Weekly Report (8/7):2週連続の「行って来い展開」を経て、方向感出づらい「夏枯れ相場」へ
吉岡 豪麿
この記事の著者
ジーフィット 取締役CAO

国内大手金融機関の外国為替取引部門で外国為替、外国証券等のディーラーとして20年、海外金融機関でアセットマネージャーとして15年以上の経験を有する為替のエキスパート。貿易企業の経営者を経て、企業年金基金の資産運用を担当。2021年1月よりCAOとして投資助言部門を担当。

マーケット分析

テクニカル分析判断

サマリー:

●短期:ここ2週で方向感を喪失。当面保合い継続の可能性高く「夏枯れ相場」突入

●中期:直近の中期的変化はピークアウト。中期的下落トレンドは存続の可能性残る

先週は「寄付141.00:140.68~143.88:終値141.75(前週比+0.60円の円安)

推移を辿り、週足は2週ぶりに再び陽線を形成ただし、その形状は所謂上ヒゲが

実体に比較して圧倒的に長く『上昇圧力の減退』を示唆する格構となっており、

前週とは真逆の「(上昇先行の)行って来い」の展開となった。この2週連続となる

「(上下双方の)行って来い展開」によって、短期的方向感は極めて見出し辛くなった

一方、4週前に5.77円まで爆発的に拡大した週間レンジは、3週前4.27円、2週前

3.75円に続き、先週は3.20円と高水準を維持しつつも徐々にその幅を縮小しており、

一旦は「変動率の低下/エネルギー充填のステージ」へ入った可能性が高まった。

この現象は「激しい上下動が繰り返されたことで、一旦短期的な方向感が喪失」し

「動きづらい展開がしばらく続く」典型的なパターン (見立てが1週早過ぎたが…)。

さて、この「夏枯れ相場」の次の展開だが、直近観測された中期的な変化はピーク

アウトと判断しており『中期的下落トレンドは存続』の可能性は依然残ると見ている。

以下では『短期・中期・長期の方向性』について各時間軸チャートによるテクニカルな

視点を中心にご案内。(今号の分析は2023/08/04のNY市場終値をベースに実施)

<以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数>

➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド」、「52MA & 200MA」、RSIを付記

短期(1週間~1か月程度)の方向性当面は次なる動意へのエネルギー充填期間か

USDJPY D 20230804

黒い〇は天井形成、エンジの〇は底打ちの時点(共に超短期的サイン含む)を表す

既述の通り、直近4週間の変動率の急上昇は『反動的沈静化』を招く可能性が高い

 と判断。概ね直近2週のレンジ内で週間値幅を縮小してゆくものと想定している。

◆特にチャート中の紺色とベージュの□が重なる141円台中心の保合いに入るものと

思われ、そのエネルギー充填後に次なる方向性を明示することになろう。

ただし、先週上抜けして下値支持線に転じた[52MA]は141円台前半に位置している

ため、終値でこれを下抜けるようだと『下値トライ加速』の可能性も高まる

なお、6/29に75.9と明らかに「昇の過熱警戒領域に達していたRSIは、7/13には

一転して瞬間的に30割れを記録後、7/21に55.5を経て先週末も51.9と中立領域

を維持。水準としては、今後上下どちらに振れてもおかしくはない。

>>>想定レンジ=今週:140.10~143.40 、今後1ヶ月:135.30~144.00 =

➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド」&「52MA」、RSIを付記

中期(1か月超~半年程度)の方向性当面の保合いを経て『下落トレンド』再開か

USDJPY W 20230804

黒い〇は天井形成(速度調整的サイン含む)、エンジの〇は底打ちの時点を表示

本年1/16の『ボトム(127.23)』と同6/30の『ピーク(145.06)』によって形成

された上昇局面はRSIのピークアウトが示唆する通り、一旦終了の格構となり

再度下落トレンドへ入ったと思われた

●しかし、その後3週は高い変動率の中にあっても緩やかに上昇中の[21MA]や[52MA]が

サポートとなって下方へ突破できない状態が続き、逆に「根強い上昇圧力」が再び

評価されやすいかたちとなっていた

●ただ、その上昇も[21MA+4.32%]でキッチリ切り返され上値の重さ(上昇力の減退)も

 また強く印象付けられる展開。上下ともに積極的に攻めづらい膠着状況へ

なお、6週前の70近辺でピークアウトしたRSIは先週末57.7へと軟化しているが、

やや高めながらも依然として中立領域にあり、上下どちらにも振れる可能性はある

ただし、直近の『中期的サインはピークアウト』との認識のもと『局面として下落

トレンドは依然存続』との見方は維持。既述の[21MA]や[52MA]を終値で下回れば、

下落(下値模索の動き)は加速しよう

>>> 今後6か月間の想定レンジ 128.70~144.90 ⇒ 128.70~144.90 =

➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記

長期(半年超~1年程度)の方向性本格修正に着手も、現状では大幅な変更までに到らず

USDJPY M 20230804

7月は高変動率の中4カ月ぶりの陰線。本年2月からの下値切り上がりも遂に途切れた

●下ヒゲの長さは気になるものの、“反発局面は終息=ピークアウト”の兆候が窺える

●また、更なる上昇に対してはいくつもの強力な上値抵抗帯が控える(右上部の青の□)

