ドル円の短期的なテクニカル分析は、依然としてドル高・円安を指向しています。 上値目標値は、144円処として、142円のドル買いポジションを堅 […]
―Executive Summary―
- ドル円の変動幅は8月19日週に4.01円と、前週の3.33円から拡大した。週足では、3週ぶりに反落。ドル円は週初、カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングスへの買収観測や、米雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)の下方修正幅をめぐり、売り買いが交錯。21日にNFPの年次基準改定による下方修正幅が事前報道の100万人を下回ると買い戻される場面もあったが、7月30~31日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が9月利下げ観測をサポートする内容で、145円割れを迎えた。23日には衆院財務金融委員会閉会中審査で植田日銀総裁が追加利上げ姿勢を維持したほか、NY時間にはジャクソンホール会合でパウエルFRB議長が利下げを明言したため売りが優勢となり、一時144.05円まで週の安値を更新した。
- NFPの年次基準改定を始め、7月FOMC議事要旨は9月利下げ開始をサポートする内容だった上、パウエルFRB議長がジャクソンホール会合で9月利下げを明確に示唆した。一連の結果のなかでも、特に注目はNFPの年次基準改定による下方修正だ。9月FOMCで経済・金利見通しを弱い方向に修正するだけでなく、年1回に引き下げた利下げ示唆も変更すること必至だ。
- 8月30日には、重要指標である米7月個人消費支出、個人所得、PCE価格指数を予定する。仮にPCE価格指数などが強含んでも、米8月雇用統計まで、今後の利下げ幅やペースを見極める動きとなりそうだ。ただし、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラの司令官が先月殺害された報復として、イスラエルへの第1段階の攻撃を実施。イスラエルはレバノン南部にあるヒズボラ拠点に先制攻撃を行った。イスラエルとヒズボラ間の応酬が大規模な戦闘へと発展する懸念と無縁ではなく、円キャリー・トレードが収束するなか、中東の地政学的リスクがドル円を押し下げるシナリオに留意すべきだろう。
- 植田日銀総裁は8月23日、衆院財務金融委員会の閉会中審査で、金融市場の経済・物価への影響を見極めつつ、見通しに沿い経済・物価実現の確度の高まりを確認できれば、追加利上げを行う方針に変わりはない姿勢を強調した。自民党総裁選や衆院解散・総選挙などの政治リスクや、米景気後退リスクに直面するならば追加利上げを控えるだろうが、ドル円が140円超えで推移する限り、物価の上振れ懸念もあり、追加利上げ姿勢を維持するだろう。
- 今週は、8月26日に米7月耐久財受注、27日に日本7月企業向けサービス価格指数、29日に米Q2実質GDP成長率・改定値、30日に日本7月失業率や有効求人倍率、米7月個人消費支出、個人所得、PCE価格指数を予定する。過去2週間と比較し、重要イベントが少ない週と言えよう。ただ、中東情勢の緊迫化を受け、8月5日の安値をトライするリスクを念頭に入れておきたい。
- ドル円のテクニカル的な地合いは、やや弱含み。ボリンジャー・バンドのー2σを上回る推移を保つとはいえ、8月19 日週は2023年1月と2024年7月の高値の38.2%押しにあたる148.52円を一度も超えられなかった。加えて、8月19日週の終値は2023年1月の安値と2024年7月の高値の半値押しにあたる144.40円のサポートも割り込んだ。その他、21日線、50日線、90日線は下向きを保ち、「三役逆転」を維持している。
- 投機筋の円のネット・ポジションの動向は8月20日週に2万3,585枚のロングと、2021年3月12日週以来のロング転換を果たした前週の2万3,104枚をわずかに上回った。円キャリー再開が取り沙汰される場面もあったが、仮に再開していたとしても極めて短期で小幅と言えそうだ。
- 以上を踏まえ、今週の上値は一目均衡表の転換線が近い146.50円、下値は8月5日安値付近の141.50円と見込む。
1.為替相場の振り返り=ドル円、パウエル議長のジャクソンホール講演後に144円割れ迫る
【8月19日~23日のドル円レンジ:144.05~148.05円】
ドル円の変動幅は8月19日週に4.00円と、前週の3.33円から拡大した。週足では、3週ぶりに反落。ドル円は週初に148.05円の高値を付けた後は軟調で、カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールがセブン&アイ・ホールディングスへ買収提案を行ったと報じられ、円買い需要が意識されドル売り・円買いが入った。さらに同日、保守系金融情報サイトのゼロヘッジが21日に発表予定の米雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)の2023年4月~24年3月までの下方修正幅が、年次基準改定により最大で100万人に及ぶと報じ、売り圧力が掛かった。NY時間には、タカ派の最右翼の1人、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が19日付けのウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙とのインタビューで「9月利下げは適切」との発言が伝わり、ドルの戻りを抑えた。
20日の東京時間には、セブン&アイの買収が困難と報じられ147.30円台へ戻すも、21日の東京時間には再び売り優勢となり、145円割れを試した。NY時間に入り、米労働統計局が米雇用統計・NFPの年次基準改定を控え、乱高下の展開。発表予定時間に米の郡別雇用・賃金の調査結果が発表されると、ヘッドラインで「14.6%増」と出たため、勘違いした投資家がドル買いで反応したこともあり、一時146.90円まで本日高値を更新した。結局、約30分経過してようやく発表された数字は81.8万人の下方修正で、100万人に及ばなかったため、再び146.10円台へ戻したが、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨がハト派寄りの内容だったため145円割れの展開。22日には買い戻される場面があったものの、23日には衆院財務金融委員会閉会中審査で植田日銀総裁が追加利上げ姿勢を維持したため、ドル円の上値を抑えた。NY時間には、ジャクソンホール会合でパウエルFRB議長が利下げを明言したため売りが優勢となり、一時144.05円まで週の安値を更新した。
チャート:ドル円の6月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸)
(出所:TradingView)
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