• Weekly Report(8/14):薄商いの中で「ピークアウトの水準とタイミング」を模索する展開継続
    吉岡 豪麿
    この記事の著者
    ジーフィット 取締役CAO

    国内大手金融機関の外国為替取引部門で外国為替、外国証券等のディーラーとして20年、海外金融機関でアセットマネージャーとして15年以上の経験を有する為替のエキスパート。貿易企業の経営者を経て、企業年金基金の資産運用を担当。2021年1月よりCAOとして投資助言部門を担当。

    マーケット分析

    テクニカル分析判断

    サマリー:

    ●短期:薄商いの中、想定を上回る強固な上昇圧力によって上値メドの模索が先行か

    ●中期:再検証でも「ピークアウトは早晩訪れる可能性が高い」との結論へ

    先週は「寄付141.66:141.51~144.99:終値144.93(前週比+3.18円の円安)」となり

    週足は4週ぶりに3円超もの大陽線を形成。また、日足では5日連続の陽線となって

    おり「方向感は明らかに“上昇”」だった上、5週前に5.77円まで爆発的に拡大した

    週間レンジは、その後4.27円、3.75円、3.20円と徐々にその幅を縮小していたが、

    先週は3.48円と高水準の中で再拡大した。他の金融市場と同様に出来高の減少こそ

    見られたものの、想定していた『方向感のない保合い・夏枯れ相場』とは全く趣を異に

    する相場展開が示現したことにより、我々は見通しの本格的再検証に迫られている。

    週末実施した再検証では「(中期的には)ピークアウトは早晩訪れる可能性が高い」との

    結論に至り「その後130円方向への下落トレンド再開」の可能性は依然残ると見ている。

    以下では『短期・中期・長期の方向性』について各時間軸チャートによるテクニカルな

    視点を中心にご案内。(今号の分析は2023/08/11のNY市場終値をベースに実施)

    <以下の用語補足:「MA」=移動平均線、「RSI」=(上下への過熱を示す)相対力指数>

    ➊日足チャート:「21MA±4.32%のバンド」、「52MA & 200MA」、RSIを付記

    短期(1週間~1か月弱)の方向性:薄商いの中で上値メドの模索が先行・継続か

    USDJPY D 20230811

    黒い〇は天井形成、エンジの〇は底打ちの時点(共に同色のRSI水準)を表す

    長期的ピークアウト(151.95@昨年10/21)との前提のもと、3つの下落トレンドライン

    ・その上方突破認定時にエンジの〇・その時のRSIにも〇(水準により同色とは限らない)

    ◎(上下の方向を問わず)突破認定は『終値ベース・複数回連続』を原則としている

    最初の鋭角的下落線の突破は今年1/23。以下主要な数値(2本目以降も同様)

    終値130.66、②各MA:21/52/200=131.13 / 134.94/ 137.15 、③RSI=45.3

    ⇒3本のMAより低い水準。特に200/52とは大幅な乖離。③はやや低めの中立領域

    (1本目より緩やかとなった)2本目の下落トレンド線の突破は約3か月後の4/17

    ①終値134.46、②各MA:21/52/200=132.26/ 133.46/ 136.77 、③RSI=58.2

    21/52MAよりやや上。200より依然下にあるが乖離はかなり縮小。③は中立領域

    (非常になだらかとなった)3本目の下落トレンド線の突破は更に約4か月後の8/11

    終値144.93、②各MA:21/52/200=141.57 /141.58/ 136.38 、③RSI=65.1

    3本のMAより高い水準。特に200とは8.6円もの乖離③は70に近い警戒領域

    以上より、当面は「上値メドの模索が先行・継続」する可能性が高いと考えられるが

     そのタイミングも含めて、ピークアウトに向け着実に接近中と認識している

    >>>想定レンジ=今週:142.50~147.00 、今後1ヶ月:136.50~147.90 =

    ➋週足チャート:「21MA±4.32%/±7.41%/±9.87%のバンド」&「52MA」、RSIを付記

    中期(1か月~半年程度)の方向性下落再開に向けピークアウトの確認待ち

    USDJPY W 20230811

    ◎上記の日足と同様に、長期的ピークアウト(151.95@昨年10/21)との前提のもとで

    3つの下落トレンドラインの上方突破の状況をより拡大して検証

    (これも同様に、突破認定は『終値ベース・複数回連続』を原則としている)

    最初の鋭角的下落線の突破は今年1/30週。以下主要な数値(2本目以降も同様)

