昇や需要の落ち込みに合わせ、企業は人員削減に踏み切らざるを得ない様子が見て取れる。


 人材派遣大手レジメビルダーが2022年12月に米企業1,000社に対して実施した調査でも、人員削減を進める方向性を確認した。今年「リストラを行う予定」と回答した企業は61%に及び、規模については57%が「従業員の30%以上」とした。また、70%は「採用凍結」を決定する公算が大きいという。
 こうした状況を踏まえれば、足元で堅調な労働市場は中期的に減速する見通しだ。仮に米1月雇用統計の結果が堅調だったとしても、賃上げ圧力の後退などがドル円の上値を重くさせうる。

テクニカル的にも、ドル円は乱高下した後に上方向で定着するとは見込みづらい。引き続き20日移動平均線で上値が抑えられている(下のチャート、オレンジ線)。また、RSIでは1月27日時点で43%と、売られ過ぎの水準として意識される30%を上回った。
 ドル円は、2022年10月21日に151.94円の高値をつけた後の下落局面では、RSIの30%割れではもみ合いを経て、売りを再開させてきた。足元の水準を踏まえれば、ドル円の売りポジションが一旦調整され、再度下値を狙う余地があると言えそうだ。従って、ドル円は乱高下しつつも方向性はダウンサイドと考えられよう。下値の目途は、引き続きボリンジャーバンドのマイナス2σの水準(ブルーの枠の下側)となりそうだ。

チャート:ドル円、上値は20日移動平均線(オレンジ線)、下値はボリンジャーバンド(青枠)のマイナス2σの水準のレンジ相場か

今週のトピック:米10~12月期実質GDP成長率、好調な数字に潜む景気減速の影

米1012月期実質国内総生産(GDP)速報値は前期比年率2.9%増と、市場予想の2.8%増を上回った。前期の3.2%増に続き、2四半期連続のプラス成長に。内訳をみると、GDPの7割を占める個人消費は拡大を続けた。政府支出は2期連続で増加。また、輸入の減少に伴う貿易赤字の縮小を受け、純輸出も成長に寄与した。企業支出はプラスだったものの在庫投資が支え、設備投資のうち機器投資は弱い。一方で、金利上昇を背景に住宅支出は7四半期連続でマイナスだった。

米経済の寄与度は、項目別に以下の通り。前述の通り、個人消費は前期から小幅鈍化しつつも20年Q2以降、10四半期連続でプラスを維持した。純輸出は、中国がゼロ・コロナ政策を背景に輸入が減速し(※22年11月にゼロ・コロナ政策への抗議活動→同年12月から徐々に緩和)3四半期連続でプラス。政府支出は2四半期連続でプラスだった。企業支出は、在庫投資が支えプラスを維持したものの小幅にとどまった。一方で、金利上昇と価格高騰を受け、住宅投資も6四半期連続でマイナスとなった。

・個人消費 1.42%pt、20年Q2以来10四半期連続でプラス<前期は1.54%pt
・企業支出 0.09%pt、20年Q2以来10四半期連続でプラスだったが最も小幅<前期は0.8%pt
・住宅投資 1.29%ptのマイナス、7四半期連続でマイナス>前期は1.42%ptのマイナス
・純輸出 0.56%pt、3四半期連続でプラスも最も小幅<前期は2.86%ptと少なくとも2000年以降で最大
・政府支出 0.64%ptのプラス、2四半期連続でプラス<前期は0.65%ptのマイナス

チャート:Q4実質GDP成長率・速報値は、2四半期連続で潜在成長率2%超えと好調

チャート:実質の金額ベースでは、過去最大を更新

GDPの項目別、前期比伸び率の詳細は以下の通り。

▽個人消費の内訳

・個人消費 2.1%増、10期連続でプラス<前期は2.3%増
・財 1.1%増、3四半期ぶりにマイナス>前期は0.4%減
・耐久財 0.5%増、3四半期ぶりにマイナス>前期は0.8%減
・非耐久財 1.5%増、4四半期ぶりにプラス>前期は0.1%減
・サービス 2.6%増、10四半期連続でプラス<前期は3.7%増


