Weekly Report(4/8):「USD円高値更新」に向け大変動のマグマは着実に蓄積中
吉岡 豪麿
この記事の著者
ジーフィット 取締役CAO

国内大手金融機関の外国為替取引部門で外国為替、外国証券等のディーラーとして20年、海外金融機関でアセットマネージャーとして15年以上の経験を有する為替のエキスパート。貿易企業の経営者を経て、企業年金基金の資産運用を担当。2021年1月よりCAOとして投資助言部門を担当。

マーケット分析

<テクニカル分析判断>   

●短期:上昇の過熱感は残存も速度調整で緩和進展。環境整い再び上値余地模索の展開が始動へ

●中期:上昇の過熱感は緩和が進展。目標値165円超に向けた超長期円安トレンドが本格化へ

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3/18週は「寄付151.32:150.81~151.95:終値151.62(前週比+0.27円の小幅な円安)」となり、週足では前週の横ばいから小幅な陽線に転じた。また、(注目度は希薄なようだが)週足の終値ベースでは「151.62円」と昨年11月6日週の151.50円を僅かに上回り、1990年7月以来34年ぶりのUSD円高値水準を記録した。

前週も指摘した通り、<テクニカルには「短期・中期・長期の全ての時間軸で(超長期が示唆していた)『USD高円安トレンド』への“同期”が着実に進展している」>との我々の判断に著変はない。ただ、152.00の水準をなかなか突破できない状況を「上昇圧力の疲弊」と捉える向きも少なくないようだ。

確かに、上図でも分かる通り先週の高値は151.95までで、その前の週の高値151.97にも僅かに届いていない。一方、下値に目を向けると、前週より僅かに水準を切り下げたものの150.81とこちらも下方硬直的な推移と言っても過言ではない。まさに「戻り売り」と「押し目買い」の相反する強力な圧力が拮抗している状況だ。しかし、後掲➋でも詳述しているが<超長期的時間軸が示唆していた『USD高円安トレンド』への“同期”が着実に進展>していると捉える我々にとっては「ここ2週の保合い推移はそれまでの急速な上昇によって生じた“過熱感”を緩和/抑制するための踊り場であり、今後の上昇余地を拡大するための重要なプロセス」との認識を継続している。

なお、(イースター休暇の影響もあり)結果として2週前に0.95円と約2年半ぶりの低変動率に落ち込んでいた週間レンジは、先週も1.14円と低変動を継続。しかしながら、今後については再び<比較的高めの市場変動率>の復活を想定している

以下ではいつも通り『短期・中期・長期の方向性』について各時間軸チャートによるテクニカルな視点を中心にご案内。(今号の分析は2024/04/05のNY市場終値をベースに実施)

<以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数>

➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド」、「52MA & 200MA」、RSIを付記  

短期(1週間~1か月弱)の方向性:速度調整により上昇の過熱感は緩和。再度上値模索開始か?

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3/18週に指摘の通り、21MAを上方突破後は正に急騰。短期時間軸では明らかに「上昇を志向」していたことを確認ただ、この急伸により短期的には上昇の過熱感が台頭していた。

しかし、直近2週は保合い推移となったことで「速度調整効果」が見られ、過熱感は徐々に緩和してきた。RSIや下方転換したストキャスティクスがもう少し水準を切り下げれば、再び反発の余地を模索する展開へと移行しそうだ。

>>>想定レンジ=今週:150.60~153.15 、今後1ヶ月:148.65~154.20 =

➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSIを付記 

中期(1か月~半年程度)の方向性:上昇の過熱感は緩和。長期目標165円超に向け始動開始か?

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□既述の通り、トレンドは円安へ大きく傾斜。<赤い➊●➋を結んだ上昇トレンドラインは重要な下値支持ラインとして機能(➋140.24で下げ止まった後急反発)しており、時間の経過と共に通常の推移レベルを徐々に上方に押し上げ>。このトレンドラインと151.90円台の水平線で形成される「アセンディング・トライアングル」はセオリー通り、上方の水平線を終値で突破する可能性が極めて高くなった

上記に伴い、今後のテクニカルな展開のシナリオは以下の通り

(近々示現すると思われるが、終値で152円台を示現した場合127.22円(2023/1/16)を起点とする長期的な上昇(トレンド)は、151.92円(同11/13)で一旦上昇波#1を終え、140.24円(同12/28)で調整波#2を形成。このケースでは『新たな上昇波#3』を構築中ということになる

>>>長期的な目標値は最小でも164.94円:試算根拠は上図ご参照

<<<「上昇波#3の値幅」は「上昇波#1の値幅(24.7円)」を上回る:エリオット波動理論

>>> 今後6か月間の想定レンジ 148.65~157.80 ⇒ 148.65~157.95 =

➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記

長期(半年超~1年程度)の方向性:中期下落トレンドは昨年末終了。既に超長期上昇トレンドが再開

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3月は上旬の急落をものともせず、月末にかけて大きく反発。これで年初から3ヶ月連続の陽線を形成し、(超)長期的な上昇圧力の根強さを改めて強調した恰好