    終値131.19、②21MA/52MA=138.44 (-4.32%=132.45)/ 132.95、③RSI=42.6

    ⇒21MAより大幅に低い水準で21MA-4.32%と-7.41%の中間。③は低めの中立領域

    (1本目より緩やかとなった)2本目の下落トレンド線の突破は約3か月後の4/17週

    ①終値134.10、②21MA/52MA=132.81/ 135.75、③RSI=50.3

    ⇒21MAと52MAのほぼ中間、③も中立領域のど真ん中に位置している

    (非常になだらかとなった)3本目の下落トレンド線の突破は更に約4か月後の8/7週

    終値144.93、②21MA/52MA=138.49 (+4.32%=144.45)/ 138.00、③RSI=63.3

    21/52MAより大幅に高い水準で21MA+4.32%より上。③はかなり高めの中立領域

    厳密に言えば直近の上方突破は今週の終値の確認後となるが、現状で「ピークアウト

    近し」を強く示唆する要因は希薄。当面は「上値メドの模索が先行」する可能性が

    高くそのタイミングも含めて、ピークアウトに向け着実に接近中と判断

    換言すれば「ピークアウトを確認するまでは下落トレンドの再開は困難」とも言える

    >>> 今後6か月間の想定レンジ 128.70~144.90 ⇒ 130.50~149.40 =

    ➌月足チャート:「20MA±18.0%のバンド」「60MA±30.0%のバンド」、RSIを付記

    長期(半年超~1年程度)の方向性本格的再検証に着手も、現状では大幅変更の材料不足

    USDJPY M 20230811

    7月は高変動率の中4カ月ぶりの陰線。本年2月からの下値切り上がりも遂に途切れた

    今週戻り高値の更新が確実。“反発局面は終息”の可能性は一旦消滅

    ●8月の終値を確認後となるが、現状では長期見通しを大幅に変更する要因に乏しく、

    「緩やかな下落トレンドの可能性は依然残存」を長期のメインシナリオとして維持

    ●昨年10月は20MA+18%と60MA+30%を同時に上回るという未曽有の異常な過熱状態

    ●一時85超まで過熱したRSIは中立領域に位置(65.7)も上昇よりも低下余地が大きい

    異常状態からの反落だけに「少なくとも20MA突破」に向けた軟化漸進の展開へ

    <現在134.34円の水準にある[20MA]は来月以降も約1.3円/月に上昇する見込み>

    ◎ただ、その動きも1年以内には底打ちし(超長期トレンドである)「USD高円安」方向

    へと徐々に変換してゆく可能性が高いと想定している

    >>> 今後1年間の想定レンジ = 128.70~146.10 ⇒ 130.50~152.70 =

    ファンダメンタルズ分析判断:簡略版

    先週のUSDは米債券利回りの上昇を受け、対円だけでなく他の主要通貨に対しても

    総じて上昇するという堅調な展開となった。7月の米消費者物価指数(CPI)や同卸売物価

    指数(PPI)など注目の経済指標はあったが、市場の事前予想値との乖離はさほどなかった

    にもかかわらず、大半は金利上昇方向での反応が主流となっていた。

    米国債利回りの上昇が「先行きの米景気悪化懸念」を増幅したことで、前週に続きそれ

    までのリスク選好ムードが一変、週末にかけてリスク回避優位の展開へと変化した。

    □主なUSD買い/円売り要因

    ①前々週のYCC修正ショックを緩和する「日銀の指値オペ」の継続(金利はやや低下)

    ②以下を主因とする米国債利回りの上昇

    ・引き続き「依然インフレ率は高すぎる」「追加利上げが必要」などFRB高官による

    タカ派発言が目立ち、継続的追加利上げ観測が一向に収まる気配を見せないこと

    ・軟調だった米30年国債の四半期入札

    ・若干ながらも市場予想を上回った7月PPI(⇔やや軟調だったCPIにはほぼ無反応)

    ③上記を受けた円キャリートレード活発化期待

    ■主なUSD売り/円買い要因

    ➊「経済データ次第で来年初めの利下げの可能性を排除しない」「おそらく来年は

    利下げを開始することになろう」などのFRB高官によるハト派的な発言

    ➋主要格付け会社による一部米銀の格下げ

    ➌前週の『海外格付け会社による米国債の格下げ』⇒ 米国(国債)に対する信認低下

    >>軟調な30年債入札>>リスクオフ展開から株価は反落

    ◆株式・債券両市場による「景気・金融状況」の現状/先行きの判断に甚大な乖離

    >>強気相場入りが鮮明な株式市場(上半期だけで米ナスダック総合は30%超上昇)

     ⇔ 縮小見えるも、依然深刻な景気後退を示唆する逆イールド(後掲のグラフ)

