パウエルFRB議長の「2011年夏の日の思い出」
山下 政比呂
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

証券会社で株式・債券の営業、米系銀行で為替ディーラー業務(スポット、スワップ、オプション)に従事。プライベートバンクでは、為替のアドバイサーとして円資産からドル建て資産への分散投資を推奨してきたドル高・円安論者。「酒田罫線法」「エリオット波動分析」「ギャン理論」などのテクニカル分析をベースに、ファンダメンタルズ分析との整合性を図り、相場観を構築。2016年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

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 12年前の2011年の夏、パウエルFRB議長は、超党派政策センター(BPC)客員研究員として、共和党と民主党の連邦債務上限引き上げを巡る対立の渦中で奔走していました。BPCは米国の債務がいつ上限に達するか独自の推計を始めて、パウエル氏はその日を「Xデー」と名付けました。パウエル氏は「債務上限を引き上げなければ特定の結果が起き、それは不可避であるということだ。戦術的、あるいは政治的な助言を与えるつもりはない」と警鐘を鳴らしていました。

 2011年7月中旬、オバマ第44代米大統領率いる政府・民主党と議会で多数派を占めていた野党共和党の間で、8月2日の債務上限引き上げ期限を控えて、中長期的な財政赤字の削減と債務上限の引き上げを巡る攻防戦が繰り広げられていました。

7月25日、オバマ米大統領はテレビ演説で、米国債務上限をめぐる民主党と共和党の交渉行き詰まりを打開するため、両党指導部に対し今後数日以内に議会を通過できる妥協案をまとめるよう要請しました。

 ブッシュ政権下で財務次官として財務省で勤務し、2010年からシンクタンクの超党派政策センター(Bipartisan Policy Center)の客員研究員として年収1ドルで勤務していたジェローム・パウエル氏は、民主党と共和党の幹部に対してデフォルト(債務不履行)のリスクを警告しながら、合意するように説き伏せました。

 7月31日、オバマ米大統領と与野党幹部は債務上限引き上げを合意し、8月1日に下院で可決、8月2日には上院で可決し、オバマ米大統領が署名して法案が成立しました。

 しかし、8月5日に、アメリカの格付け機関スタンダード&プアーズ(S&P)が、アメリカの長期発行体格付けを「AAA」から「AA+」に格下げしたことで、世界の株式・債券・為替市場は混乱に陥りました。

オバマ第44代米大統領は、共和党員であるパウエル氏を米連邦準備理事会(FRB)の理事に推薦し、2012年5月にパウエルFRB理事が誕生しました。

その後、トランプ第45代米大統領は、パウエルFRB理事を第16代FRB議長に昇格させています。

 2023年1月15日、イエレン米財務長官は、米国が31兆4000億ドルの法定債務上限に達したため、財務省は特別な資金管理措置に着手せざるを得なくなると述べました。議会指導部宛ての書簡で「上限に達すれば財務省が米国のデフォルト(債務不履行)回避に向け特別措置に着手する必要がある」と指摘して、議会に債務上限引き上げに向け迅速に行動するよう要請しました。

2月15日、米議会予算局(CBO)は、議会が債務上限(31兆4000億ドル)を引き上げなければ、連邦政府は7月にも支払い不履行となるリスクがあると警告しました。

 2月1日、パウエルFRB議長は、連邦公開市場委員会(FOMC)政策発表後の記者会見で、「打開のための唯一の方法は、議会が債務上限を引き上げて米政府が満期を迎えた支払い義務を全て履行できるようにすることだ。この道から外れるのは極めてリスキーだ。タイムリーな形での行動がなかった場合の結果から、当局が経済を守ることができると思い込むのは禁物だ」と警鐘を鳴らしました。

本記事は2023年3月11日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。

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