「SCO首脳会談・・・米国の時代が終わったことを知らずにやってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

為替の仕組み


FXや国際情勢に興味のない方に、たまに質問されるのが「なぜトランプ大統領があれほど支持されるのか?」ということです。

これは、現在の米国に住んでいると理解できるでしょうが、日本からでは分かりにくい面があります。

個人的には、ある面民主党政権による失政が共和党を支えたとも思われます。

米国には親族や友人が多数住んでいるのですが、そのうちの一人は民主党支持者が多いサンフランシスコ(以下SF)に住んでいます。

私もそこを拠点とし過ごし、何度も訪れている街ですが、この何年で風変わりしてしまっています。

その根本的な要因の一つとして、犯罪率が急上昇していることが挙げられます。

有名なのは2014年にカリフォルニア州の住民投票で承認された州法「プロポジション47」というものです。

これは950ドル(約14万円)以下の窃盗や特定薬物の所持などは「軽犯罪」扱いとなります。

この法律ができたことで、警備員も警察も万引きや窃盗をする犯罪者に対して積極的には関わらなくなってしまいました。

窃盗を捕まえようとしても軽犯罪であることで、自分が怪我をする(もしくは死んでしまう)リスクを避けたがっています。

SFに住んでいる親戚も、自分の目の前で集団万引きを目にしたこともあるようです。

このような犯罪行為が頻繁に行われたことで、路面店が大幅に減少する傾向にあります。

SFに行ったときは必ず行っていたウェストフィールドのショッピングセンターは2023年には閉鎖。

ブルーミングデイルなどの閉店も決まっています。

ただでさえネット通販が隆盛を極めているときに、万引きし放題となれば路面店を構えている意味がなくなります。

このような、民主党政権による失政が、トランプ支持者を増やした要因の一つです。

他にも、米国の白人貧困層が移民に職を奪われているとの思い込みや、民主党がリベラルすぎるとの批判ほか、様々な理由があります。

その点、自身は大金持ちでも有言実行のトランプ氏が輝いて見えてしまうものなのでしょう。



このような民主党の不人気から、共和党の中でも異彩を放つトランプ大統領が支持を得たわけです。

ただ、第1次政権とは違い、第2次トランプ政権は今後の行く手は前途多難といえます。

それは米国離れが深刻になっていることです。

すでに就任早々からその兆候はありましたが、8月31日から9月1日に行われた中国・天津で行われた2025年上海協力機構(SCO)首脳会議がより明確に示しました。

SCOサミットに関しては、前週から米国をはじめ海外の報道機関は注目していましたが、なぜか日本での報道は非常に限られたものでした。

SCOサミットには中国、ロシア、インドの主要国にカザフスタン、イラン、パキスタンほか20カ国以上が参加しています。

SCOで習近平国家主席は冷戦的思考には反対と述べ、米国の名前こそ出さなかったですが、世界的秩序を乱す行為を批判しました。

また、SCO開発銀行の早期設立を要請し、人民元経済の拡大を企てるとともに、新興国の脱米国・脱米ドルを促しています。

米国から制裁を受けているロシアや、50%という高額な関税額が賦課されたインドもSCOに積極的に協力する姿勢です。

トランプ大統領の「高関税賦課で脅せば従う」というシナリオを完全に狂わせたといえます。

G7は8億人に満たない経済圏だが、中印露の3カ国だけで30億人弱の巨大経済圏を形成しています。

今後のG7の経済規模は縮小し、SCO加盟国がG7を上回るのは時間の問題とも思われます。

米国ファーストで覇権を握ろうとしたトランプ大統領の目論見は、明らかに失敗しています。

さらにSCOだけではなく、ブラジルはトランプ大統領と仲が良かったボルソナロ前大統領が裁判にかけられたことで50%の関税を課されました。

また、南アも全くの嘘で固められた白人迫害というレッテルを貼り付けられ30%の関税が課されています。

ブラジル2.1憶人、南ア0.6億人の人口もあり、これらの国も米国を頼るよりも中印露や他のBRICS国やSCO参加国との関係を深めることでしょう。

日本や韓国などは防衛面で米国頼りとなっています。メキシコなども地政学上米国から切り離せません。

ただ、世界の潮流が米国離れ、米ドル離れに動いていることは間違いありません。

この大きな潮流がどのように進行するかで、ドル及びFXは大きな影響を受けるでしょう。

今後もトランプ政権が更に関税を引き上げるのか、または自らの失政を認めるのかを判断しないとFXはやってはいけないでしょう。


本コラムは個人的見解であり、あくまで情報提供を目的としたものです。いかなる商品についても売買の勧誘・推奨を目的としたものではありません。また、コラム中のいかなる内容も将来の運用成果または投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。最終的な投資決定はお客様ご自身の判断でなさるようにお願いします。

※本記事は2025年9月8日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。


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