今回解説していく通貨はドル円です。日銀は植田総裁の下でも現在の金融緩和策を継続していく方針が明らかになった一方、米国では金融引き締めの長期化 […]
―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は11月18日週に2.61円と、前週の4.09円から縮小した。週足では、続伸。19日、ロシアとウクライナ間の軍事衝突悪化を受けて一時153.28円まで週の安値を更新した。20日には、国際原子力機関(IAEA)がイランによる核兵器に必要な濃度に近い高濃縮ウランの生産を停止に同意との見方を示した結果、リスク選好度が回復し、一時155.89円まで週の高値をつけたが、21日は、ドル円が再び下落。①ウクライナがロシアによる初の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を発表、②ウィリアムズNY連銀総裁「金利はさらに低下する可能性」、「ディスインフレは継続」と発言、③植田日銀総裁「12月に向け非常に多くのデータや情報が利用可能」と発言(追加利上げ期待再燃)――を受けて、ドル円は一時154円ちょうど付近へ下落しつつ、22日は154円後半へ戻した。
- 今週は28日に米感謝祭、翌29日は短縮取引とあって、米重要指標が目白押しのなかマーケットが薄くなり、神経質な展開が予想される。特に注目の米10月PCE価格指数は、前年比で加速が見込まれるが、市場では織り込み済みで、市場予想と一致すればドル円の上昇は限定的となりうる。
- トランプ次期大統領は11月22日、ようやく米財務長官にスコット・ベッセント氏を指名した。トランプ氏が「米国第一主義の推進者」と評価するように、同氏は①米連邦政府債務並びに歳出削減、②関税の有効活用、③米国の「ビットコイン超大国」化――の推進役となる見通しだ。一方で、為替政策でいえば、アベノミクスの下にて円売りで成功した過去に加え、米経済の発展でトランプ氏はドル高を容認すると発言したことが思い出される。ただ、トランプ氏は4月と7月にドル高・円安是正を強調してきた。ベッセント氏と言えば、アベノミクス下での円売りで成功した人物とされるが、同時に日本の政財界と深いパイプを持つだけに、日本政府にとって意思疎通を図る上で一筋の光明となる期待もある。
- 植田総裁は11月21日、質疑応答で英語にて、12月18~19日の日銀金融政策決定会合まで「まだ1カ月程度ある。それまでの期間に非常に多くのデータや情報が利用可能となるだろう」と明言。11月18日の発言内容と比較すれば、データ次第で12月の追加利上げへの地ならしを行ったと受け止められる。QUICKが11月18日に発表した11月外国為替市場の月次調査で、12月の日銀金融政策決定会合で追加利上げを「実施しない」との予想が67%に及んだだけに、追加利上げの見通しに巻き戻しが入ればドル円の上値を重くさせそうだ。
- 今週は11月26日に日本10月企業向けサービス価格指数の他、米10月新築住宅販売件数や米11月消費者信頼感指数、11月FOMC議事要旨、27日にはニュージーランド準備銀行(RBNZ)金融政策決定会合、米Q3実質GDP成長率・改定値、米10月耐久財受注、米新規失業保険申請件数、米10月個人消費支出・所得、PCE価格指数など、米重要指標が集中する。28日に米は感謝祭を受けて休場。29日は日本10月失業率と有効求人倍率、11月東京都区部消費者物価指数、10月鉱工業生産、10月小売業販売額など日本の重要指標が並ぶ。
- ドル円はテクニカル的に、強い地合いを維持するが、ローソク足はボリンジャー・バンドの2σを下回り、バンドウォークにブレーキが掛かった。RSIが14日移動平均線を下回りデッドクロスもあり、非常に強い地合いから、やや後退した感がある。
- 投機筋の円のネット・ポジションの動向は11月19日週に4万6,868枚と、前週の6万4,902枚を下回りつつ、4週連続でショートとなった。米金利上昇トレンドが一服するなかでショート拡大にも一旦ブレーキが掛かった。注目すべきは、投機筋のポジションの季節要因だ。円ショートは、秋に膨らんだ後で、年末にかけ縮小する傾向が確認できる。2021年は約10.8万→約5.2万枚、2022年は約10.3万枚→約3.8万枚、2023年は約13万枚→約5.6万枚に縮小してきた。今回も同じ道をたどるならば、円ショート縮小とともに、ドル円が下落に向かう道筋を残す。
- 以上を踏まえ、今週の上値は心理的節目の156.50円、下値は週足でみた一目均衡表の雲の下限にあたる152.90円と見込む。
1.為替相場の振り返り=ドル円、ウクライナとロシアの戦闘激化や日米の中銀発言で乱高下もレンジ内に
【11月18日~22日のドル円レンジ: 153.28~155.89円】
ドル円の変動幅は11月18日週に2.61円と、前週の4.09円から縮小した。週足では、続伸。18日は、植田総裁が講演で12月の追加利上げにつき明確な示唆を与えず、発言前から約1円の上昇をみせた。ロシアのウクライナ侵攻開始から1000日目に当たる19日は、米国から供与された長距離地対地ミサイル「ATACMS」を使用、ロシア西部ブリャンスク州の兵器庫を攻撃し、プーチン大統領が核兵器の使用基準について従来よりも引き下げることを承認したとの報道もあって、一時153.28円まで週の安値を更新。
ただロシアのラブロフ外相が核戦争の阻止のため、あらゆる手段を講じると述べ、買い戻しにつながった。もっとも、加藤財務相が「投機的な動向を含め、極めて高い緊張感を持って注視」と、やや強いトーンで口先介入したため、上値は重かった。20日には、国際原子力機関(IAEA)による「イランは、核兵器に必要な濃度に近い高濃縮ウランの生産を停止することに同意した」との見方を示した結果、リスク選好度が回復し、一時155.89円まで週の高値をつけた。
21日は、ドル円が再び下落。①ウクライナがロシアによる初の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を発表、②ウィリアムズNY連銀総裁「金利はさらに低下する可能性」、「ディスインフレは継続」と発言、③植田日銀総裁「12月に向け非常に多くのデータや情報が利用可能」と発言(追加利上げ期待再燃)――を受けて、ドル円は一時154.08円まで売りが入った。米新規失業保険申請件数が前週比で減少した一方で、米11月フィラデルフィア連銀製造業景況指数が予想外に景気判断の分岐点のゼロを割り込んだため、為替への影響は限定的だった。22日は、ユーロ圏11月総合PMI速報値が景況判断の分岐点である50を割り込んだ結果、対ユーロでドルが上昇。ユーロドルは、一時1.0332ドルと2022年11月末以来の水準へ急落した。米11月総合PMI速報値は金利低下見通しとトランプ次期米政権による企業優遇策への期待を追い風に、2022年4月以来の高水準だったことで、景況感の違いが意識され、その後も1.04ドル台へ戻すも限定的だった。ドル円も対ユーロでのドル高に押され、NY時間は154円後半での推移を保った。
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