Weekly Report(8/25)「ドル円、日米の金融政策逆転の期待が本格化せずレンジ継続か」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は8月18日週に2.21円と、その前の週の2.31円から縮小した。週足では、続落。前週比では0.23円の下落となった。年初来リターンは前週の6.4%安から6.6%安へ拡大した。ジャクソン・ホール会合を控え、トランプ大統領がクックFRB理事の解任を示唆しつつも小動きだったが、パウエルFRB議長の同会合での講演を受けて、9月利下げが意識されドル円は売りへ舵を切った。
  • パウエル氏は8月22日、FRB議長として最後となるジャクソン・ホール会合での講演で、利下げへの扉を開いた。講演の冒頭から米労働市場は雇用の最大化に近い水準と述べつつ、「リスク・バランスはシフトしている」と指摘。米労働市場は移民の減少と、米国内の需要減退を受け「奇妙な種類の均衡」にあり、下振れリスクが高まっているとした上で、リスク・バランスのシフトが「政策スタンスの変更を保証する可能性がある」と明言した。一連の内容は、利下げを示唆したものと捉えられるが、①関税によるインフレへの影響、②2024年の利下げを踏まえ中立金利に1%接近した現状――を踏まえ、9月利下げへの強いシグナルは送らなかった。
  • 植田総裁は、8月23日に行ったジャクソン・ホール会合での講演で「人口動態の変化、足元で人手不足感の強まりと持続的な賃金上昇圧力をもたらす」と結論づけた。年内の利上げの選択肢を確保したと言えよう。今回、登壇したパネルセッションのテーマが「転換期の労働市場の政策的含意」だったところ、7月日銀会合後の会見で言及した①関税を受け成長ペースが今後鈍化、②それに伴い基調的な物価上昇率伸び悩む――といった見通しに触れず、当時の会見内容より、ややタカ派的だったと解釈できる。特に、①については、労働市場に直結するだけに、敢えてハト派的と受け止められないよう言及を避けたかのようだ。
  • 今週は、8月29日に米7月PCE価格指数を予定する。クリーブランド連銀のナウキャストでは、米7月PCE価格指数について前年同月比2.6%(前月:2.6%)、コアPCEは同2.9%(前月:2.8%)と、コアPCEにつき再加速が見込まれている。
  • 8月25日週の主な経済指標として、25日に独8月Ifo企業景況感指数、米7月新築住宅販売件数、26日に日本7月企業向けサービス価格指数、米8月消費者信頼感指数、27日に豪7月CPI、28日に米Q2実質GDP成長率・改定値と米新規失業保険申請件数、28日に日本7月失業率と有効求人倍率、8月東京都区部CPI、米7月個人消費支出と個人所得、PCE価格指数が控える。
  • その他、政治・中銀関連では、8月25日にFRB議長候補と報じられたダラス連銀総裁の発言、26日に8月会合分の豪中銀議事要旨、米2年債入札、NY連銀総裁とリッチモンド連銀総裁の発言、27日に日本の月例報告、米5年債入札、リッチモンド連銀総裁の発言と米半導体大手エヌビディアの決算、トランプ政権によるインドへの関税50%発動を予定する。また、28日には中川日銀審議員による講演、7月定例理事会のECB議事要旨、米7年債入札、29日にトランプ政権のデミニミス・ルール免除措置終了を迎える。
  • ドル円のテクニカルは中立寄りも、やや軟化。ドル円は、21日移動平均線を完全には超えられず、上値が抑えられる状況が続く。ただし、パウエルFRB議長のジャクソン・ホール会合を受けて、ドル円は一時的ながら50日移動平均線と一目均衡表の雲の上限を割り込んだ。とはいえ、9月に0.25%利下げを行った後の方向性は不透明で、ここからさらに下を攻めるには材料不足感が否めない。一目均衡表の雲の下限をしっかり抜けないようであれば、雲自体が上方にシフトしている点も意識される。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は200日移動平均線が近い149円ちょうど、下値はボリンジャー・バンドの-2σ付近の146.10円と見込む。 


【8月18~22日のドル円レンジ: 146.57~148.78円】

 ドル円の変動幅は8月18日週に2.21円と、その前の週の2.31円から縮小した。週足では、続落。前週比では0.23円の下落となった。年初来リターンは前週の6.4%安から6.6%安へ拡大した。ジャクソン・ホール会合を控え、トランプ大統領がクックFRB理事の解任を示唆しつつも小動きだったが、パウエルFRB議長の同会合での講演を受けて、9月利下げが意識されドル円は売りへ舵を切った。

18日のドル円は堅調。トランプ大統領とウクライナ大統領など欧州首脳陣との会談で、ウクライナの安全へ向けた保証につき、米国が関与する方向性が固まるなか、東京時間から、ゆるやかに買いが入った。ロンドン時間には147円半ばをトライする動きとなり、NY時間には特に米重要経済指標を予定しないなかでも、一時147.99円まで本日高値を更新した。

19日、ドル円は小動き。米格付け会社S&Pが18日引け後に米国の格付けを「AA+/A-1+」で据え置いたため、東京時間の序盤に一時148.12円まで本日高値をつけたが、その後はもみ合いが続いた。新発20年国債入札は軟調だったほか、河野前デジタル相がロイターとのインタビューで「円安是正へ日銀の利上げと財政規律が必要」との見解を示したが、影響は限定的。むしろ、NY時間には一時147.44円まで本日安値をつけた。

20日、ドル円はNY時間に軟調。東京時間は、今週末にジャクソン・ホール会合を控え小動きだったが、NY時間にトランプ大統領がクックFRB理事に対し、トゥルース・ソーシャルにて解任の可能性に言及し、売りで反応した。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙がトランプ氏がクック氏の解任を検討と報じたこともあり、147円台を割り込み一時146.87円まで本日安値を更新。その後は買い戻され、147円前半へ切り返した。

21日、ドル円は買い優勢。東京時間は147円前半での推移を続けたが、ロンドン時間から徐々に買いが強まった。NY時間に発表された米新規失業保険申請件数や米8月フィラデルフィア連銀製造業景気指数が市場予想より弱かったものの、ジャクソン・ホール会合でのパウエルFRB議長の講演を翌日に控え買いの流れが継続し、148円を超えても上昇が継続。米司法省がパウエルFRB議長にクックFRB理事の解任を要請したとの報道が流れても148円割れを回避し、一時148.41円まで本日高値をつけた。

22日、ドル円は買い優勢を経て急落。東京時間では、日本7月全国消費者物価指数(CPI)のコアCPIは市場予想を上回ったが前日の流れを引き継ぎ買いが優勢で、一時148.78円と8月1日以来の高値をつけた。以後も147円半ばから後半を中心とした推移を維持したが、NY時間に急落。パウエルFRB議長が9月利下げの示唆を与えたと思われる発言を行ったため、148円どころか147円も割り込み、一時146.57円と約1週間ぶりの水準へ下落し、概ね147円を回復できずに週を終えた。

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