Weekly Report(1/22):「中期下落トレンド」は反発に転じたものの、短期的には息切れの兆しも台頭
吉岡 豪麿
この記事の著者
ジーフィット 取締役CAO

国内大手金融機関の外国為替取引部門で外国為替、外国証券等のディーラーとして20年、海外金融機関でアセットマネージャーとして15年以上の経験を有する為替のエキスパート。貿易企業の経営者を経て、企業年金基金の資産運用を担当。2021年1月よりCAOとして投資助言部門を担当。

マーケット分析

<テクニカル分析判断>   

●短期:反発局面突入確認以降、依然上振れの可能性を残すも、上昇力息切れの兆候も台頭

●中期:短期の変調が中期にも波及し「中長期下落トレンド」から反発局面への移行を確認

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先週は「寄付144.87:144.80~148.80:終値148.14(前週比+3.24円の大幅な円安)となり週足では、昨年9/18週以来ほぼ4か月ぶりに3週連続での陽線(うち2週は3円超の大幅な陽線)を形成した。先週指摘した通り、昨年11月下旬以降「強い上値抵抗線に転化していた21週移動平均線」を、先週あっさりと終値で上抜けしたことで、年明け以降短期的時間軸から発せられていた「中長期下落トレンドの(一旦の)収束」が確定的となった。

後述するが、少なくとも短期(➊)・中期(➋)の時間軸では「反発局面入りが明確」となっており、今週も「今回の反発局面における上値メドを模索(上値トライ)が継続」する可能性は高いただし、今回の反発局面が短期から顕現化したように、日足(後掲➊)では「反発にやや息切れの兆候」も見られ始めている。先週の展開を受けて、現在我々は見通しの修正に入っているが、今のところ『新たな中長期上昇トレンド入り』へと大きく方向転換する可能性は高くないと考えている。この点については、来週以降にその詳細をご案内したい。

今週の結論としては「中期にも波及してきた『反発局面が継続』する可能性は高いが、短期的に顕現化してきた『反発に息切れの兆し』にも留意したい」という見通しをご提示申し上げる。

なお、年初3週前にわずか4日間で5円超を記録した週間レンジは、2週前に3.01円と大きく縮小したものの、先週は4.00円と再び振幅を拡大。基本的には「今後も依然高水準の市場変動率の継続」を想定しているが、昨年11月以降続いている「上下どちらにも大きく振れ易い」展開が徐々に落ち着いてくる可能性も排除できない。

以下では『短期・中期・長期の方向性』について各時間軸チャートによるテクニカルな視点を中心にご案内。(今号の分析は2024/01/19のNY市場終値をベースに実施)

<以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数>

➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド」、「52MA & 200MA」、RSIを付記  

短期(1週間~1か月弱)の方向性:依然上振れの可能性を残すも、上昇力息切れの兆候も台頭

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「強い上値抵抗線に転化したはずの21MA」は終値で上抜けを継続したことで再度(下値支持へ)逆転

さらに、中期的上値抵抗線となっていたはずの「52MAもあっさりと上抜け」した上に、21MAが上昇に転じたことで「200MAとのゴールデンクロスが再び出来」し、地合いの強さを示唆

ただし、年明け以降の上昇が急速だったため、RSIやストキャスティクスの水準や形状にはいつ調整が入ってもおかしくない状況が現れ始めている

◆また、昨年11/13(151.92)⇒同12/28(140.24)を11.68円の下降波と捉えて「反発(上値)のメド」を記載したのがチャートのオレンジ表記のもの。取敢えず折に触れて抵抗線(⇒支持線に転化)になってきたのがわかる。これによれば、75%戻しとなる149.00超の水準は(上記のRSIやストキャスティクスの状況と併せて考えれば)相当の上値抑制圧力がかかってくると想定される

>>因みに、次の上値メドは「心理的節目と見られる150.00近辺」と想定

>>>想定レンジ=今週:144.75~150.15 、今後1ヶ月:143.10~150.15 =

➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド & 52MA」、RSIを付記 

中期(1か月~半年程度)の方向性:短期の変調が中期に波及、下落トレンドから反発局面へ

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「強い上値抵抗線に転化したはずの21MA」は終値で上抜けを継続したことで再度(下値支持へ)逆転

また、年末年始に52MAで堅固にサポートされた格好で始動した今回の上昇トレンドの「上値・下値の切り上がり」は3週連続に延長。更に、ストキャスティクスの水準/形状も依然として反発継続の可能性を示唆