「緩やかな下落トレンドの可能性は依然残存」を長期のメインシナリオとして維持

●昨年10月は20MA+18%と60MA+30%を同時に上回るという未曽有の異常な過熱状態

●一時85超まで過熱したRSIは中立領域に位置(63.5)も上昇よりも低下余地が大きい

異常状態からの反落だけに「少なくとも20MA突破」に向けた軟化漸進の展開へ

<現在134.19円の水準にある[20MA]は来月以降も約1.3円/月に上昇する見込み>

>>> 今後1年間の想定レンジ = 128.70~145.85 ⇒ 128.70~146.10 =

ファンダメンタルズ分析判断:簡易版

◎米欧日の中央銀行weekとなった前週に続き、高変動率が続く中で“行って来い”の

展開。米7月の雇用統計など注目の経済指標もあったが、先週の最大のサプライズは

『海外大手格付け会社による米国債の格下げ』。これによりそれまでのリスク選好の

ムードに大きく水を差され、週末にかけてリスク回避優位の展開へと変化した。

□主なUSD買い/円売り要因

①前週のYCC修正ショックを緩和する日銀の指値オペ実施

②年内追加利上げ観測や米国債格下げに伴う10年債など米長期債利回りの急上昇

③上記を受けた円キャリートレード活発化期待

■主なUSD売り/円買い要因

➊前週末の日銀によるYCCのサプライズ修正に伴う円長期金利の上昇

➋ISM景況感指数や非農業部門雇用者数等の事前予想比で不芳な経済指標

➌『海外大手格付け会社による米国債の格下げ』⇒ 米国(国債)に対する信認低下

 >>一旦米長期債利回り急上昇もリスクオフ展開から株価・利回りは反落へ

➍上記の諸点に伴うUSD買い/円売りポジションの巻き戻し

◆株式・債券両市場による「景気・金融状況」の現状/先行きの判断に甚大な乖離

>>強気相場入りが鮮明な株式市場(上半期だけで米ナスダック総合は30%超上昇)

 ⇔ 縮小見えるも、依然深刻な景気後退を示唆する逆イールド(後掲のグラフ)

□【短期~中期的視座】「USD/円相場の上昇」をサポートする要因は使い古しの観

◎明確な鈍化を見せない米国経済指標 ⇒「経済の軟着陸」期待の台頭加速

〇欧米の利上げ継続観測(≒米金利がより長期間高水準にとどまるという観測)

>>『タカ派なFRB・ECB、ハト派な日銀』の明白なコントラストのむし返し

⇔ 今回「欧米のタカ派色希薄化の一方、日銀はハト派色後退」で逆方向へ

〇昨今注目度が高まる日米実質金利差ならびに日米短期金利差の更なる拡大と

それに伴う円キャリートレード復活/活発化に対する期待

⇔「欧米の利上げ打ち止め」並びに「日銀の金融政策正常化への漸進」という

かつての「逆行する(金融政策の)方向性」に対する反転が視野に入りつつある中

このロジックはいつまで通用するのか?

■【中期~長期的視座】先行きの「USD/円相場の下落」を示唆する要因

●銀行セクター不安から顕在化した“信用逼迫”への懸念は燻り続ける可能性大

>>>過去1年半にわたる利上げの累積効果による景気悪化は今後本格化へ

>>>3月に始まった欧米金融機関の破綻などの金融不安的動揺

>>>その後も、足許で下落が目立ち続ける商業用不動産市況

>>>2023年通年での米企業倒産件数はリーマンショック後で最高に達するとの予想

●米債券市場での『逆イールド』が示唆する「米景気後退」の蓋然性の高まり

>>>将来の景気後退を示唆する米債券市場での『逆イールド』は依然高水準

>>>『逆イールド』幅は今年3月の最大値(▲1.08%)を7月に僅かに更新

>>>ただし、その後少しずつではあるが徐々に縮小の兆しを見せ始めている

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>>>10年債を含め名目金利も逆イールドも各々『限界的な水準』にあると判断

>>>将来的に「FRBは“金融緩和(利下げ)”に向け漸進せざるを得ない状況」

>>>株式市場の好調は「米利上げサイクルが終了に近いとの見方」も重要な要因

●【日本】現在の『異次元の金融緩和』に追加的(深堀りの)余地は皆無

>>>今後の日銀の金融政策の選択肢は「現状維持」or「正常化」しか残されていない

>>>いずれにせよ低下余地はほぼ無く金利の変化としては「上昇」するしかない

>>>今回の「YCC修正」によって『日本の金利は下がらない』ことが改めて明白に

>>>欧米の利上げが終われば、内外金利差は縮小へ向かう(=「円の買戻し」へ)

●【日本】(更なる円安進行には)通貨当局による『円買い介入』の蓋然性が継続

>>>高進するインフレに対し、金融政策面で抜本的な対抗措置(利上げ)を実施できな

かった日本にとっては更なる円安の進行は看過し難い事態

>>>昨秋、現在と類似した状況で行われた過去最大規模の円買い介入は145円台から

始まり、その後も徹底的に水準を押し下げる強い意志を伴って実施された

>>>現在、日本は「米国の外国為替監視対象国から除外」され、従前よりも市場介入

   の自由度・意思決定速度が向上する環境となってきた

□【数年単位の超長期的視座】超長期的に「USD/円相場の上昇」をサポートする要因

①日本の貿易(経常)収支構造の反転(≒貿易赤字の常態化)

>>>TRADOM内コンテンツ「為替の歴史」&「月足チャート」もご参照ください

②2005~2007年当時の円キャリートレードが復活する可能性(環境)の高まり

>>>潤沢で安定した「内外金利差」、今後増加が見込まれる海外証券投資、

更には上記①で明らかになった「外貨不足」という需給動向

お知らせ:米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに

短期を中心とした見通しについては、GFIT為替アンバサダーでもある安田佐和子氏の

レポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。

TRADOMサイト内で、是非ご参照下さい

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