利上げだけで円安が止まると思ってやってはいけない
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み

円安を止めるための利上げを期待する声も

4月29日にドル円は1990年以来の160円台までドル高・円安が進みました。

その後は、本邦当局による円買い介入が行われたようで、一時151円台まで戻しました。

しかし、円安の流れは変わらず再び、ドル円はじり高となっています。

このような流れを受けて、円安を阻止するために日銀も金利を上げるべきだとの意見まで出てきています。

植田日銀総裁も「予想物価上昇率が上がっていけば、緩和度合い調節することなく名目金利上げていける」

「過去と比べると為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている」とも述べ

円安による物価上昇を懸念し、利上げについても話しています。

金利は引き上げられるのか?

では、金利は引き上げられるのでしょうか?

前回の日銀政策決定会合では、長期国債の買い入れ削減について話し合いが行われたと

9日に発表された主な意見では公表されました。

仮に長期国債の買い入れが削減されたとしても、他国との金利差はまだまだあり

これくらいでは円高にすぐ戻るとは思えません。

では、もっと金利を引き上げることも出来るのでしょうか?

個人的には、それは無理なのではないかと思っています。

なぜならば、日本のファンダメンタルズから見ると利上げが出来る状況ではないからです。

同じく9日に発表された3月の毎月勤労統計の現金給与総額は、予想を下回る僅か0.6%となりました。

物価変動を加味した実質賃金も過去最長の24カ月連続のマイナスとなりました。

このような状況で利上げが出来るとは思えません。

それでも利上げをしたらどうなるか?

それでも、円安阻止のために利上げをするべきだとの意見もあるでしょう。

一時的には円安の流れが変わるかもしれません。

しかしながら、その場合は大きな副作用が出てくるでしょう。

2年にわたるマイナス賃金の中で、利上げを行えば住宅などのローン負担増による国民へのインパクトは大きいです。

また2年前のコロナ禍で中小企業を中心に、有利子負債依存度が更に高まったことで、

借入金利上昇は経済への影響も大きいです。

このような状況下で利上げを行った場合には、ネガティブ面も目立ち

さらに日本経済のファンダメンタルズを弱める可能性があります。

利上げによる経済悪化により、さらに円安になることもあるのではないかと思われます。

賃金と物価の好循環ではない

日銀がマイナス金利を解除した時に、春闘の結果を受けて「賃金と物価の好循環の強まりを確認」

との見解を示しました。しかしながら、ふたを開けてみると実質賃金は全く上がらず、好循環ではありません。

そもそも春闘自体が非正規社員が対象外であったり、実態とはかけ離れているとも言われています。

また、消費者物価指数(CPI)もコアが重要視されていますが、増減の激しい食品価格が急騰し

この急騰が多くの国民に負担になっているのですから、これまでのようなデータだけでは実体経済が図れなくなっています。

ある面袋小路に入ってしまっている日本経済と円相場ですが

ファンダメンタルズに沿わない(好循環ではない)利上げで円が買われると思ってはいけないでしょう。

※本記事は2024年5月13日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。

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