Weekly Report(9/22)「ドル円は自民党総裁選、Fed高官、米PCEなどでレンジ上限試すか」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は9月15日週に2.81円と、その前の週の2.27円から拡大した。週足では、4週続伸。前週比では0.28円の上昇となり、年初来リターンは前週の6.1%安から5.2%安へ縮小した。9月FOMCは市場予想通り0.25%の利下げを行ったものの、2026年と2027年それぞれ1回ずつの利下げ示唆にとどまっただけでなく、パウエルFRB議長の会見がタカ派と判断され、ドル円は買い戻される展開。日銀の金融政策決定会合では植田総裁が10月利上げを示唆しないなかで、週後半には148円台へ戻す場面がみられた。高市前経済安全保障相の出馬表明がドル円を押し上げ、小泉農相の出馬会見でドル円が下落するなど、総裁選をめぐる動きも確認された。
  • 9月FOMCでは、市場予想通り0.25%の利下げを決定。経済・金利見通しでは、年内利下げについて、こちらもFF先物市場の期待通りに、毎回となる2回の利下げを示唆。しかし、0.5%利下げ票を投じたのは、今回のFOMCから参加したミランFRB理事ただ一人で、トランプ大統領(1期目)によって指名されたボウマンFRB副議長やウォラー理事は0.5%利下げに同調せず。年内毎回の利下げ予想も、19名のうち10人が予想しており、僅差となった。加えて、今後の利下げ見通しも、2026年と2027年は1回ずつの利下げに予想にとどめた。パウエルFRB議長の会見では、今回の利下げについて「リスク管理のための措置」との判断と言及しており、仮に労働市場が改善する場合、FOMCの利下げ回数が9月時点の予想から減るシナリオが意識される。
  • 日銀金融政策決定会合では、市場予想通り5回連続で据え置きを決定した。ただし、今回は植田体制が発足して以来、初めて政策委員2人が据え置きに反対し、利上げの議案を提出した。その他、上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J-REIT)を売却する方針を表明。今回、2人の政策委員が利上げを主張したが、植田総裁は10月利上げのシグナルを点灯させず。ただし、市場では、10月29~30日の日銀金融政策決定会合に向け、政策委員5人の挨拶・講演を予定するなか、利上げの地ならしを行うのではとの観測が浮上。植田総裁体制発足後を踏まえれば、挨拶・講演の回数と利上げとの間に、必ずしも相関はみられない。もっとも、これまで大規模緩和の解除を含めた利上げのタイミングでは、正副総裁の挨拶・講演を予定してきた。10月会合までには、植田総裁が1回、内田副総裁が2回の登壇する予定で、利上げへの思惑が交錯しそうだ。
  • 自民党総裁選を控え、世論調査では高市前経済安全保障相がリードする状況。しかし、ブロックチェーン型の予測市場プラットフォーム、ポリマーケットでは小泉農相が次の首相になるとの予想が9月22日時点で64%と、高市氏にダブルスコアをつける。9月22日の自民党総裁選の公示を経て、今後は演説会や討論会を予定するだけに、発言内容や戦況次第で為替が乱高下しかねない。なお、これまでは高市氏のニュースでドル円は上昇、小泉氏に関するニュースでドル円は下落してきた。
  • 9月22日週の主な経済指標として、23日にユーロ圏を始め独、米の総合PMI速報値(製造業、サービス業含む)、24日に独9月Ifo企業景況感指数、米8月新築住宅販売件数、25日に8月企業向けサービス価格指数、米Q2実質GDP成長率・確報値、米新規失業保険申請件数、米8月耐久財受注、26日に9月東京都区部CPI、米8月個人消費・個人所得・PCE価格指数を予定する
  • その他、政治・中銀関連では、22日に自民党総裁選告示・候補者5人による所見発表演説会、中国最優遇貸出金利発表、ブロック豪中銀総裁を始めイングランド銀行のベイリー総裁、ミランFRB理事、セントルイス連銀総裁、クリーブランド連銀総裁、リッチモンド連銀総裁の発言、23日に米2年債入札、アトランタ連銀総裁の発言、トランプ大統領による国連総会での演説を予定する。また、24日には自民党総裁選立候補者5人による演説会・討論会、米5年債入札、SF連銀総裁の発言、25日は日本40年利付国債入札、7月の日銀会合の議事録公表、ボウマンFRB理事を始めバーFRB理事、シカゴ連銀総裁、ダラス連銀総裁、NY連銀総裁、SF連銀総裁の発言、26日に自民党総裁選立候補者5人による演説会、リッチモンド連銀総裁の発言が控える。
  • ドル円のテクニカルは、やや強気にシフト。ドル円は9月FOMC後に上値の抵抗線として意識された21日線を超え、22日にはローソク足の実体部でも上抜けた。さらに、ローソク足は一目均衡表の雲の上限も突破。上値をうかがう余地が出てきたと言えそうだ。ただ、RSI(14日)は未だ53台で、9月4日の56.25を超えられず。レンジを脱却できるか引き続き不透明だ。
  • 以上を踏まえ、今後2週間の上値は心理的節目の150円ちょうど、下値は9月18日安値が近い145.50円と見込む。  


