Weekly Report(2/5):「ドル円、米商業不動産ローン問題や米CPIの年次改定次第で再度下振れも」
安田 佐和子
この記事の著者
ジーフィット為替アンバサダー/ストリート・インサイツ代表取締役

世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事する傍ら、自身のブログ「My Big Apple NY」で商業活動、都市開発、カルチャーなど現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの研究員を経て、現職。NHK「日曜討論」、テレビ東京「モーニング・サテライトなどのTV番組に出演し、日経CNBCやラジオNIKKEIではコメンテーターを務める。その他、メディアでコラムも執筆中。

マーケット分析
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―Executive Summary―

  • ドル円の変動幅は1月29日週に2.69円と、その前の週の2.04円から拡大した。週間ベースでは、小幅反発。1月31日には、日銀が発表した1月金融政策決定会合の「主な意見」で、出口へ向け「議論を本格化させていく」との文言を確認し、ドル円の下落を誘った。さらに、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)が米商業不動産ローンの焦げ付きを受け、巨額の貸倒引当金を積み増すと共に赤字決算を計上した結果、ドル円は約2週間ぶりに146円割れをトライした。しかし、1月FOMC後は、引き締めバイアスを取り下げた一方で、市場予想ほどハト派ではなく、147円台へ戻した。翌日は、あおぞら銀行がNYCBと同じく、米商業不動産融資の損失に備え貸倒引当を積み増す上で、通期が赤字に転換すると発表。米新規失業保険申請件数の増加もあって、一時145.89円と約2週間半ぶりの安値をつけた。一転して2月2日の米1月雇用統計発表後は、非農業部門就労者数(NFP)の大幅増や、市場予想を上回る米1月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値を受け上昇。一時148.56円まで週の高値を更新した。
  • 1月30~31日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、パウエルFRB議長の発言もあって3月利下げの可能性は低下したとはいえ、量的引き締め(QT)の縮小をめぐる議論を3月のFOMCで本格化させる方針を明確化した。FRBは、緩和路線への転換が近いシグナルを送ったと言える。
  • 米1月雇用統計・NFPが前月比35.3万人増と2023年1月以来の高水準だったとはいえ、①年次改定の影響、②週当たり労働時間が短縮(需要の減退を示唆?)、③NFPを管轄する事業所調査の結果に反し、家計調査の就業者数は2カ月連続で減少し乖離発生、④人種別でみると、失業率は黒人とヒスパニック系で上昇――など、NFPの力強さと裏腹に、歪な労働市場の実体が浮かび上がる。従って、米1月雇用統計はFedの緩和策への転換を妨げるとは想定しづらい。しかも、直近の米新規失業保険申請件数は約2カ月ぶりの水準に増加していた。
  • 日銀も、「主な意見」でマイナス金利解除へ向け、本格的な議論を行う方針を打ち出した。4月のマイナス金利解除へ向け、蓋然性を強めたと言えよう。
  • 今週は2月5日に中国1月財新サービス業PMIと米1月ISM非製造業景況指数、上級融資担当者調査8日に中国1月消費者物価指数と生産者物価指数など、9日に米消費者物価指数の改定値の発表を予定する。ドル円は、テクニカル的に三役好転を維持するなど、引き続き地合いは強い。しかし、ADXは19.8と、節目の25以下であり、上昇トレンドに突入したと判断しづらい。
  • また、NYCBの巨額の貸倒引当金計上を受け、米商業不動産ローン問題への懸念が再燃。2月5日週も、複数の米地銀の決算を発表するだけに、同様の問題が噴出すれば、再び米10年債利回りの低下をもたらし、ドル円もつれ安となりかねない。しかも、5日にFRBが上級融資担当者調査を発表するだけに、貸出基準の厳格化を確認すれば、米商業不動産問題への警戒感が高まりそうだ。加えて、9日に発表を予定する米CPIの年次改定で、下方修正される余地を残す。
  • 以上を踏まえ、今週のドル円の上値は引き続き2023年11月戻り高値がある149.70円、下値は50日移動平均線が近い146.50円と予想する。

1.前週の為替相場の振り返り=ドル円、一時146円割れも米1月雇用統計後に148円半ばへ戻す

【1月29日~2月2日のドル円レンジ:145.89~148.56円】

(前週の総括)

 ドル円の変動幅は1月29日週に2.69円と、その前の週の2.04円から拡大した。週間ベースでは、小幅反発。1月29、30日は米連邦公開市場委員会(FOMC)を控え、模様眺めだった。ただ、1月31日には、日銀が発表した1月金融政策決定会合の「主な意見」で、出口へ向け「議論を本格化させていく」との文言を確認し、ドル円の下落を誘った。さらに、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)が米商業不動産ローンの焦げ付きを受け、巨額の貸倒引当金を積み増し、予想外の赤字決算を計上。これを受け、ドル円は約2週間ぶりに146円割れをトライした。しかし、1月FOMCでは声明文で引き締めバイアスこそ削除されたが、「自信が持てるまで」利下げしない方向が示された。加えて、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が3月利下げの可能性は低いと明言。同議長は、量的引き締め議論が本格化も3月となる見通しも発言したため、市場予想ほどハト派よりではないと判断され、ドル円は147円台へ戻した。

 2月1日には、あおぞら銀行が米商業不動産ローンの損失に備え、NYCBと同じく貸倒引当金の積み増しを発表、2024年3月までの連結業績見通しを下方修正し、純損益につき240億円の黒字から、280億円の赤字へ予想を一転させた。また、米新規失業保険申請件数の増加や、1月FOMCで緩和路線への転換が示唆されたことの見直しもあって、一時145.89円と約2週間半ぶりの安値をつけた。

 しかし2月2日、米1月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)が市場予想を大幅に上回ったほか、米1月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値も上方修正された結果、米10年債利回りが4%台を回復するに合わせ、ドル円も上昇。一時148.56円まで当該週の高値を更新した。

チャート:ドル円の1月以降の日足、米10年債利回りは緑線(左軸) 

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(出所:TradingView)

2.為替見通し=ドル円、米商業不動産ローン問題や米CPIの年次改定次第で再度下振れも

【1月29日~2月2日の為替予想レンジ:145.50~149.50円】

―1月FOMC、引き締めバイアスを削除し緩和路線への転換へ一歩進む

 1月30~31日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、声明文で「インフレ率を2%に戻すために適切とされる、あらゆる追加的な金融政策の引き締めの程度を決定する上で、委員会は金融政策の累積的な引き締め、金融政策が経済活動とインフレ率に及ぼす影響の遅れ、および経済と金融の動向を考慮する」の文言が削除された。引き締めバイアスを取り下げた格好だ。

 また、「FF金利の目標誘導レンジのあらゆる調整を検討する際、委員会は今後発表される経済指標や、変化する見通し、リスクのバランスを慎重に評価する」との文言を加えつつ、「インフレ率が持続的に2%に向かっているとの自信が一段と強まるまで、目標レンジの引き下げが適切になると予定しない」と明記。次の一手が利下げとのシグナルを与えた。

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