>>結論として「短期の変調が中期にも波及し、中期下落トレンドから反発局面へ移行」と認識

なお、➊と同様に昨年1/16(127.22)⇒同11/13(151.92)を24.70円の上昇波と捉えて「反落(下値)のメド」を記載したのがチャートのグレー表記のもの。折に触れて支持線(⇒抵抗線に転化)になってきたのがわかる。これによれば、現状が既に25%戻しとなる145.75より高い水準にあるため、あまり参考にならないが「(昨年10月~同11月中旬までかなりもみ合っていた)149円台半ばの水準(➊でもご案内した通り)相当の上値抑制圧力がかかってくると想定される

>>次なる上値メドは「心理的節目と見られる150.00近辺」と想定

因みに、現在が上記の24.70円の上昇波に対する調整波だと仮定すると『下落(a)>反発(b)>下落(c)』という3波動構成の『反発(b)』の局面に位置している可能性があり、首尾よくピークアウトを迎えれば50%戻し(139.57)や61.8%戻し(136.65)に向けて再び下落トレンドに回帰することになろう

>>> 今後6か月間の想定レンジ 136.65~147.15 ⇒ 136.65~150.15 =

➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記  

長期(半年超~1年程度)の方向性:超長期上昇トレンドは現下落トレンドの終了確認後に再開

想定通り昨年12月は一昨年12月以来の大幅な陰線を形成し、1年をかけたWトップ形成を確認すると共に『2022年11月~2023年1月』を除き、2021年1月以降で初めての2カ月連続陰線(下落)を形成することとなった

しかしながら、既述の通り年明け以降は急反発に転じており、チャートに記載の通り「僅か3週弱で12月の下落分(約8.1円)に並ぶ上昇」を示現。足下の反発力の強烈さを見せつけている

ただ、➋でも言及した通り「中長期下落トレンドが完全に終息した」と判断するには、時期尚早ではないかと考えている

=>RSI・ストキャスティクスは共に充分な低下余地を残存している(チャート下段)

だが、その動きも2024年中のどこかで底打ちし(超長期トレンドである)「USD高円安」方向へと反転上昇してゆく可能性が高いのではないかと想定している

>>>これまでも主張してきた通り、我々は「(数年単位の)超長期上昇トレンドが本格化する前に

『中長期的下落トレンドに入る』可能性が高い」をメインシナリオとして維持してきた

繰り返しとなるが、その根拠は主に以下の3点(チャートは2018年8月からの推移)

<=2022年10月は「20MA+18%と60MA+30%を同時に上回る」という過去40年以上経験したことのない「異常な(上昇の)過熱状態」にあった

<=一時85超まで過熱したRSIは、一旦70.1まで再上昇も直近61.8近辺まで軟化中

=>超異常状態からの反落だけに20MA突破から60MAに向けた軟化/下落を依然見込んでいる

>>> 今後1年間の想定レンジ = 133.50~150.00 ⇒ 133.50~151.80 =

<ファンダメンタルズ分析判断>

□先週のグローバル金融市場は、全般的に市場金利が大幅に反転上昇。これを受けて主要国の大半では株価が下落したものの、日米では「リスク選好」の動きが継続し株価は続伸となった。

【米国】週間の変化

◇債券利回り急反発:>10年債利回り:+0.184%上昇(前週の低下分▲0.11%の1.7倍もの上昇であり、週間では昨年10月以降で最大の上昇を記録)

>2年債利回り:+0.24%上昇(前週の低下分▲0.24%低下をそっくり吐き出す格好となり、週間では昨年5月以降で最大の上昇を記録)

=>10年-2年の逆イールドは「▲0.26%へ再びジワリと拡大」

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◆米金利上昇の背景:

米12月小売売上高など先週発表された米経済指標が軒並み市場予想を上回る堅調さを示す中、利下げが前週までの想定ほど差し迫っていないとの見方が広がったため

更に週末には、米ミシガン大学公表の1月消費者信頼感指数(速報値)が78.8(前月69.7)から急上昇し、2021年7月以来の高水準を記録(市場の事前予想は70.0)したため

⇔ただし、1年先のインフレ期待は2.9%(前月3.1%)に低下(2020年12月以来の低水準)

⇔上記同様、5年先のインフレ期待も2.8%(前月2.9%)に低下

>>これを受け、米金利先物市場では、FRBが5月まで利下げを開始しないとの見方が強まる

>>3月に利下げを開始する確率は約47%と、前日の55%から低下(前週は約80%)

ウォラー理事を始め、複数のFRB高官が金融市場で盛り上がる「早期(3月)の米利下げ期待」を強く牽制したため

◇金利急上昇にも拘らず、主要株価指数はそろって続伸:>NYダウ:+0.72%高と小幅ながらも

>S&P500:+1.17%高(終値ベースで約2年ぶりに史上最高値を更新)、

>ナスダック:+2.25%高(+3.09%と昨年11月初旬以来の上昇となった先週に続く大幅続伸)