>>>我々の従前からのメインシナリオは「(数年単位の)超長期上昇トレンドが本格化する前に『中長期的下落トレンドに入る』可能性が高い」だった

>>>しかしながら、3/18週にも指摘した通り「既に本年初から『超長期上昇トレンドが再開』していたことがほぼ確実」となっていた

ただし上図で示した通り、2021年以降は「3連続陽線の後には例外なく陰線が出来」しており今回もそのパターンが見られる可能性あり

>>>ただ、仮に一旦陰線が示現するとしても20MAとの乖離が大きくない」ことから、2021年や2023年の4例と同様にその影響は軽微に止まり、上昇再加速への軌跡を辿る可能性が高いと想定

>>> 今後1年間の想定レンジ = 148.65~165.00 ⇒ 148.65~165.00 =

<ファンダメンタルズ分析判断>

□先週の日米金融市場は「日米共に金利上昇・株価下落・USD円強含み保合い」(下表右端)

◎米国:「債券利回り上昇」を受けて「株式市場は反落」・「USD円強含み保合い」

●日本:「2年債利回りは再度0.2%超。市場金利は上昇」を受けて「株価は大幅続落」

◇日米の金利差は拡大も「急速な円安に対する牽制」への警戒感から「USD円は保合い」中心

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【米国】週間の変化

□経済指標:経済指標は総じて強弱マチマチ。注目の雇用統計は予想比やや強め

◇米3月雇用統計:細部では労働市場の“質の低下”が窺え(ヘッドラインが示すほど)力強い内容とは言い難い印象

>>>ただし、昨今下掲と同趣旨の発言が増えている通り「FRBが“利下げを急ぐ必要なし”」との認識をより強く市場に浸透させるだけの効果はあった模様

>>>実際、政策金利先物市場では「FRBが6月に利下げに着手する確率は53.3%に低下(前日は66%)

>>>また、市場が見込む年内の利下げ回数は3回未満に低下。2週前は3~4回だった

◇先週の米要人発言~引き続きタカ派的

〇ダラス連銀ローガン総裁:「利下げについて検討するのは時期尚早」、「(利下げ前には)経済がどの方向に進んでいるかという不確実性がさらに解消されている必要がある」

〇ボウマンFRB理事:「インフレ率には複数の上振れリスクがなお存在している」、「利下げが適切になる段階にはまだ達していない」、「利下げについて考えるのはあまりにも早すぎる」

◇債券利回り:上記のファンダメンタルズを巡る状況から、長短金利は上昇

> 2年債利回り:3/28  4.620% ⇒ 4/5  4.751%(前週比+0.131%上昇)

>10年債利回り:3/28  4.200% ⇒ 4/5  4.402%(前週比+0.202%上昇)

=>10年-2年の逆イールドは「▲0.349%へ前週比で縮小」(下図)

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◎株式市場:債券利回りの大幅上昇を受けて「堅調を維持していた株式市場もさすがに反落」

【日本】週間の変化

□主な経済指標:注目の日銀短観では「物価見通し高止まり」によって追加利上げ観測が台頭

◇本邦金融当局者の発言:以下ごく一部抜粋

・鈴木財務相:「為替相場はファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましい。過度な変動は望ましくないというのが基本的な考え方だ」、「円相場について高い緊張感をもって見ている」、「円安の行き過ぎた動きにあらゆる手段を排除せず断固たる措置をとる」との円売り牽制発言

・植田日銀総裁:「為替の動向が賃金・物価に無視できない影響を与えそうなら、金融政策として対応(≒追加利上げ)する理由になる」との円売り牽制発言

⇒ 介入警戒感高まり、USD円急落

>>>ただし、下値は150.81円までで21日移動平均線(150.51円@4/5)にすら達せず

◇債券利回り:週間では「2年債利回りが再び0.2%超」など長短共に上昇

> 2年債利回り:3/29  0.188% ⇒ 4/5  0.206%(前週比+0.018%上昇)

>10年債利回り:3/29  0.725% ⇒ 4/5  0.770%(前週比+0.045%上昇)

◇主要株価指数:市場金利上昇/米株安の影響を受け揃って大幅続落

>TOPIX:前週末比▲3.41%安

>日経平均株価:前週末比▲2.38%安

既述の通り、新年度最初の週は「日米共に金利上昇&株価下落」と波乱の幕開けとなりましたが、一方で「USD円相場は151円台での保合い」が続き、各金融市場の変動率にもかなりの乖離が見られました。

結果的にUSD円相場が保合いを継続したことで、<テクニカルには「短期・中期・長期の全ての時間軸で(超長期時間軸が示唆していた)『USD高円安トレンド』への“同期”が着実に進展している」>との我々の判断にも、今のところ変化はありません。

