Weekly Report(9/1)「ドル円、9月入りを迎え米8月雇用統計でレンジ相場脱却を試すか」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は8月25日週に1.52円と、その前の週の2.21円から縮小しただけでなく、年初来で2番目の小さな規模にとどまった。週足では、小幅に3週ぶり反発。前週比では0.14円の上昇となった。年初来リターンは前週の6.6%安から6.5%安へ縮小した。トランプ大統領がクックFRB理事を解任する方針を発表した後で即時解任を決定、クック氏がトランプ氏を提訴するなど、FRBの独立性を巡る不確実性が意識された。
  • トランプ大統領はクック米連邦準備制度理事会(FRB)理事の即時解任を発表、クック氏はトランプ氏を提訴し、法廷闘争に入った。ここからの焦点は2つで、1つ目は、今回のクック氏の解任がFRBの独立性や、米国経済に「修復不能な損害(irreparable harm)」を与えるか否か。2つ目は、クック氏が請求した訴訟中における解任予備的差し止めについて、裁判所がどのような判断を下すのか。特に2つ目について、米連邦最高裁の予備的差し止め判断次第で、訴訟の長期化が回避できる可能性がある。
  • トランプ政権の相互関税をめぐり、米控訴裁は「違法」との判断を下した。しかし、米控訴裁は発動済みの相互関税の効力について、10月14日まで維持されることを認めた上で、米最高裁の判断を待つという。クックFRB理事の問題を含め、米連邦最高裁の判断に託されることとなった。
  • 9月5日発表の米8月雇用統計を控え、足元の米労働指標は強弱まちまちだ。ただ、米7月個人消費支出とPCE価格指数を振り返ると、サービス分野での個人消費支出の堅調な結果は夏休みの一時的要因の可能性があり、インフレ指標も強含んでいない。こうした状況証拠を踏まえれば、企業が採用を積極化させているとは考えづらい。米8月雇用統計の非農業部門就労者数(NFP)は前月比7.0万人増、失業率は4.3%への上昇が見込まれているのは、個人消費やインフレ動向も踏まえているに違いない。
  • 9月1日週の主な経済指標として、1日に中国8月財新製造業PMI、ユーロ圏と独など8月製造業PMI改定値、2日にユーロ圏8月消費者物価指数・速報値、米8月ISM製造業景気指数、3日に豪Q2GDP、中国8月財新サービス業PMI、ユーロ圏と独など総合PMI(サービス業含む)改定値、米7月雇用動態調査(JOLTS、求人件数など)が発表される。また、4日には米8月チャレンジャー人員削減予定数、米8月ADP全国雇用者数、米新規失業保険申請件数、米8月ISM非製造業景気指数、5日には5日には日本7月実質賃金と実質消費支出、米8月雇用統計を予定する。
  • その他、政治・中銀関連では、9月2日に自民党両院議員総会、日本10年債利付国債入札、氷見野副総裁の講演、3日に米地区連銀報告(ベージュブック)の公表、中国「抗日戦争勝利80年」軍事パレード(プーチン大統領や金正恩総書記、イラン大統領ら出席)を予定する。4日に日本30年利付国債入札、NY連銀総裁とセントルイス連銀総裁の発言、米上院銀行委員会にてミランFRB理事候補に対する指名公聴会開催、5日はシカゴ連銀総裁の発言が控える。
  • ドル円のテクニカルは中立寄りも、やや軟化した状態を維持。ドル円は、ローソク足の実体部だけでなくヒゲまで21日移動平均線が抵抗線として機能し始めた。また、直近では、一目均衡表・転換線にも上値を抑えられる状況。ボリンジャー・バンドの2σの水準も下方向に垂れてきた。ただし、下値は2024年9月安値と2025年1月高値の61.8%押しにあたる146.95円が意識されるほか、一目均衡表の雲の上限がサポートとなり、下値も堅い。今後の一目均衡表の雲の上限は上向くだけに、上限がサポートされれば再び上昇の機運をつかみそうだが、雲の中に突入して雲の下限を下抜けしなければ、レンジ相場が続きそうだ。もっとも、9月1日のレーバーデー明けの米国は新学期入りと共に、事実上の新たな年度入りを迎える。足元で上下ガチガチなレンジ相場が続くが、9月入りと米8月雇用統計をきっかけに、レンジブレークができるか試されよう。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は200日移動平均線が近い148.90円、下値はボリンジャー・バンドの-2σ付近の145.80円と見込む。 