⇔ただし、欧州や中国(香港)などでは金利上昇を主因に年初来でも株価は大幅に下落

>>予想PERや金利に対するバリュエーションが上昇し「割高感」が高まる中、この上昇速度を懸念する声も次第に増加

【日本】週間の変化

◇10年債利回り:+0.08%の上昇 (年明け以降続いていた金利低下にも反転の兆し)

◇にもかかわらず、主要株価指数はそろって続伸:>TOPIX:+0.64%高と小幅ながらも

>日経平均株価:+1.08%高(前週の約2,200円の上昇に続き週間で+386円の上昇)

◇(長期金利にも拘らず)株価が続伸した背景:

①「米株上昇」の好影響が波及

②日銀による「マイナス金利解除時期」の後ずれ観測

<=長引く能登半島地震の悪影響や国内経済指標の予想比不芳 

③新NISA開始に伴う本邦個人投資家による内外株式への需要の高まり

>>外貨建て投信への需要も高く円安(=日本株高)要因となりやすかった

□欧米金利急上昇に伴い、対USDを中心に円は広範に下落

>>既述の通り、米金利が日本よりも大きく上昇したため円安が進行(USD円は週間で+2.23%上昇)

>>金利上昇に加え、米国株式の上昇を評価する「良いとこ取り」展開が継続

>>予想比不芳が目立った本邦経済指標が上記②の観測を更に高進させたこと

⇒先週は、対欧米を中心に「円安」が一段と進展している

さて、今週のUSD円相場の予想(ファンダメンタルズ編)をまとめます。やはり、テクニカルにUSD高/円安派が急増する中、今週注目されるファンダメンタルズ要因は以下のようなものでしょうか。

日銀によるマイナス金利解除時期の後ズレ観測(年始に発生した能登半島地震の影響や、実質賃金悪化/CPI鈍化の影響などを受けた「マイナス金利解除時期が予想よりも大幅に後ズレするとの思惑」)

米FRBによる利下げ開始時期の後ズレ観測(良好な米経済指標や、FRB高官らによるタカ派的な発言を受けた「米FRBによる利下げ開始時期が予想よりも大幅に後ズレするとの思惑」)

本邦投資家による旺盛な外貨買い・円売り需要(新NISA開始に伴う外貨建て投資需要の急拡大)など

特に冒頭の要因を見極める目的で、1/23の日銀金融政策決定会合の結果と植田日銀総裁記者会見に注目が集まることでしょう。もとより市場では、能登半島地震や実質賃金悪化の影響などから今週の会合でのマイナス金利解除の可能性はほぼ無いと見られています。また、植田日銀総裁からも早期のマイナス金利解除を期待させる発言(先月の「チャレンジング発言」的なもの)は手控えられる可能性が高いと思われます。かねてより「春闘結果を見極めるまでは様子見姿勢を継続」とのスタンスを一貫してきた方ですから、今回もこれを強調する可能性が高いでしょう。となると、日銀金融政策決定会合後の反応は素直に「円売り」となるのでしょうか。

振り返ると、植田氏が総裁に就任した2023年4月以降の金融政策決定会合は「USD円上昇のトリガー」となることが圧倒的に多いイベントとして広く認知されています。そうでなくとも、足元では、12月の全国消費者物価指数(CPI)の伸びが鈍化した上に、1月展望レポートでの「2024年度物価見通し」も下方修正される可能性が高いとの見通しが圧倒的です。

また、1/25には米10-12月期GDP速報値にも注目が集まります。アトランタ連銀が公表するGDPNowを引き合いに出すまでもなく、先週の堅調だった米12月小売売上高などを考慮すれば、米2023年4Q実質GDP成長率(速報値)は強含むことが確実視されています。これによって「FRBによる早期利下げ観測後退→米金利上昇→USD買いの経路でUSD円には強い上昇圧力が加わる」との見通しが圧倒的多数派のようです。

ただ、既述の内外要因に対して、これだけコンセンサスが一致している中で「事前予想通りの結果」を目の当たりにした時、「予想通りのリアクションにならない」ことも「相場あるあるの一つ」です。

(「材料出尽くし・利益確定」などの解説が見られるのは、まさにこんな時です)

もちろん、今週の市場展開が上記の「相場あるある」通りになるかどうかはわかりません。ただし、テクニカル分析でも触れましたが「反発局面の本格化」が確認されていた短期時間軸に「反発にも息切れの兆し」が台頭してきたことには相応の注意を払うべきだと思います。

現在我々の分析では、USD円相場に対して残念ながら明確な方向性を見出しづらい状況にあるだけに、今週の日銀政策決定会合・米国4QGDPなどの情報を確認しながら、来週の米FOMCへ臨む姿勢(スタンス)を模索してゆこうと考えています。

お知らせ:米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに短期を中心とした見通しについては、GFIT為替アンバサダーでもある安田佐和子氏のレポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。 TRADOM会員の方はサイト内で、是非ご参照下さい

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