▽民間投資の内訳

・民間国内投資 1.4%増、3四半期ぶりにプラス>前期は9.6%減
・総固定資本形成 6.7%減、3四半期連続でマイナス>前期は9.6%減
・非住宅総固定資本形成 (企業の設備投資) 0.7%増、10四半期連続でプラス<前期は6.2%増
 構築物投資 0.4%増>前期は3.6%減と6四半期連続でマイナス
 機器投資 3.7%減<前期は10.6%増
 知的財産 5.3%増、10四半期連続でプラス<前期は6.8%増
・住宅投資 26.7%減、7四半期連続でマイナス>前期は27.1%減
・在庫投資 1,299 億ドルの増加、4四半期連続でプラス>前期は387億ドルの増加

▽政府支出

・政府支出 3.7%増、2四半期連続でプラス=前期は3.7%増
連邦政府 6.2%増(防衛支出は2.4%増、非防衛財は11.2%増)<前期は3.7%増と6四半期ぶりにプラス

州/地方政府 2.3%増、2四半期連続でプラス<前期は3.7%増と4四半期ぶりにプラス

GDP価格指数は前期比年率3.5%の上昇と、市場予想の3.3%を超えたが前期の4.8%は下回った。コアPCE価格指数は市場予想通り前期比年率3.9%上昇、前期の4.7%以下だった。


――22年Q4実質GDP成長率・速報値は、個人消費が堅調だったほか純輸出、政府支出、企業の在庫投資が支え潜在成長率を超えてきました。バイデン大統領は結果を受け「労働市場は依然として非常に力強く、消費がいく分鈍化したとはいえ消費支出で成長が確認できる」とバージニア州で演説、堅調な景気動向をアピールしていました。ただし、米債務上限引き上げ問題でカギを握る米下院歳入委員会委員長のジェイソン・スミス議員(共和党、ミズーリ州)は「足元の需要や投資は弱いままで、成長の半分は在庫投資によるものだ」と一蹴していたのです。

確かに、Q4は潜在成長率2%を上回り、GDPの7割を占める個人消費が成長の寄与の半分を占めていました。しかし、スミス議員の指摘通り企業の設備投資のうち機器投資のマイナスを在庫投資の寄与度が1.46%ptと相殺していたのです。米12月小売売上高が2カ月連続で減少するように需要が鈍化する局面で、在庫投資が来期も成長を押し上げるとは想定しづらい。さらに、米12月鉱工業生産で製造業が2カ月連続でマイナスだったほか、GDPの企業投資に反映される米12月耐久財受注・コア資本財の出荷が2カ月連続で減少した通り、設備投資がさらに鈍化するリスクをはらみます。その上、成長に寄与した純輸出も、世界的な景気減速をプラス幅の縮小が見込まれるだけでなく、マイナスに転じないとも限りません。

何より、国内の最終需要(変動の大きい在庫投資や政府支出、純輸出を除く)は0.8%増と前期の1.5%増を下回り、コロナ禍の回復期で2番目に小幅な伸びでした。結果、国内の最終需要はプラスを維持するも、2期連続で小幅にとどまり実質GDP成長率を下回り、明らかに米国内の需要は積極的なFedの利上げによって着実に鈍化しつつあります。

チャート:国内の最終需要(変動の大きい在庫投資や政府支出、純輸出を除く)、2四半期連続で伸び率は実質GDP成長率以下


実際、米12月個人消費支出は前月比0.1%減と2カ月連続で減少しました。PCE価格指数も前年同月比は5.0%上昇し2021年9月以来の低い伸びとなり、消費と物価は減速を確認しています。

FF先物市場では、結果を受け引き続き1月31~2月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)と3月20~21日のFOMCで0.25%ずつの利上げを行い、FF金利誘導目標を4.75~5.0%へ引き上げた時点で引き締め策の打ち止めが織り込まれています。また、10月31~11月1日のFOMCで利下げに転換するとの見方が引き続き優勢でした。12月の追加利下げ観測が後退したとはいえ、高金利を暫く維持するとのFedの姿勢より緩和的な見通しとなっています。

チャート:FF先物市場では、引き続き11月の利下げ転換を織り込む

次回FOMCでは利上げの最終地点が協議される見通しですが、高金利を維持するならばインフレを一段と鈍化させるだけでなく、個人だけでなく企業の需要を抑えることでしょう。

今週の為替見通しに関しては、レポートの完全版をご覧ください。


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