「VIX」恐怖指数で金融不安のマーケットへの影響を判断
関口 宗己
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

1987年商品取引会社に入社、市場業務を担当。1996年、シカゴにて商品投資顧問(CTA)のライセンスを取得。
市況サービス担当を経て、1999年より外国為替証拠金取引に携わり、為替ブローキングやIMM(国際通貨先物)市場での取引を経験した。2006年2月にマネーアンドマネー(現・DZHフィナンシャルリサーチ)記者となる。日本テクニカルアナリスト協会検定会員(CTMA2)。日本ファイナンシャルプランナー協会AFP。

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マーケットの不安を示す「VIX」

欧米金融機関の経営破綻や経営状況の悪化による不安で金融マーケットは上下に揺さぶられています。日々伝わる金融不安の関連報道へ神経質に反応する状態です。

個別のニュースがマーケットへどの程度の影響を与えるか、マーケット参加者も解釈が難しいところでしょう。総合的な判断には、「VIX」の動きが重要なヒントとなります。

恐怖指数と呼ばれる「VIX(ビックス)」は、アメリカのシカゴ・オプション取引所(CBOE)が、アメリカの主要株価指数「S&P500」を対象とするオプション取引のボラティリティ(株価変動率)を元に算出している指数ボラティリティ・インデックス(Volatility Index)のことです。

「VIX」は、7割方10-20%のレンジで上下しています。上昇が不安の高まりを意味します。30%台に入ると警戒領域、40%台になるとマーケットがパニック状態にあることを表すとされています。

金融不安と「VIX」の動向

金融不安は、3月8日のシルバーゲートキャピタルに続き、10日にはシリコンバレーバンク(SVB)と、米銀破綻が続いたことがきっかけとなりました。マーケットが休場中の週末12日にシグネチャーバンクも事業停止に陥ると、週明け13日に「VIX」は30.81%に跳ね上がり、警戒領域に突入しました(図表)。

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14日には、米金融当局が預金全額保護や資金供給などの救済策を発表していたことを冷静に受け止めるムードも高まり始めました。投資家のリスク回避姿勢は、和らぎ「VIX」の動きも落ち着きかけました。

15日、経営状況が悪化していたスイス金融大手クレディ・スイス・グループ(CS)に関し、「筆頭株主サウジ・ナショナル・バンクが追加投資をする意向なし」と報じられると、金融不安が再燃。「VIX」が30近辺へ接近する状態となりました。

ただ、2008年にサブプライムローンを原因とした金融危機で得た教訓もあり、前述した米銀3行破綻後に預金流出で経営危機となっていた米地銀ファースト・リパブリック・バンクに対し、大手複数米銀が早急に大型の支援策を検討する手際の良さを示したことなどから、「VIX」も再び30を超える事態には至らず、比較的落ち着いていました。

「VIX」が不安定に上下する場面を挟みつつも、クレディ・スイスについて、同じくスイス金融大手のUBSが買収することで合意したほか、米連邦準備理事会(FRB)など日米欧の6中銀が米ドル資金供給の拡充で協調したことなども状況安定に寄与しました。

22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)も、金融不安を考慮したと考えられ政策金利の引き上げを0.25%にとどめ、一時0.50%の思惑が浮上していた大幅な利上げを回避。同日、イエレン米財務長官が「預金保険の適用範囲について、大幅な拡大は検討していない」と述べたことは不安を高めましたが、翌日には「正当化される場合、預金保護のために追加措置を講じる用意がある」と発言して火消しに回っています。

その後もドイツ銀行が抱える大きなデリバティブ取引のポジションが不安を高め、同行の株価が急落に見舞われて、「VIX」が高まりかける場面もありました。しかし、米地銀ファースト・シチズンズ・バンクシェアーズによるSVB買収合意などのニュースを受けた安心感が「VIX」の上昇を抑制しました。

28日には「VIX」も19%台と、通常モードのレンジ上限20を下回ってきました。金融不安の後退が株高や金利上昇など、マーケットのポジティブな反応につながっています。今後も金融市場が落ち着いていくのか、懸念が再燃することはないのか、それを反映した「VIX」の上下をにらみつつ、先行きを予測していくことになるでしょう。

本記事は2023年3月29日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。

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