 ドル円の変動幅は9月15日週に2.81円と、その前の週の2.27円から拡大した。週足では、4週続伸。前週比では0.28円の上昇となり、年初来リターンは前週の6.1%安から5.2%安へ縮小した。9月FOMCは市場予想通り0.25%の利下げを行ったものの、2026年と2027年それぞれ1回ずつの利下げ示唆にとどまっただけでなく、パウエルFRB議長の会見がタカ派と判断され、ドル円は買い戻される展開。日銀の金融政策決定会合では植田総裁が10月利上げを示唆しないなかで、週後半には148円台へ戻す場面がみられた。高市前経済安全保障相の出馬表明がドル円を押し上げ、小泉農相の出馬会見でドル円が下落するなど、総裁選をめぐる動きも確認された。

15日のドル円は軟調。東京市場が休場のなか、ドル円は緩やかに下落し、重要な米経済指標を予定しないなかで、147.23円まで本日安値を更新した。トランプ大統領がFRBに大幅利下げを要請したことも意識されつつ、米中閣僚協議では短編動画アプリTikTokの米国事業売却が主な議題との思惑から、為替市場への影響は限定的だった。

16日、ドル円は引き続き軟調。ミラン米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長が米上院15日にFRB理事の就任が承認され、9月FOMCに参加する目途が立ち、影響をにらみ徐々に下落。小泉農相が出馬会見を行い、加藤財務相が選対本部長に就任すると明かしたことも、ドル円の売り要因となった。NY時間に入り、ベッセント財務長官が0.25%利下げは織り込まれていると述べるなかで、米8月小売売上高や輸入物価指数が市場予想を上回ったが、買いは限定的。特に米8月小売売上高は実質ベースで伸びが鈍化したため意識されなかったもよう。また、9月FOMCの政策発表を前に利下げが意識され、一時146.28円まで下落した。

17日、ドル円は買い戻し。東京時間に高市前経済安全保障相が19日に立候補会見で調整と報じられ、東京時間は底堅く推移した。ただし、FOMCの政策金利発表を控え模様眺めの展開。NY時間に入り、FOMCが0.25%の利下げを決定したほか、経済・金利見通しで年内12月まで連続利下げを示唆すると急落、146円を割り込み、一時145.48円と7月以来の安値をつけた。しかし、2026年と2027年の利下げが市場予想の期待に反し1回にとどまったほか、パウエルFRB議長が会見で今回の利上げが「リスク管理の一環」とし、緩和的水準まで利下げを行わない見通しを示す中で急反発。147円を回復し概ね高値引けした。

18日、ドル円は買い優勢。東京時間から、前日のFOMCのタカ派的利上げを受けて買いが入った。高市氏が総裁選に向けた出馬会見を行ったことも、財政拡大路線と過去の発言を受けた日銀の利上げけん制観測を受けて、ドル円の上昇を後押し。NY時間に米新規失業保険申請件数や米9月フィラデルフィア連銀製造業景気指数が市場予想より好結果になると、ドル円は急伸。9月FOMCでの年内連続利下げ予想が拮抗していたこともあり、148円を突破し、一時148.27円まで本日高値を更新した。

19日も、ドル円は買いの流れが継続。東京時間こそ、日銀の金融政策決定会合をにらみ小動きのところ、展望レポートの発表を予定しない会合としては政策金利発表が遅れるなか、ドル円は上値が重くなった。日銀が据え置きを発表した一方で、植田総裁が就任してから初めて2人の政策委員が反対票を投じ、利上げを提示したほか、ETFの売却を決定したことで、売りで反応し一時147.20円まで本日安値を更新。もっとも、高市氏の経済政策発表に絡む会見で財政拡張路線を表明したため買いが入るなか、植田総裁の会見は中立的で10月利上げの確証が得られないなかでも、日銀の政策金利発表後の下落を帳消しとした。NY時間にかけては148円台を回復、一時148.29円と週高値をつけ、大台付近で週を終えた。

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