「雇用・CPI等から、新たな視点に変えないでやってはいけない」
松井 隆
この記事の著者
DZHフィナンシャルリサーチ 為替情報部 アナリスト

大学卒業後、1989年英系銀行入行。入行とともに為替資金部(ディーリングルーム)に配属。以後2012年まで、米系、英系銀行で20年以上にわたりインターバンクのスポット・ディーラーとして為替マーケットを担当。ロンドン本店、アムステルダム、シンガポール、香港の各支店でもスポット・ディーラーとして活躍する。銀行退職後は本邦総研、FX会社のコンサルティング、ビットコインのトレーディング等多岐にわたる事業に従事する。

マーケット分析
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先週の動きを振り返る

ゴールデンウィーク中には、米連邦公開市場委員会(FOMC)が行われ

25ベーシスポイントの利上げを実施しました。

しかし、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が

利上げ停止時期に関して「近づいている感触。すぐそこの可能性も」と述べたこともあり

米金利が低下し、ドルが売られています。

日銀が低金利政策を継続することを発表した28日以来、円安が急伸しましたが

ドル円は再び水準的に1週間弱ですべてを戻した状況です。

重要指標などの着眼点への変化も

今回のパウエルFRB議長が、今後の利上げ停止について言及したのには複数理由があります。

一つは、先月27日に発表された経済指標(1-3月期米GDP速報値、1-3月期米個人消費=PCE)では

GDPが予想を下回った反面、PCEのコア指数は予想比を上振れしました。

インフレ高進の中での、経済停滞の可能性とも捉えられます。

そして、もう一つは最大の不確定要素として金融システム不安が、利上げ停止の可能性と言えます。

パウエルFRB議長が、引き続き「今後はデータ次第」と述べていますが

今後のデータを精査するものが、インフレ、雇用などのデータだけを見ても分からないかもしれません。

特に、雇用統計などは遅行指標でもあるので、今後は重要度が下がる可能性もあるでしょう。

それよりも、注視てみなくてはならないのは、金融システムがどのように動いているかを知ることで

これらの指標等を先取りして見ていかなくてはならなくなりそうです。要は着眼点の変化が必要になりそうです。

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すでに金融機関は与信厳格化に・・・タイムラグに気を付ける

3月の金融危機後に、ダラス連銀は金融機関が貸し渋りなどの保守的傾向が出てきていることをデータで指摘。

そして、欧州中央銀行(ECB)も金融機関の与信基準が1-3月期に予想以上に厳格化したと公表しています。

このような、結果が実体経済の雇用情勢、消費者物価指数(CPI)などの指標に反映されるのにはタイムラグがあります。

例えば、中小企業の経営者が金融機関から融資を受けているとします。

そして、その金融機関の融資が、金融危機により厳格化され、これまでの融資額から大幅に減額された場合は、どうなるでしょうか?

まずは、経営者は現時点で出来るだけのやり繰りをするでしょうが、徐々に融資が無いことで行き詰まり始めます。

新たな工場の建設など、設備投資も控えることになるでしょう。

人員も、解雇まではまだ行わないにしても、新たな採用は控えることになると思われます。

このような、負の連鎖が起きる場合は、何か月か時間を要します。

要するに、データで結果が出るのにはタイムラグがあることで

これまでの1カ月前の経済指標を参考にしても、データとして古すぎると言えるでしょう。

今後の為替動向を読み解く中で、これまで注目されていた着眼点が変わる可能性もありそうです。

すでに、一歩一歩先を考えて、ポジションを持たないと、乗り遅れる可能性があることで

新たな着眼点を見ないでの取り引きは、やってはいけないことになりそうです。

本記事は2023年5月8日に「いまから投資」に掲載された記事を、許可を得て転載しています。

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