    □【短期~中期的視座】「USD/円相場の上昇」をサポートする要因は使い古しの観

    ◎明確な鈍化を見せない米国経済指標 ⇒「経済の軟着陸」期待の台頭加速

    〇欧米の利上げ継続観測(≒米金利がより長期間高水準にとどまるという観測)

    >>『タカ派なFRB・ECB、ハト派な日銀の明白なコントラスト』のむし返し

    ⇔ 今回「欧米のタカ派色希薄化の一方、日銀はハト派色後退」で逆方向へ

    〇昨今注目度が高まる日米実質金利差ならびに日米短期金利差の更なる拡大と

    それに伴う円キャリートレード復活/活発化に対する期待

    ⇔「欧米の利上げ打ち止め」並びに「日銀の金融政策正常化への漸進」という

    かつての「逆行する(金融政策の)方向性」に対する反転が視野に入りつつある中

    このロジックはいつまで通用するのか?

    ■【中期~長期的視座】先行きの「USD/円相場の下落」を示唆する要因

    ●銀行セクター不安から顕在化した“信用逼迫”への懸念は燻り続ける可能性大

    >>過去1年半にわたる利上げの累積効果による景気悪化は今後本格化

    >>>2023年通年での米企業倒産件数はリーマンショック後で最高に達するとの予想

    >>>海外大手格付け機関による一部米銀の格下げ

    >>>依然として軟化が目立ち続ける商業用不動産市況

    ●米債券市場での『逆イールド』が示唆する「米景気後退」の蓋然性の高まり

    >>>米債券市場での将来の景気後退を示唆する『逆イールド』は依然高水準

    >>>『逆イールド』幅は今年3月の最大値(▲1.08%)を7月に僅かに更新

    >>>ただし、その後少しずつではあるが徐々に縮小の兆しは見せ始めている

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    >>>10年債を含め名目金利も逆イールドも各々『限界的な水準』にあると判断

    >>>将来的に「FRBは“金融緩和(利下げ)”に向け漸進せざるを得ない状況」

    >>>株式市場の好調は「米利上げサイクルが終了に近いとの見方」も重要な要因

    ●【日本】現在の『異次元の金融緩和』に追加的(深堀りの)余地は皆無

    >>>今後の日銀の金融政策の選択肢は「現状維持」or「正常化」しか残されていない

    >>>いずれにせよ低下余地はほぼ無く金利の変化としては「上昇」するしかない

    >>>今回の「YCC修正」により『日本の金利は下げられない』ことが改めて明白に

    >>>欧米の利上げが終われば、内外金利差は縮小へ向かう(=「円の買戻し」へ)

    ●【日本】(更なる円安進行には)通貨当局による『円買い介入』の蓋然性が継続

    >>>高進するインフレに対し、金融政策面で抜本的な対抗措置(利上げ)を実施できな

    かった日本にとっては更なる円安の進行は看過し難い事態

    >>>昨秋、現在と類似した状況で行われた過去最大規模の円買い介入は145円台から

    始まり、その後断続的に徹底して水準を押し下げる強い意志を伴って実施された

    >>>現在、日本は「米国の外国為替監視対象国から除外」され、従前よりも市場介入

       の自由度・意思決定速度が向上する環境となってきている

    □【数年単位の超長期的視座】超長期的に「USD/円相場の上昇」をサポートする要因

    ①日本の貿易(経常)収支構造の反転(≒貿易赤字の常態化)

    >>>TRADOM内コンテンツ「為替の歴史」&「月足チャート」もご参照ください

    ②2005~2007年当時の円キャリートレードが復活する可能性(環境)の高まり

    >>>潤沢で安定した内外金利差、今後増加が見込まれる個人による海外証券投資、

    更には上記①で明らかになった本邦の「外貨不足」という需給動向

    今週も内外共に多数の経済指標の発表や7月の米FOMC議事要旨の公表等のイベントを

    控えている。しかし、「夏休みシーズン真っ盛りである」こと、過去には市場に変化を

    もたらすことが多かった「ジャクソンホール会議」を8月最終週に控えていること等を

    考慮すれば、いよいよ『(動きづらい)保合い・夏枯れ相場』が訪れそうだ

    ただ、過去2週と同様に「“薄商い”は必ずしも“低変動率”を意味しない」ことは、

    常に念頭に置きながら対応して行く必要があろう。

    お知らせ:米国を中心とする「世界のインフレ・景気・金融政策」の現状分析、並びに

    短期を中心とした見通しについては、GFIT為替アンバサダーでもある安田佐和子氏の

    レポート(Weekly Report等)に詳細かつ非常に解りやすく解説されています。

    TRADOMサイト内で、是非ご参照下さい

    ようこそ、トレーダムコミュニティへ!