Yearly Report+Weekly Report(12/22):「政府・日銀の政策VS 米国『金融抑圧』の綱引き」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は12月15日週に3.39円と、その前の週の2.06円から拡大した。週足では、続伸。前週比では1.89円の上昇となり、年初来リターンは前週の0.9%安から0.3%高に反転した。当該週は、米11月雇用統計で失業率が上振れしたため、ドル円は一時154.40円まで下落。しかし、日銀金融政策決定会合で市場予想通り0.25%利上げを決定したものの、ドル円は156円台を回復した。植田総裁の会見で中立金利について言及を避けたため、利上げ継続を示唆する上で不十分と判断され、ドル円は上値を広げ157円台を突破。その後、城内経財相が日銀は景気に配慮すべきと発言したほか、NY連銀総裁が追加利下げに慎重な姿勢を示したこともあり、NY時間引けまで買いの流れが続き、一時157.79円と11月20日の高値157.90円に迫った。
  • ドル円は昨年末の157.20円を超えて2025年を終えれば、変動相場制に移行してから初の5年連続の陽線引けとなる。さらに157.70円を上抜ければ、プラザ合意直前の高値240円付近と、2011年10月31日につけた安値75.32円の半値戻しの水準を超え、「半値戻しは全値戻し」が意識される。加えて、ドル円は8年ごとにピークアウトするとの説に終止符を打つこととなり、2024年7月の高値161.95円を超えてドル高・円安が進むシナリオが考えられよう。豪準備銀行(RBA)が2026年に利上げに転じる可能性が想定されるほか、欧州中央銀行(ECB)など利下げサイクルが終了する中銀もあり、クロス円での円安圧力にも留意すべきだ。
  • 米国については、2026年にトランプ政権と米連邦準備制度理事会(FRB)が協調し「金融抑圧」を進める方針だ。既にFRBは12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米財務省短期証券(Tビル)を中心に、月額400億ドルの買い入れを決定。次期FRB議長とベッセント財務長官が歩調を合わせ、米財務省の借り入れコストを抑制し、債券発行を中長期ゾーンから短期ゾーンへシフトする見通しだ。加えて、2026年に建国250周年と中間選挙を控える。トランプ政権はAIを政策の柱の一つに掲げる事情もあり、景気腰折れを回避すべく金融環境の緩和維持を最優先し、FRBに対して低金利と短期国債需要の確保を求める姿勢を一段と強めるとみられる。

  • 日銀は0.75%へ利上げし追加利上げの選択肢を示したが、植田総裁は中立金利への踏み込んだ言及を避けたため、市場には利上げ継続の確度が十分に伝わらず、ドル円は上昇した。一方で会見では「中立金利の下限にはまだ距離がある」と述べ、利上げ継続の姿勢自体は表明。今回の利上げにより円安進行下での介入条件の一つは満たされ、今後は当局の介入警戒が強まりやすい局面に入るだろう。加えて、高市政権が2026年度予算を拡大させる見通しにあるなか、2026年の日銀審議委員人事は政策スタンスとドル円の方向性を左右する重要な材料となる。
  • ドル円は12月19日の大幅高を受け、テクニカル的に非常に強い地合いに入った。高市氏が自民党総裁に就任した初めての営業日である10月6日、並びに10月20、21日の安値を結んだトレンドラインを明確に上向けた。一目均衡表の雲自体も上方向にあり、下値は10月6日と11月20日の半値押し154.58円がサポートされ、155円~160円のレンジの下値を固めた。RSI(14日)でみても、63.48と割高の節目である70に届かず、上昇余地を残す。(P12より転記)
  • 以上を踏まえ、2026年のドル円見通しは140~165円と見込む。


【12月15~19日のドル円レンジ:154.40~157.79円】

ドル円の変動幅は12月15日週に3.39円と、その前の週の2.06円から拡大した。週足では、続伸。前週比では1.89円の上昇となり、年初来リターンは前週の0.9%安から0.3%高に反転した。当該週は、米11月雇用統計で失業率が上振れしたため、ドル円は一時154.40円まで下落。しかし、日銀金融政策決定会合で市場予想通り0.25%利上げを決定したものの、ドル円は156円台を回復した。植田総裁の会見で中立金利について言及を避けたため、利上げ継続を示唆する上で不十分と判断され、ドル円は上値を広げ157円台を突破。その後、城内経財相が日銀は景気に配慮すべきと発言したほか、NY連銀総裁が追加利上げに慎重な姿勢を示したこともあり、NY時間引けまで買いの流れが続き、一時157.79円と11月20日の高値157.90円に迫った。

15日のドル円は、売り優勢。日銀短観の大企業製造業の景況感を示す業況判断指数が市場予想通り前回を上回り3四半期連続で改善したため、12月利上げ、並びに利上げ継続観測を高め、売りが優勢となった。加えて、日銀が2026年度賃上げスタンスの動向を発表。さくらレポートなどとは別に初めて公表し、12月利上げの地ならしと受け止められ、ドル円の下落につながり、NY時間には一時154.94円まで本日安値を更新。155円割れでは買い戻しが入ったものの、10月6日と10月20、21日の安値を結んだ高市総裁誕生後のトレンドラインを下抜けしてNY時間を終えた。

16日のドル円は、続落。米11月雇用統計が弱含むとの観測から東京時間から売りでスタートし、一旦買い戻されるも155.10円台へ切り返す程度にとどまった。154円後半でのもみ合いを経て、NY時間に米11月雇用統計が発表されると、米失業率の上昇に反応し一時154.40円まで週の安値を付ける展開。しかし、堅調な米10月小売売上高が見直され、その後の売りは一服した。

17日、ドル円は買い戻し。前日の米11月雇用統計を消化し、ドル円は買い戻しが優勢となった。ロンドン時間には、英11月消費者物価指数(CPI)が市場予想以下となり、12月利下げと今後の利下げ継続の観測から、対ドルでポンドが売られ、ドル円を下支えした。NY時間も買いの流れが続き、ウォラーFRB理事が追加利下げ支持する発言を行いドル売りも見られたが一時的で、翌日の米11月CPIの発表をにらみ一時155.75円まで本日高値をつけた。

18日、ドル円は小動き。日銀金融政策決定会合を控え、155円後半でのもみ合いを続けた。NY時間に米11月消費者物価指数が発表され予想以上に下振れした結果、一時155.28円まで本日安値を更新した。ただ、10月分の発表見送りを受け、帰属家賃など一部項目が前月比横ばいと推計された可能性があり、重要視されず。反応は限定的にとどまった。

19日、ドル円は大幅続伸。東京時間序盤に11月全国CPIが発表されたが、日銀金融政策決定会合を控え、反応は限定的だった。日銀が0.25%の利上げを決定すると、156円台を回復。156円を挟んだ動きを経て、植田総裁が会見で中立金利の再推計見送りに言及すると、再び上昇を試す展開。もっとも、中立金利の下限に距離があるとの発言で伸び悩みつつ、会見後は城内経財相が日銀は景気の先行きに配慮すべきと発言したこともあって、上方向へ糸が切れた凧状態となった。157円台を突破し、NY時間に片山財務相が口先介入を行うも30銭程度ゆるむにとどまった。むしろ、NY連銀総裁が利下げに急がない姿勢を示すとドル円を押し上げ、引けまで買い流れが続き、一時157.79円と11月20日の高値157.90円に迫った。

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