「なぜウクライナ和平が米中協議に影響を与えりかを知らずにやってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み


トランプ米大統領が、昨年の大統領選挙の時から、ウクライナとロシアの戦争について「就任すれば24時間で戦争を終わらせる」と発言していました。

周知の事実ですが、トランプ氏は1988年、1991年に破産宣告を受けています。

その後も1998年にも破産宣告を受けただけでなく、破産しなくても様々なピンチに直面しました。

そのピンチ救ったのが、オリガルヒ(新興財閥)をはじめとしたロシアマネーでした。

一時トランプタワーの入居状況がロシア関係が多数占めていたともされています。

これについては陰謀説などではなく、米国でも公然と報道されていますし、事実です。

このように過去からロシアマネーと密接なトランプ氏なので、「就任すれば24時間で戦争を終わらせる」と自信をもって発言していたのでしょう。



トランプ米大統領は就任後、これまで和平にかかわっていた欧州連合(EU)を無視してロシアと交渉を始めました。

EUだけではなく、当事国でもあるウクライナすら無視した交渉でした。

今年の2月に配信した

やってはいけないこれだけの理由 第135回「なぜトランプ米大統領は停戦交渉を進めるか?・・・欧州圏の動向を考えずにやってはいけない」

にも記載しましたが、ウクライナにある希土類鉱物資源(レアアース)を確保しようとしていたからです。

トランプ氏からすると、ウクライナ和平という建て前でロシアとレアアースを確保しようと企てたわけです。

これまで、幾度もピンチを救ってくれたロシアはトランプ氏にとっては敵対国ではなく、恩がある国なのです。

ロシア寄りの交渉を進めていたトランプ氏は4月に「ウクライナをめぐる和平交渉についてロシアよりもウクライナとの交渉の方がより困難」との認識を示しています。

ウクライナからしてみれば、クリミア半島、ロシアが一方的な併合を宣言したウクライナ東部のドネツク州とルハンシク州、南部のザポリージャ州とヘルソン州の一部占領を事実上承認することが条件なので合意できるはずがありません。

ただ、ウクライナも5月に鉱物資源協定に署名し同投資基金を設立へするなど、トランプ氏が求めていたレアアース獲得に一歩近づいたわけです。

しかし、プーチン露大統領は和平案に対しては完全に拒否する態度を示しました。

米国にとってはレアアース獲得ができたとしても、ロシアからすると領土拡大も認められない状態ですので拒否するのは当然の結果でしょう。



トランプ氏、および政権からすればウクライナとの鉱物資源協定に署名は、レアアース獲得が出来るという最良の結果でした。

しかし、ロシアの和平拒否で思惑が完全に狂ってしまいました。

そして、6月4日の米露首脳会談後にはトランプ氏は「時にはしばらく続けさせ、その後引き離した方が良い場合もある」と発言。

子供の喧嘩と評するなど、和平が失敗しウクライナからのレアアース獲得も難しくなったことを理解したようです。

時系列を辿ると面白いのは、この和平失敗を前後してトランプ氏は急速に中国礼賛のコメントが出始めます。

米露会談後の4日に、トランプ氏はSNSで習近平国家主席のことを「これまでも、そしてこれからも好き」と発言。

そして、今週9日から米中閣僚級会談が行われ、6カ月間の暫定的なライセンスのみを発行することを得た次第です。

なぜ、急に中国礼賛コメントになったのかは、上述のように時系列を辿れば分かりやすいです。

それまでは中国に対して高関税賦課をかけ、貿易不均衡の本丸としていました。

しかし、中国が米国の高付加関税に対抗してレアアースの輸出規制をしていたのですが、ウクライナのレアアース獲得がとん挫したことで、手のひら返しで中国からのレアアース獲得に傾いたわけです。

TACO(Trump Always Chickens Out=トランプはいつもびびって退く)と言われるだけあり、習近平大好き宣言までしたわけです。

このように、ウクライナをめぐる和平交渉が直接的に為替市場に結び付いていなくても、世界情勢の移り変わりが様々な影響を及ぼします。

結果的には、和平交渉失敗→レアアース獲得できず→中国のレアアース規制解除求む→米中関税交渉再開→為替はリスク選好の動きとつながっていくわけです。

よって、今後も為替に関係がないと思われることでも、実際には間接的には大きく結ぶついているわけで、国際的なニュースが具に調べなくでやらないではいけないでしょう。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2024年6月16日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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