Weekly Report(4/22):「ドル円155円突破迫る、日銀金融政策決定会合やFOMC含め重要イベントを挟み乱高下か」
安田 佐和子
この記事の著者
ジーフィット為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は4月15日週に1.81円と、その前の週の1.82円と概ね変わらず。週間ベースでは、3週続伸した。4月15日発表の米3月小売売上高が市場予想を上回ったため、米利下げ観測が一段と後退。翌16日にはパウエルFRB議長のタカ派発言もあって、一時154.79円まで週の高値を更新した。ただし、17日以降は初の日米韓財務相の共同声明で円安とウォン安への懸念が示され、上値が重くなった。19日には、イスラエルが現地時間未明、イランに報復攻撃を仕掛けたとの報道でリスク選好度が低下し、ドル円は一時153.59円と米3月小売売上高後の上昇を打ち消す展開に。しかし、後にイランがイスラエル攻撃の火消しに動いたため、報復攻撃ニュース後の下げ幅を相殺、154.60円台でNY時間を終えた。
  • 今後2週間は、4月25-26日開催の日銀金融政策決定会合や、4月30ー5月1日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控える。加えて、4月25日に米1-3月期実質GDP成長率・速報値や26日に米3月個人消費支出(PCE)価格指数、5月3日には米4月雇用統計と、米重要指標が目白押し。ドル円は155円を突破すれば、同水準にあるノックアウト・オプションを抜け、157円まで切り上がりかねない。
  • ただ、中長期的に円安をめぐる環境は「今回は違う」。日米韓財務相の共同声明で円安とウォン安をけん制したほか、国際通貨基金(IMF)からも日本の為替介入に否定的な声は聞かれない。何より、植田日銀総裁は円安を受けた物価上昇が続けば、追加利上げの可能性を繰り返した。
  • 加えて、ライバル官庁として知られる財務省と経産省も、国際収支を通じた円安是正で協力しつつある。特に、経産省が6月にまとめる経済財政運営と改革の方針(骨太の方針)では、「新機軸」と銘打ち、国内企業が海外で得た利益の国内還流(レパトリ)や、研究開発などの本社機能の国内強化を柱に掲げる方針。
  • このうち、レパトリは本邦経常黒字の大半を担う第一次所得収支に直接働きかけるだけに、それなりのインパクトを与えそうだ。経常黒字の一角を担う対外直接投資収益は20兆9,233億円。このうち、約半分の10兆5,687億円が再投資収益として海外拠点に留保されている。レパトリ減税を行った場合、仮に約半分が戻ってくれば、通信・コンピュータ・情報サービス、著作権等使用料、専門・経営コンサルティングサービスに代表されるデジタル赤字の5.5兆円を概ね相殺できる規模で、ドル円の一段安を抑制する一助となりうる。
  • ドル円はテクニカル的に、三役好転やパーフェクト・オーダーなど引き続き力強い。その半面、投機筋の円のネット・ショートは過去最大に近づき、RSIも高値警戒感がある。米利下げ観測後退や米株安を通じたリスク選好度の低下局面で、ドル円の上値を抑える場合もありそうだ。
  • 以上を踏まえ、今週のドル円の上値は157.00円、下値は50日移動平均線付近の150.90円と見込む。

1.前週の為替相場の振り返り=米3月小売売上高を受け155円乗せに接近、地政学的リスクを受けた下落は限定的

【4月15日~19日のドル円レンジ:152.98~154.79円】

(前週の総括)

 ドル円の変動幅は4月15日週に1.81円と、その前の週の1.82円と概ね変わらず。週間ベースでは、3週続伸した。4月15日発表の米3月小売売上高が市場予想を上回ったため米利下げ観測が一段と後退、政策金利と相関性が高い米2年債利回りが2023年10月以来の5%乗せが迫るなか、翌16日にパウエルFRB議長が長期間に及ぶ金利据え置きに言及すると、ドル円は一時154.79円まで週の高値を更新した。

 ただし、17日以降、ドル円の上値は重くなった。同日、初の日米韓財務相会合が開催され、共同声明に「持続可能な経済成長及び金融の安定並びに秩序立った、良好に機能する金融市場を促進するため、引き続き協力していく」と盛り込んだ。さらに「我々はまた、最近の急速な円安及びウォン安に関する日韓の深刻な懸念を認識しつつ、既存の G20 のコミットメントに沿って、外国為替市場の動向に関して引き続き緊密に協議する」と明記。また、同日開催の主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議後に公表された共同声明でも、「我々は、2017 年 5 月の為替相場についてのコミットメントを再確認する」と記した。

 19日には、イスラエルが現地時間未明、イランに報復攻撃を仕掛けたとの報道でリスク選好度が低下し、時間外取引で米債利回りやドル円もつれて下落した。ドル円は一時153.59円と、米3月小売売上高後の上昇を打ち消す展開に。しかし、後にイランがイスラエル攻撃の火消しに動いたため、報復攻撃のニュース後の下げ幅を相殺、154.60円台でNY時間を終えた。

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