「ドル売りと円買いが違うことを知らないで、やってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み


米国時間の4月2日にトランプ米大統領が相互関税を発表して以来、為替相場は基本的には米国売りになっています。

米国売りというのは主に、米株を売る、米債を売る、米ドルを売ることです。

一般的に、世界経済の落ち込みは株安は共通ですが、株が売られた分安全資産とされる債券が買われる傾向があります。(債券買い=利回りは低下)

しかしながら、4月上旬から株安と米債安、そしてドル安も加わりいわゆる「トリプル安」になりました。

一部では、関税強化を課せられた中国が米債を売っているとの話も出ていました。

トランプ関税第1弾は、よってドル売り相場と言っても過言ではありません。

4月2日から17日時点のドルの下げ幅(ドル以外の通貨の上げ幅)は

スイスフラン・・・8.42%

円・・・5.22%

ユーロ・・・5.03%

デンマーククローネ・・・4.95%

韓国ウォン・・・3.31%

NZドル・・・3.25%

カナダドル・・・2.76%

ポンド・・・・1.82%

スウェーデンクローナ・・・・1.64%

豪ドル・・・1.14%

となっています。

新興国通貨をはじめ一部通貨はドル安よりも、リスク回避でドルより売られた通貨もあります。

ただ、多くの国ではドル売りが目立ち、米国売り相場になっていると思っても概ね間違いではないでしょう。



ドルが売られていることで、ドルばかりに目が向いている投資家も一部ではいます。

ただし、これは危険をはらんでいるとも言えます。

例えば、朝令暮改を繰り返しているトランプ政権ですので、これまでも行ったように一部の国や一部の製品に対しての関税賦課の延長などを発表することもあるでしょう。

その場合は、イニシャルアクションとしては、株買い、ドル買いに動きやすいでしょう。

また、米国のインフレ懸念が高まり、米連邦準備理事会(FRB)の利下げが後退していけば、ドル買いに動くこともあるでしょう。

このように、ドルの動きを追いかけるのは重要ですが、ドルだけを目を向けていた場合は危険です。

例えば、ドル=米国だけでなく、円=日本の状況はどうでしょうか?

米国が日米通商摩擦の解消として、ドル安・円高を要求する可能性は依然として高いままです。

その場合、ドルの動きしか見ていない投資家は、「FRB利下げ後退でドル買い」と思って、ドル円を買っていたりします。

反対サイドの通貨ペアの情勢をみないで、片方だけでポジションを持とうとする投資家が実は意外にもたくさんいます。

これはドル円に限ったことではありません。

特に基軸通貨のドルしか見ないで市況を判断する人が多くいます。

現時点では、ドル相場でしたが、今後はドル相場から円相場や他の通貨相場に変わる可能性もあるでしょう。

ドル売りの流れが弱まっても、円買いの流れが強まることもあります。

基軸通貨以外の、政治、経済、通商状況をつぶさに見ないでFXはやってはいけないでしょう。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2024年4月21日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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