Weekly Report(8/12)「米7月CPIと小売売上高を予定も、夏枯れ相場でレンジ維持か」
安田 佐和子
この記事の著者
トレーダム為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は8月4日週に1.47円と、その前の週の3.63円から縮小した。週足では、3週ぶりに小幅上昇。前週比では0.33円の上昇となった。年初来リターンは前週の6.3%安から6.1%安へ小幅に縮小した。予想外に米労働市場の減速を確認した米7月雇用統計後、特に大きなイベントや米重要指標も予定せず、147円台を中心としたもみ合いに終始し、上値は21日移動平均線、下値は2024年9月安値と2025年1月高値の61.8%押しに当たる146.95円が意識された。
  • トランプ大統領は、8月8日に退任したクーグラーFRB理事の後任に、スティーブン・ミラン米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を指名した。指名に当たり、トランプ氏はトゥルース・ソーシャルにて「今後も、恒久的な後任者の選定にあたる」と説明しており、クーグラー氏の任期満了の2026年1月末までの「つなぎ役」と考えられよう。ただし、FOMC参加者にとっては、衝撃を与える人事に違いない。ミラン氏は、2024年11月、『世界貿易システム再編のためのユーザーガイド』と題したレポートで、「マールアラーゴ合意」を提唱していたことで知られる。さらに、FRB理事任期の短縮、並びに地区連銀総裁を含め随意解任権の導入や、米財務省とFRBの連携を訴えてきた。
  • 今週予定の米7月消費者物価指数(CPI)と米7月小売売上高は、足元で年内3回の利下げ予想に傾きつつあるなか、ドル円に大きなインパクトを与えそうだ。クリーブランド連銀のナウキャストでは、米7月コアCPIの再加速を見込む反面、シカゴ連銀は米7月コア小売売上高(自動車・部品を除く)については、前月比0.1%減と6月から小幅ながらマイナス反転を予想する。
  • 日銀が7月30~31日に開催した金融政策決定会合の「主な意見」で、「米国関税政策の影響の見極めには、少なくとも今後2~3カ月必要」と明記された。これを受け、10月29~30日開催の会合での利上げの可能性は、概ね消滅したといっても過言ではないだろう。ただ、「早ければ年内にも様子見モード解除」が可能となりうるとの文言も確認。年内の追加利上げとなれば、12月18~19日の日銀金融政策決定会合が視野に入る。
  • 8月11日週の主な経済指標として、12日に米7月CPI、13日に日本7月国内企業物価指数、14日に豪7月失業率、英Q2GDP、米7月生産者物価指数(PPI)と米新規失業保険申請件数が控える。15日には日本Q2実質GDP成長率・速報値、中国7月小売売上高、米7月小売売上高と輸入物価指数、米8月NY連銀製造業景況指数、米7月鉱工業生産、米8月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値、6月対米証券投資を予定する。
  • その他、政治・中銀関連では、8月12日に豪準備銀行の政策金利発表、リッチモンド連銀総裁とカンザスシティ連銀総裁の発言、13日にシカゴ連銀総裁、リッチモンド連銀総裁、アトランタ連銀総裁の発言、14日はリッチモンド連銀総裁の発言が控える。
  • 以上を踏まえ、今週の上値は2024年9月安値と2025年1月の半値押し付近の149.30円、下値は50日移動平均線が近い145.75 円と見込む。 


【8月4~8日のドル円レンジ: 146.62~148.09円】

ドル円の変動幅は8月4日週に1.47円と、その前の週の3.63円から縮小した。週足では、3週ぶりに小幅上昇。前週比では0.33円の上昇となった。年初来リターンは前週の6.3%安から6.1%安へ小幅に縮小した。予想外に米労働市場の減速を確認した米7月雇用統計後、特に大きなイベントや米重要指標も予定せず、147円台を中心としたもみ合いに終始し、上値は21日移動平均線、下値は2024年9月安値と2025年1月高値の61.8%押しに当たる146.95円が意識された。

4日のドル円は、買い戻しを経て軟調。前週末の米7月雇用統計とクーグラーFRB理事の辞任、トランプ大統領による米労働統計局局長の解任を受けた流れの反動が出た。ロンドン時間に、一時148.09円まで週の高値を更新。しかし、米金利の低下もあって上値は重く、NY時間には一時146.87円まで本日安値をつけた。SF連銀総裁が年内2回以上の利下げが必要との認識を示したことで、戻りも限定的だった。

5日、ドル円は買い戻し。ドル円は共同通信が「日本との合意、文書に記載なし - 米税関当局、EUは明記」と報じ、トランプ政権が日本に個別関税を除き一律で関税15%を上乗せする見通しと報じたが、影響は限定的だった。むしろ、東京時間の序盤に前日のSF連銀総裁の発言を受け、一時146.62円まで週の安値をつけ、まもなく買い戻された。NY時間には、トランプ氏がCNBCインタビューで半導体の関税は来週に発表すると発言しても、反応薄。むしろ、米7月ISM非製造業景気指数の発表直前に、一時147.84円まで本日高値を更新。しかし、米7月ISM非製造業景気指数が予想より弱く、その後は上げ幅を縮小した。

6日、ドル円はもみ合い。東京時間に、6月毎月勤労統計調査が発表され、実質賃金が引き続きマイナス。エコノミストが注目する一般労働者の所定内給与の伸び悩みを確認した。それでも、ドル円は147円半ばを中心とした推移を維持。河野太郎前デジタル相による「円高誘導のため利上げが必要」との発言が報じられたが、瞬間的に20銭程度の下落にとどまった。ロンドン時間には一時147.89円まで本日高値を更新。NY時間には買いの流れが一服、一時146.98円まで本日安値を付けた。

7日、ドル円は軟調。現地時間の6日夜にトランプ氏が半導体に関税100%を課すと表明したが、ドル円は147円後半までの上昇にとどまり、その後は下落に転じロンドン時間入りには一時146.69円まで本日安値を更新した。その後、下げ幅を縮小もNY時間で発表された米新規失業保険申請件数が市場予想より弱く、戻りも限定的だった。

8日、ドル円は買い戻し。東京時間の序盤は、7月30~31日の日銀「主な意見」で、日米の関税交渉の合意や物価の上ぶれを踏まえ、「年内にも様子見ムード解除」の可能性が指摘された一方、「米関税政策の影響の見極めには少なくとも今後2-3カ月は必要」との文言もあり、買いを誘った。自民党の両院議員総会で、総裁選前倒しを念頭に総裁選管理委員会の開催可否を検討する運びとなったため、石破おろしへの警戒感からドル買い・円売りも出たもよう。ロンドン時間からは買いが優勢となり、NY時間にも流れと引き継いで一時147.90円まで本日高値を更新しつつ、動意に乏しく147円後半での見合いを続けて取引を終えた。

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