また、現在のUSD円相場の膠着(?)をもたらしている<「戻り売り」と「押し目買い」の相反する強力な圧力が拮抗している>要因については、先週のレポートの当欄にて詳細にご案内しておりますので、是非ご覧頂きたいと思います。

万が一、先週分にアクセスできない方のために、簡単にポイントだけご案内すると以下の通りです。

1)超長期的な円安トレンドをもたらす主因は「大幅なマイナス圏に位置する日本の実質金利」であり、「(対USDを始め)対主要国通貨との間に存在する“大幅な実質金利差”」<=『日本(円)の弱点』>

>>>現在もこの状況に著変はなく、超長期的な基本トレンドは『USD高/円安』が続く

2)「現時点での日本単独での市場介入(USD売り円買い)における円安抑制効果は一時的なものに止まり、長期的にはほとんど期待できない」<=市場介入ではトレンドを反転させることは出来ない>

>>>152円を目前にUSD円がピークアウト(反落)した過去2回(2022年10月・2023年11月)は、いずれのケースも「米国の金融政策に対する見方がハト派方向へとシフトしてUSD指数が下落した結果」

>>>そもそも『2023年11月は市場介入が実施されていない』し『市場介入が実施された2022年当時よりも、(USD指数は下落しているのに)現在の方が円安』であることからもそれは明らか

>>>一方、現状は過去2回と全く逆と言っても過言ではない状況。本年初来の強めの経済指標により、昨年終盤にUSD指数を押下げた「米国の利下げ期待が大きく後退」。何かを契機に、USD高が再起動しても不思議ではない状況だし、その際は、USD円も素直につれ高となる蓋然性が高い

更に上記に追加するとすれば『現時点での市場介入が正当化できるのか?』という点

本邦通貨当局者の言を借りるまでもなく為替相場(変動)の原則は以下につきます。

◎『為替相場は各国のファンダメンタルズを反映して安定的に推移することが望ましい』

>>>しかしながら、上記1)の状態にある上に「GDPランキングで昨年のドイツに続き、インドにも抜かれる寸前」の日本のファンダメンタルズに照らせば、より円安になってもおかしくありません

>>>また、安定的ではない(=急激な変化)と言えるほどヴォラティティ(変動率)も高くはありません

>>>さらに「インフレ高止まり」を懸念している米国が、輸入インフレを助長しかねない『USD売り介入』に素直に賛意を示すかどうかにも大きな疑問がつきまといます

以上、あまり変化の無かった先週のUSD円相場に対する我々の判断をザックリと総括しましたが、最後に(既述の通り)「2022年以降で3度目となる“152円突破”への留意点」をまとめたいと思います。

先週から指摘しているように3度目の今回は『USDを取り巻く環境が過去2回とはほぼ対照的』です。

仮に152円台に突入した場合、(市場が予想している通り)日本の金融当局は、再び為替介入の可能性を示唆し市場をけん制してくるでしょう。先週には、植田日銀総裁が一部メディアを通じて『追加利上げに前向きな姿勢』を発信しました。

(既述の通り、そう簡単ではないと思われますが)仮に、市場介入が実施された場合、一旦(一時的に)は円高に振れるとみられますが、USD高円安の流れを反転させることはこれまで指摘してきたようにほぼ不可能です万が一、そうした展開(=明確に流れを反転させる)を実現するためには、今回もまたFRBの金融政策(=利下げプロセスの進展期待)が決定的な役割を果たすことになるでしょう。

しかしながら、FF金利先物市場が織り込む年内の利下げ回数は足元で2.5回強まで低下し、3月FOMCのドットチャートで示唆された3回を下回っています。この先「利下げ期待が一段と後退し152円突破となるのか」それとも「利下げ期待が再び高まり円高・ドル安基調に転換するのか」、今週10日に発表される3月CPI/PPIはいやが上にも注目されることになります。なお、為替市場介入の可能性は排除できませんが、その効果はスムージングオペレーションの範疇に止まるものとみられ、決して円安を止める決定打とはならないと結論づけてきました。

ただし、USD円のリスクが上方に大きく傾いているとの認識が最も肝要だと考えてはいますが、一方で逆方向(=USD安円高)のリスクも忘れてはならないでしょう。先週もご案内しましたが、今後、細心の注意を払うべきリスク回避要因を以下に挙げたいと思います。

  1. 日米ともに最高値を更新していた主要株価指数の調整リスク
  2. 米国を中心とする商業用不動産市況の低迷とそれに起因する中小金融機関への不安
  3. 長引く中国の景気低迷
  4. 中東を中心に広がりつつある様々な地政学リスク

お知らせ:米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに短期を中心とした見通しについては、ジーフィット為替アンバサダーでもある安田佐和子氏のレポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。TRADOM会員の方々はサイト内で是非ご参照下さい

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