米SVB経営破綻の為替相場への影響
金 星
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

中国出身。横浜国立大学大学院卒業後、国内商品先物会社に入社。
外国為替証拠金取引会社へ出向し、カバーディール業務に携わりながら市況サービスも担当。2013年にDZHフィナンシャルリサーチに入社。

マーケット分析
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米SVBの経営破綻で金融システム不安が高まる

今週は銀行セクターの不安に振り回される一週間となりました。10日に米シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻したことを受けて金融システム不安への警戒感が高まり、13日週明け早朝から為替相場ではドル売りが先行しました。これに対し、米金融当局が月曜日の米金融市場が始まる前に、SVB預金者に対する全額アクセス可能と緊急融資プログラムの創設と迅速な対応を見せ、ダウ先物は大幅に買い戻され、ドル売りもいったん巻き戻されました。

ただ、ニューヨーク市場に入ると、米SVBに続きシグネチャー・バンクの経営破綻も確認されたことで金融システム不安が再燃し、複数の銀行株が記録的な大幅安に見舞われ、取引停止が続出するなど、業界全体に混乱が広がりました。

なお、15日にはスイス金融大手クレディ・スイス・グループを巡り、「筆頭株主のサウジ・ナショナル・バンクは追加投資をする意向がない」と報じられ、クレディ・スイスの経営不安が広がり、米金融セクターの波乱が欧州にも波及することへの懸念が高まりました。

SVB破綻はリーマンショック以来の最大規模

米SVBの経営破綻はリーマンショックが起きた2008年以来、最大規模だということでもあり、市場では米金融システムに対する疑心暗鬼が広がりました。市場では米当局が銀行システムを支えるため介入しても、今後も銀行破綻が増える可能性に警戒感が強まり、投資家のリスクオフ志向が高まりました。米株を中心に世界の株式市場は売りに押され、米中長期金利は急低下しました。

2行の米銀行破綻と米政府による預金者救済が、経済から米金利の見通しにまで、市場でさまざまな観測を呼んでいますが、その後は金融不安を強めるニュースは伝わらず、市場はいったん落ち着きを戻していますが、当面警戒感は続きそうです。

金融リスクを背景にドル円は軟調

米SVBの経営破綻による金融システム不安を背景に全般ドル売りが優勢となるなか、週明け早朝からリスクオフの円買いも見られ、ドル円は135円近辺から一時132円前半までドル売り・円買いが急速に進みました。米当局の迅速な対応でいったん買い戻しが入るも、シグネチャー・バンクの経営破綻が伝わると、ドル円は再び135円超え水準で上値が抑えられ、132円前半に売り込まれました。

また、クレディ・スイスの経営不安を受けて、16日は一時131円後半まで約1カ月ぶりの安値を更新しました。大手銀行の米地銀支援報道を背景にリスクオフの動きはいったん緩んだが、金融リスクへの不安は根強く、ドル円は神経質な動きながら下方向への警戒感は当面続きそうです。

米シリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻やクレディ・スイスを巡る市場の混乱などを受けて、ドルや欧州通貨の魅力が後退し、円が再び安全資産と見なされつつある。足もとではリスクオン・オフでマーケットが動いており、当面は円が選好されやすい相場展開が続きそうだ。

米債利回り

今回の騒動で大きな値動きを見せたのは米債券市場です。特に米2年債利回りは13日一日で60bpを超える急低下と、歴史的な踏み上げ相場に遭遇しました。この異常事態になったのは、市場がパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言を受けて3月の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.50%の利上げを織り込んでいた矢先に、米SVBの経営破綻が市場に動揺を与え、FRBは利上げする場合ではないと3月会合での利上げ見送り思惑が急速に強まったことが要因となります。

今回の騒動とFRB

FRBは来週にFOMCを控えています。金融リスクへの懸念が台頭し、足もとでは来週の金利決定をめぐり、見通しは目まぐるしく変化しています。SVB破綻の一要因として、FRBが急速に引き締めを進めたとの見方があれば、コロナ禍であまりにも長く低金利政策を続けたとの説もあります。要因は定かではないが、今回の騒動でFRBの利上げ幅拡大や利上げペース長期化観測が後退したのは間違いありません。

来週のFOMCで米政策金利の織り込みは、0.50%利上げから金利据え置きを織り込みかけたところを経て、現時点では0.25%利上げを見込む状態となっています。

今週、欧州中央銀行(ECB)は0.50%の利上げに踏み切りました。クレディ・スイスの経営不安から利上げ幅を縮小する観測も出ていたが、根強いインフレを抑制するため、大幅利上げを継続することにしました。これを受けて、市場では来週のFOMCでの金利据え置き見通しが後退し、0.25%の利上げを実施する公算が大きくなりました。ECBが基本シナリオであった0.50%の利上げを実施したのは「計画の0.50%利上げ」と異なる決定を下せば、投資家にパニックを引き起こす可能性も警戒されたもようです。

リーマンショック

米国の住宅市場の悪化による住宅ローン問題がきっかけとなり、投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが2008年9月15日に経営破綻しました。これを連鎖的に1929年に起きた世界恐慌以来の世界的な大不況となりました。ちなみに、ドル円は2008年8月の110円半ばから同年12月には87円前半までドル安・円高が進みました。また、日経平均はリーマンショック発生から約1カ月で4割超の下落率を記録しました。

本記事は2023年3月18日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。

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