【8月25~29日のドル円レンジ: 146.66~148.18円】

 

ドル円の変動幅は8月22日週に1.52円と、その前の週の2.21円から縮小しただけでなく、年初来で2番目の小さな規模にとどまった。週足では、小幅に3週ぶり反発。前週比では0.14円の上昇となった。年初来リターンは前週の6.6%安から6.5%安へ縮小した。トランプ大統領がクックFRB理事を解任する方針を発表した後で即時解任を決定、クック氏がトランプ氏を提訴するなど、FRBの独立性を巡る不確実性が意識された。

25日のドル円は堅調。ジャクソン・ホール会合明け、パウエルFRB議長は利下げ示唆を行ったものの、禁輸政策の調整は慎重な道筋をたどると発言し、植田総裁の講演も年内利上げの決定打とならず、ドル円は徐々に買いが広がった。NY引けにかけては、一時147.94円まで本日高値を付けた。

26日、ドル円は乱高下。トランプ大統領が現地時間25日夜にクックFRB理事を住宅ローン不正問題で即時解任するとトゥルース・ソーシャルに投稿したため、ドル円は147.80円台から一時146.99円と1円近くも急落した。しかし、147円割れからは押し目を拾われ、クック氏が辞任しない意向を表明、法廷闘争で泥沼化する可能性もあり、下げ幅を縮小した。7月企業向けサービス価格指数や日銀発表の基調的インフレ率を補足するための指標の鈍化も、ドル円の上昇を後押し。フランスでの政局懸念も重なり対ユーロでのドル買いも加わって、ドル円はロンドン時間に一時147.91円まで本日高値を更新するも、NY時間は米8月消費者信頼感指数に含まれる職探しが困難との回答割合が2021年以来で最悪となったこともあり、上げ幅を縮小した。

27日、ドル円は堅調に推移。トランプ政権の対インド追加関税50%発動を受け、ドル円は買いが優勢となった。また、半導体大手エヌビディア決算への期待感からリスク選好度の強まりを意識した買いも、ドル円を後押し。NY時間にかけ米金利上昇に伴い3日ぶりに148円台を回復し、一時148.18円まで本日高値を更新した。しかし、米金利の上昇一服に伴い上げ幅を縮め、終盤に147.29円まで本日安値をつけた。

28日、ドル円は軟調。東京時間の序盤に一時147.49円まで本日高値を付けた後は、狭いレンジでゆるやかに下げた。中川審議委員の講演直後に147円割れを試した後、戻りを試すも上値は重い。ロンドン時間からは売りが優勢となり、NY時間にかけ、2024年9月安値と2025年1月高値の61.8%押しにあたる146.95円を割り込む展開。市場予想より堅調だった米新規失業保険申請件数や米Q2実質GDP成長率・改定値を受け、戻りを試すも147.20円台までにとどまり、クックFRB理事によるトランプ大統領の提訴のニュースもあって、その後に146.66円まで週の安値をつけた。

29日、ドル円は引き続き軟調。東京時間に発表された8月東京都区部CPIは伸びが鈍化したものの反応薄で、147円を上下する展開が続いた。NY時間にかけて買い戻しが優勢となり、米7月個人消費支出や個人所得、PCE価格指数がそろって市場予想と一致する結果になると、一時147.41円と本日高値を更新。米個人消費の伸びが堅調で個人消費が米経済を支える期待が強まったものの、その後に発表された米7月シカゴ購買部協会景気指数や米8月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値が嫌気され売りに転じ、一時146.76円まで本日安値をつけた。もっとも、引けにかけては下げ幅を縮小し147円台へ切り返した。

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